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40:陽子の夢が叶う日

もう1話、いっときます!

突然ですが、リンの頭の中にBGMが鳴っております。

国民的RPGでモンスターと遭遇した時のBGMであります。


ちゃららららら~、フンガフンガフンガフンガ♪


ちなみに3です。ソフトの発売日が平日だったせいで学校を休む子供が続出、ひと晩中ならんで購入してもカツアゲされたり、抱き合わせ商法をされたりと、社会現象になったアレであります。


そしてリンの前にあらわれたのは。


どろんこの手みたいなモンスターでどんどん仲間を呼んで増殖する、マドハンド……じゃなくて、幼児たちだった。


「お姉ちゃん、見たことある!」


「ほんとだ、テレビで見たことある!」


まず寄ってきたのは女の子の2人組だった。

ロビーだった。ジュースでも飲もうと思ったリンを目敏く見つけたのが、この2人だった。


それからマドハンドならぬ幼児は「ねぇねぇ、みんな! こっち来て!」と仲間を呼んだのだ!


「何してんの?」


「名前おせーて」


わらわらと男女問わずに幼児に囲まれて、ナンパみたいな言葉をもらうリンである。


しかも誰だか知らないけど、エロガキがスカートめくりを仕掛けてくるじゃないか!


リンは心は男だ!

なのにスカートめくりをされると、なんともいえずに恥ずかしくって、ついスカートを押さえてしまった。


そんなリンの様子を保護者のお母さんたちがニコニコと見守っている。


揉みくちゃである。


けれども「ヘルプ!」とは言い出せないリンなのだ。


だって、中身は男の子だもん!

ガキンチョ如きに負けてはならぬのだ!


というわけで、リンは小うるさくまとわりつく幼児をくすぐることにした。


「反撃開始だ!」


次から次へと幼児を寝転がせてはくすぐっていく。


あひゃひゃはひゃ!


しかし敵は10人。

倒したと思っても、次から次へと回復しては、リンに襲い掛かって来る。


そんなはたからみたら、幼児と戯れる美少女を、保護者ばかりか通りがかったテレビ局の局員やスタッフもほっこりと眺めている。


まさかリンがマジで幼児を負かそうとしているとは、誰も思い及ぶはずがないのだった。


激闘は5分に及んだ。


「無理だ!」


リンは逃げた。負けを認めるのも時には必要なのだ!


幼児どもが追いすがろうとするけれど、そこはさすがに保護者が許さずに取り押さえられている。


だがそうとは知らないリンは全力全開で逃げ続けて、隠れた倉庫で


「これだ!」


陽子の脱いだハムハムの着ぐるみを見止めて、これを着ることにしたのだった。






リンならぬハムハムは、陽子がいるはずのスタジオへと足を運んだ。


しかしソコは……動物園と化していた。


わーきゃー、と幼児たちがセットをじままに走り回り遊びまわっているのだ。


「みんな! おねえさんとお歌をいっしょに歌いましょう!」


お化粧をして見違えるほど奇麗になった陽子が呼びかけるけど、幼児たちは聞いてもいないようだ。


きっと最初の一歩目で、幼児たちに舐められてしまったのだろう。


それでも最低のラインで幼児たちはセットから飛び出してはいない。

ここから出たら、お母さんに怒られると理解しているのだ。


子供って意外と悪賢いのだ。


ギリギリのラインを見定めたうえで、悪戯をしたりするのだ。


プロデューサーが、ジッとキツイ眼差しで陽子のことを見ている。


ハムハムを着たリンはプロデューサーに近寄った。


ギョっとしたようにプロデューサーはハムハムを見たけれど、適当なスタッフが陽子の代わりに入っているのだと勝手に理解して


三木みきならやれると思ったんだがなぁ」


嘆息した。


「面接のときの三木の熱意は、そりゃー大したもんだった。俺は、あいつを押してたんだ」


でもなぁ。プロデューサーは諦めたような口調で続けた。


「駄目かもなぁ。三木は子供ガキの扱いってもんをわかってない。初対面で優しく接っしちまったから、すっかり馬鹿にされてら。子供ガキってのは、厳しく接っしないとならないんだよ。その点でいえば、あの遅刻女は分かってた。のんべんだらりとして子供ガキにちっとも興味を向けてない態度が、むしろ子供ガキに良い意味で怖がられてたからな」


