44:男の子と犬の日
胸糞要素があります。
リンは歌った。
幸せの歌。思い出の歌。
それは笑顔にする歌。
人だろうと。
動物だろうと。
「人間に恨みを持ったタロマルだろうと…」
木の枝にのっていたタックが呟く。
「どういうこと?」
隣りにいるチックが問いかける。
「タロマルはな……人間に殺されたんだ」
タックは、クーシーに聞かされた話を語って聞かせた。
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その日。
何時ものようにドリームワールドで過ごしていたクーシーは、声を聞いた。
「ごめん…ごめんね」
切実な想いだった。
それこそドリームワールドまで届くほどに。
想いがクーシーに届いたのは、まったくの偶然。
今、ココに、クーシーが居なかったのなら、想いは誰に届くことなく霧散していたことだろう。
そして。クーシーが興味をもったのも。
牛のような巨体を起こしたのも、100年に有るか無きかの稀なこと。
偶然と、100年に1回の気まぐれとが重なって、クーシーは地上へと降りたのだ。
夜空を駆ける。
暗緑色の巨大な犬は、一筋のほうき星となって、瞬く間にその想いの主へと辿り着いた。
そこは病院の一室だった。
まだ9歳にもなっていないだろう男の子が、ベッドに寝かされていた。
口に人工呼吸器を取りつけられた男の子は苦しそうに唸っている。
その頭の上にクーシーはたゆたった。
巨体は縮んで、仔犬ほどの大きさになっている。
『何をそこまで自責している?』
クーシーは尋ねた。
男の子がうっすらと目を開ける。
「か…みさま…?」
『神ではない。自分はクーシー、あなたの想いに引かれてきた』
「ぼ、くの…」
『喋る必要はない。思えば、それだけでいい』
僕の想い?
『そうだ。あなたの深く自分を責める気持ちが自分をここまで呼んだ』
僕は犬を…タロマルという名前の犬を捨ててしまったんです。
ずっと一緒にいたんです。僕が生まれた時からタロマルとは一緒でした。
僕は体が弱くて、友達もいなかったから、タロマルだけが友達でした。
でも。
僕はタロマルとお別れしなくちゃならなくなったんです。
僕の病気が悪くなって、大きな病院のそばのマンションに引っ越しすることになって。
そこだとタロマルは飼えなかったんです。
『それで捨ててしまったのか?』
はい。
パパとママは、タロマルをご近所の人が引き取ってくれたって言ってたけど。
ほんとうは、山のなかに捨ててきたって知ったんです。
「…あや……まらない、と。タロ…マルに……」
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「それで、クーシーはその男の子の魂を憑依させて、この山に来ていましたのね…」
「ああ」
「ですけど」チックは、リンの歌に我を取り戻しつつあるタロマルを痛まし気に見た。
「酷すぎますわ」
タロマルは疾うの昔に死んでいた。
渇きと餓えである。
男の子の両親は、タロマルが後を追ってこないようにとリードで木に括りつけていたのだ。
バブル期。
シベリアンハスキーやゴールデンレトリバーといった大型犬を飼うのは、一種のステータスだった。
広々としたリビングで大型犬と戯れる。そんな海外にあるような生活を望んだのだ。
けれど、大型犬を飼うというのは難しい。
1日に2度の散歩はあたりまえ。餌代だってかかる。シベリアンハスキーは野生をたぶんに残しているので根気よくしつけないと『ばか犬』になってしまうし、ゴールデンレトリバーもブラッシングにトリミングと、手間以上にお金がかかる。
だから……飼えなくなった。いいや、飼うのが面倒になった飼い主が山にペットを捨てる事件が多発したのだ。
家電を捨てるように、家族であったはずのペットを捨てたのだ。
「タロマル」
男の子の姿となったクーシーは、ついにタロマルと抱き合った。
「ごめんね」
クーン、とタロマルが甘えるみたいに鼻をこすりつけている。
「よかった、よかった」
呑気なリンである。
ただ単純に、クーシーとタロマルとが仲直り出来て安心しているのだ。
くー、とお腹が鳴った。
リンだ。
「お弁当、食ーべよ」
ちょっと考えて、リンはここでお弁当を広げることにした。
だって、戻ったら確実に翔姉えと純ちゃんに怒られて、食べるような余裕がなさそうだし。
