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43:クーシーの犬探しの日

「お前! クーシーじゃないか!」


「あらホント。こんなところで何をしてらっしゃるの?」


凛のフードからタックとチックが出てきて、肩にのると言った。


「やあ、お2人さん」


暗緑色の髪をした子…クーシーが無表情に、それでも口調だけは気さくに手を上げる。


「タックとチックの知り合いなの?」


「こいつはな、クーシーって言うんだよ」


「あたくし達と同じ妖精で、ドリームワールドの仲間ですわ」


クーシー。ケルト神話に登場する犬の姿の妖精である。体毛は暗緑色をしており、体は牛のように大きく、クルリンと丸まった尻尾をもっている。普段は妖精たちを守ってくれている。


「犬?」


タックとチックの説明を聞いて、凛はクーシーを見た。

どう見ても人間の子供だ。


「今は、事情があって人間の姿になってる」


クーシーがやっぱり無表情に説明してくれる。


「それにしても、よくボクがドリームワールドに関係してるって分かったね?」


「匂いがした。自分の鼻はとても良い」


無表情ながらもクーシーが胸を張る。


なるほど、犬だからかな? そんな風に凛が呑気に思っていると


「タックとチックが居るということは、あなたが魔法を与えられた凛?」


「ん、そだよ」


「お願いがある。自分、犬を探してる。探すのを手伝ってほしい」


ん~、と凛は少しだけ考えて


「いいよ」


気軽に了解した。


まだ11時でお弁当をつかうまで時間がある。


「じゃ、行こう」


クーシーが凛の手を掴んだ。


「え? いや、ちょっと。翔姉えと純ちゃんに…」


ひと言断っておかないと。


という言葉を言う余裕もなく、クーシーは体格から想像もつかない力強さで凛を引っ張って山の中へと入っていくのだった。






「どこら辺にいるのさ?」


クーシーとお手手をつないで道なき山をさまようこと20分。


凛は都合10回目となる質問をした。


「ここらへん」


お? ずっと「もう少し」と言っていたのに変化があった。


「じゃ、手分けしよう」


凛はクーシーと手をはなして、犬探しを始めた。


「おーい、おーい、」と呼びかける。


「タロマルやーい!」と道行きの途中で聞いた犬の名前を呼ぶ。






「おい、クーシー」タックはクーシーの暗緑色の頭髪のうえで腕組をして

「お前が人間界に来てるだなんて聞いてないぞ」問い詰めていた。


「…特例」


「嘘つけ! 妖精王から連絡が来てないってことは、秘密でドリームワールドから降りてきたんだろ?」


「…そのとおり」


「それに、その姿。お前……人間を喰ったのか?」


クーシーが歩みを止める。


「そんなことはしない」


「わぁーた。信じてやるよ。で? 理由は教えてもらえるんだろうな?」


ふぅ、とクーシーは溜め息をつくと、ぽつぽつと話し始めたのだった。






「あれ? タックがいない」


ふと気づいた凛である。


「タックなら、クーシーと一緒に行きましたわ」


チックが教えてくれる。

こっちも凛の坊ちゃん狩りのてっぺんで腕組みしている。フードみたいな狭い場所に押し込められているので、解放されると、どうしても広々とした場所に居たくなってしまうのだった。別に2匹とも頭の上が好きという訳ではないのだ……たぶん。


「そっか」とうなずいてから、凛は思い出したように

「積もる話もあるだろうしね」


言って、ドヤ顔である。


積もる話。大人たちが使っていてカッコイイと思った言葉だ。

それを思いがけず口に出来てしまって、満足な凛なのである。


一方でチックは「はいはい」と言った感じだ。

チックはクール系女子なのである。


けど、こんなふうにあしらわれても凛は気にしない。むしろ、今まで身の回りでなかった反応だけに、新鮮に感じているぐらいなのだ。


ぐるる…!


聞こえた音に、凛は笑ってしまった。


「あはは! チック、お腹が空いたの?」


「はぁん? 何をおっしゃっているのか分かりませんが?」


「だってさ」


ぐるる…!


「ほら、お腹の音が」


体の割にずいぶんと大きな音だ。


「このお馬鹿!」


チックが叫ぶなり凛の肩に飛び下りて、木立のほうを指さした。


「あそこを見てごらんなさい!」


犬がいた。大型犬。シベリアンハスキーだ!


ぐるる…!


歯をむき出しにしてシベリアンハスキーがうなっている。


「タック!」


チックが叫んだ。


瞬間。凛のそばで風が巻いた。

すると、ソコにタックを頭にのせたクーシーがいた。


「チック!」


名前を呼んで、タックが凛の肩へと飛び移る。


「見つけたわよ」


「そうみたいだな」


チックがテレパシーでタックを呼んだのだ。

風のように移動できたのは、クーシーの能力である。


クーシーは、敵意も露わなシベリアンハスキーに歩み寄った。


「タロマル」


けれど。


ガアアア! タロマルが飛びかかった。


クーシーの姿が掻き消える。


ひゅ、と風がまたしても凛のそばで巻いた。


クーシーがあらわれる。


「タロマル…」


クーシーは幾度も幾度もシベリアンハスキーのタロマルに近寄っては、飛びかかられた。


凛は何だか泣きたくなってしまった。

どうしてそこまで、と思う。


「見てられませんわね」


ぼそりとチックが呟く。


「そうだ!」タックが閃いたとばかりに声をあげた。

「凛! 魔法でリンになるんだ! そんで歌でタロマルを大人しくさせるんだ!」


「わかった!」


凛は、魔法の口紅を取り出した。


「ヘイ!」


ステッキにして。


「ペペッチ、ポポッチ、レレンチカ。ポポッチ、ペペッチ、レレンチカ!」


凛はリンへとT〔天使に〕S〔スイッチ〕したのだ!

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