保護者のお母さんたちも子供をいさめようとはしない。

分かっているのだ。注意して大人しくさせても、その時点で幼児向けの番組として成立しないと。幼児は演技ができない。無理矢理に大人しくさせたところで、笑顔もまた出てこなくなってしまう。


陽子は半ばパニックを起こしているようだ。


もうヒステリックに叫んでいるだけにも見える。


それが面白くて、幼児たちは余計に騒ぐ。


翔子と純菜はと探せば、スタジオの隅で手の出しようもなく見ているだけだ。


「こんなん、駄目だ!」


リンはノッシノッシと陽子のもとへ足を運んだ。


突然のハムハムの登場に、うんざりと状況を見眺めていたスタッフが興味を持って目を向ける。


「ハムハムだ!」


気付いた子供たちが、わらわらと集まる。


リンは、プロデューサーに向けて指先を突きつけた。


「音楽、プリーズ!」


肩を竦めて、プロデューサーがスタッフに指示をだす。


音楽が始まった。

TVHの幼児向け番組『お歌のひろば』のオープニング曲だ。


リンは踊った。


「ハムハム下手っぴ!」


子供たちが大笑いする。


それはそうだ。凛は、陽子の踊っているのをスタジオで1回しか見てないのだから。上手に踊れるはずもない。


だけど、リンは踊った。


踊りながら、へたり込んでハムハムを見上げている陽子に話しかけた。


「諦めるの?」


と。


「夢をそんな簡単に諦めるの?」


踊りを止めて、陽子に……おねえさんに手を差し出す。


陽子。いいや、おねえさんはハムハムの手を取って、立ち上がった。


リンは大きな声で言った。


「ボク、踊りが下手っぴになっちゃった。おねえさん、教えてよ!」


「しかたないなぁ、教えてあげる!」


陽子おねえさんは応じるみたいに大きな声で応えると、音楽に合わせて踊った。


スタジオで見たように。

大きな手振り足振りで。

幼児の興味をひくように、おかしみを込めて。


笑顔で!


それを見ていた幼児たちが、1人、2人と踊りだす。


ガツン! とやれたのだ。


幼児たちは、上手に踊る陽子を『おねえさん』として認めたのだった。


そのまま収録は続く。


オープニングから、しりとりコーナーをして、体操にお絵かき。そうして30分番組の収録は、つつがなく終了した。


「ハイ、OKです!」


スタッフの言葉と同時に、陽子はその場にクタクタとへたり込んだ。


プロデューサーが遣って来る。


陽子は怒られると思った。だけど


「よかったぞ」


「へ?」


パチパチと目をしばたたいてプロデューサーを見上げる。


この人が他人を褒めるのを初めて聞いたのだ。


続いて


「来週からも頼むぞ」


そう言われて。けれども陽子は、小首を傾げてしまった。

内容が頭に入ってこなかったのだ。


「あ、あの~。今、何と?」


ついタメ口をきいてしまう陽子である。


プロデューサーはフンと鼻を鳴らした。


「3度は言わんから、よく耳をかっぽじって聞け。来週からも頼むと言ったんだ」


マジマジと。

陽子は信じられない思いで、プロデューサーの厳つい顔を凝視した。


「返事は!?」


プロデューサーが叱りつけるみたいに訊く。


「は、はい! 頑張らせていただきます!」


陽子は答えた。


答えると、ようやくに夢が叶ったのだと実感した。


ポロポロと涙がこぼれる。


「あ! おじさんが、おねえさん、泣かした!」


子供たちが集まって来て、騒ぎ出す。


プロデューサーは「チッ」と舌打ちをすると、面倒くさそうにその場から逃げ出した。


お母さんたちも、騒ぐ子供たちを引き取って、スタジオを出て行く。


セットに残されたのは、陽子と


「やりましたね!」


翔子に


「よかったですわね!」


純菜。


それに「うっし!」とガッツポーズを決めているハムハムだ。


陽子は改めてハムハムに目を向けた。


「あなたのおかげです。ありがとうございました」


「どってことないよ」


言いながらハムハムは頭部を脱いだ。


陽子の目が驚きに見開かれる。


だって、彼女のことは知っていた。

テレビで見た!


「「 リンさん! 」」


翔子と純菜が驚いて


「なんでハムハムに?!」


プロデューサーも、居残っていたスタッフも、みんなをリンは驚愕させたのだった。

めでたし、めでたし。

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