倒木のうえに腰掛ける。
苔が生しているので、お尻のしたはフカフワだ。
リュックからお弁当を取り出す。
アルミホイルで包まれたおむすびが3つ。それにタッパーに入った唐揚げや厚焼き玉子、イシイのおべんとクン・ミートボールといった定番のおかずだ。
「いただきまーす」
食べようとしたリンは、ふと視線を感じた。
クーシーとタロマルが、ジッと見ていた。
リンを、じゃない。お弁当をジ~と見ていた。
「食べる?」
「いいの?」
クーシーが訊いてくるので
「いいよ」
リンはうなずいた。
クーシーがリンの隣りに座る。タロマルはクーシーの前でお座りだ。
「はい、どれか取って」
リンはナプキンに広げた3つのおむすびを差し出した。
クーシーが1個をとる。
「タロマルも食べる?」
リンが訊けば「わん!」とタロマルが吠える。
だから、リンはアルミホイルを外して、1個をタロマルの前に置いた。
因みに。犬に海苔は与えないほうがいいそうです。
リンは残った1個を頬張った。
「当たりだ!」
中身は高菜漬けだった。凛の好物である。
「クーシーのは?」
「僕のはシャケ!」
僕? なんだか言い方が変わった気がする。それに、見た目も。微妙に男の子に見える。
と、そんなことを思ったのも少しだけ。
「だとしたら、タロマルのは昆布(の佃煮)かな?」
わん! 正解、とばかりにタロマルは吠える。
※もちろんですが。犬に佃煮は駄目ですよ?
おかずを分けて食べて、魔法瓶にいれてきた、ちょっと温めの麦茶を交互に飲む。タロマルのぶんはクーシーが手の平をお皿にして飲ませていた。
「「 ごちそうさまでした 」」
きちんと感謝するリンとクーシーである。
わん! タロマルも偉い。
クーシーが立ち上がった。
「ありがとう、最後に良い思い出ができたよ」
はは、とリンは笑った。
「最後? また会って遊ぼうよ。タロマルと一緒にさ」
クーシーは……ちょっと戸惑ったようにリンを見た。
そんなクーシーにリンは言う。
「だって、もう友達じゃん」
一緒に山を歩いて、一緒にご飯も食べた。
それだけで、もう凛のなかでは友達認定なのだ。
「友達?」
クーシーがおずおずと口にする。
「うん、友達だよ。そういえば、ボクの名前をまだ言ってなかったね。ボクは干原凛」
「僕は……梅下春馬」
「あれ? クーシーじゃないの?」
春馬はニッコリと笑った。
「さよなら、凛」
そうして。
ふっ、と春馬とタロマルは消えた。
ようにリンには見えた。
実際には春馬はソコにまだいた。
ただ、タロマルは消えていた。
リンは目をパチクリだ。
「お疲れだったな、凛」
タックが肩にのって言う。
「大したものですわね」
タックも肩に戻って来て言った。
リンとしては『?』だ。
「春馬、タロマルが居なくなっちゃったんだけど?」
「自分は春馬ではない、クーシー」
?? のリンだ。
「そう…なの?」
「自分は人間が好きじゃない。わがままで、己のことしか考えてないから」
よくわからないけど、怒られてるみたいだ。
リンは眉を下げた。
「だが。あなたのような人間がいるから嫌いにもなれない」
んん? 褒められているのかな?
下げられて、上げられて、頭がこんがらがるリンだ。
そんなリンを、2匹のハムスターが優し気に見ている。
「あなたには借りができた。なにかあれば力になろう」
そう言うや、クーシーは
「また会おう、凛」
と言い残して掻き消えた。
リンはといえば。
「どーゆーこと?」
意味が分からずにタックとチックに尋ねても
「いいってことよ」
「気にしなさんな」
とはぐらかされるだけだった。
その後である。
タックとチックのおかげで迷うことなく展望台まで戻れたリン…ならぬ凛だったが。
怒られた。
「何処行ってたの!」
「探したんですよ!」
翔子と純菜は、お弁当も食べずに凛を探していたのだ。
しかも先生も探してくれていた。
だから先生たちにも叱られた。
そうして、家に帰ったら正彦とむつみにも雷を落とされて。
散々な凛なのであった。
急いで書いたので、おかしな部分があるかも。
夜に見直します。
で。明日は『異世界殺人鬼大全』を投稿したいので、TSリンの投稿はありません。
よろしくお願いします。
6/16 おかずに「イシイのおべんとクン・ミートボール」を追加




