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04:翔子にリンとして再会した日

「おっし!」


ガッツポーズをした凛は、ふぅ、と息を吐いた。


時刻は7時50分。まだ翔子は来てない。しょうえが来るのは確か…。

凛は思い出す。

8時の……そう! 8時5分のちょっと前ぐらいだ。


このまま待っていれば翔子は遣って来るだろう。


でも、待っているだけなんて凛には無理だった。


会いに行くんだ!

迎えに行くんだ!


無事であることを確かめたくて、凛は駆けた。


翔子とは約4年間を一緒の同じチームにいただけに、試合会場の公園だって幾度となく自転車で連れ立って来ていた。だから、彼女の道行きは分かっている。すれ違うことなんて、ない。


駆けて駆けて、息を乱しながら駆けて。


「あ~もう!」


とサンダルを脱ぎ捨て、裸足になる。


光ヶ浜の街は清掃が行き届いているから、路上なら裸足で走っても痛いことなんてない。たとえそれが女の子の柔らかな足裏であってもだ。


そして、また駆けて。


…1分もしないうちに凛は膝に手をついてしまっていた。


「体力…なさすぎだろ……」


ヒョロリとして細っこい体型からして不安だったけど、予想以上に変身した後は持久力とか筋力とかが落ちているようだった。


それでも凛は走る。

休み休みでも走った。


翔子の無事を確かめたい一心で。

翔子に会いたい一心で。


公園を出て、園芸店の前を抜けて、図書館の脇を通って…。


「あ!」


凛は先の道から、自転車を立ち漕ぎして遣って来る少女の姿を発見した。


「…う、うぅ」


凛はその場で安堵から膝をついてしまった。

ポロポロと涙がこぼれる。


キキー、と凛の横で自転車が急停止した。


「あの…どうかしましたか?」


翔子が自転車から降りて心配げに訊いてくる。


凛は涙でグシャグシャの顔をあげた。


「…かわいい」


翔子が思わずといった態で呟く。


そんな幼馴染みに、凛は「よかった!」と抱き着いた。


「え? えええ!?」


何やら騒いでいる翔子に、凛は構うことなく、構う余裕なんて無くて、ぎゅっと抱き着いた。


あたたかい。

やわらかい。


翔子がココに居た。


「ええ~ん」と大泣きに泣いてしまう。


性別が変わって、少しばかり肉体に感情が引っ張られているのかも知れない。


「どうしたんですか? 泣かないでください」


抱き着かれて膝立ちになりながらも、翔子はポンポンと見知らぬ少女の背中を叩いてなだめる。


それでようやく、凛は泣き止んだ。


涙をたたえた金髪の少女と、困惑したボーイッシュショートの少女とが向かい合う。


「…日本人、なの…かな?」


翔子が頬をほんのりと染めながら独り言ちる。


それほどに凛は日本人離れした顔立ちをしていた。いいや、正確に言えば欧米人とも違っている。人間離れした…夢物語のなかから零れ落ちてきたような、そんな容姿をしていた。


翔子の疑問符に


「だよ」


と凛が、当ったり前じゃん。と言わんばかりに答える。


「そうなんですか、日本人なんですか」


はぁ、と翔子が感嘆する。


「あたし、翔子って言います」


いきなり自己紹介されて、凛は小首を傾げた。

けどまぁ、取り合えずといった感じで名乗り返す。


りんだよ、ボク」


「ほんとですか?! 偶然ですね、あたしの知り合いにも同じ名前の男子がいるんですよ」


と言われて、凛は自覚した。そうだった! ボクは今、変身しているんだった。

凛は翔子と会ったことで、すっかりと少女になっていることを忘れてしまっていたのだ。何度でも言おう、凛はちょーとばかし抜けているのだ。


頭の中に精霊王の言葉が思い出される。『正体がばれたらばつがあるから』。


内心で動揺する凛に


「あの…なんで泣いてたんですか? 靴も履いてないみたいですけど?」


と翔子が突っ込んでくる。


「え、と…そのね、迷子になっちゃって。それで靴も重いから捨てちゃって」


「じゃあ、リンさんは最近になって光ヶ浜に?」


「う、うん。そうなんだ。引っ越してきたんだ」


「そういうことですか。なら、交番まで送りますよ」


言って、翔子が立ち上がる。


え! と今度こそ凛は顔色を変えた。


「い、いや、その…交番は」


ノーサンキュー。と言う前に


「でも、その前に人を探さないといけないんです。ちょっと、ココで待っててもらえますか?」


「その探してるのって、男の子…?」


「そうです! 小4ぐらいの男子。さっき言った『りん』さんと同じ名前の子なんですけど、こんな嵐の日に出歩いて、公園にいるみたいなんですよ。だから、あたし、そいつを探さないといけなくって」


「その子なら、会ったよ」


「え!」


干原ほしはら凛…くんでしょ? 公園で会って、家に帰ったよ」


「そうですか…。でも、道の途中で会わなかったけどなぁ?」


ギクリ、とする。


「え、えっとね。ほら、チンチン電車で帰るって言ってたから」


「…そっか」


納得したように翔子は頷いたけど、次の瞬間


「あいつぅ!」


キリリと眉を吊り上げた。


「ど、どうしたの?」


普段以上に激おこしている様子の翔子に、凛はおずおずと尋ねる。


「だって、あの馬鹿ちん! りんさんが道に迷ってるのほっぽって1人で帰っちゃったんでしょ?!」


やばい! と凛は焦った。このままだと、次に凛として会った時、ゲンコは確実だ。プラスすることの正座でお説教も間違いない。


冗談じゃない!


というわけで、凛は大慌てに言った。


「ち、違うから! 公園では迷ってるって凛くんには言ってないから! 凛くんは年下だし、だからその、言えなかったの!」


「…そっか。まぁ、困ってる人を置いて行くような奴じゃないっか」


「そうだよ、そうそう!」


翔子はフンス! と大きく鼻息をつくと、改めて微笑んでから膝をついている凛に手を差し出した。


「送りますよ」


「でも…」


「あたし、鍛えてるんです! りんさんぐらい軽そうなら2人乗りしても余裕ですから」


「だったら」


凛は言った。


「駅まで、お願い。駅からなら、迷わないで家に帰れるから」


そう。あの時と同じ道を通らなければ、事故に遭うことはないはずなのだ。

待っていた方、すみませんでした。

ようやく投稿しました。


次回は、事故に遭ってしまったかもしれない路面電車を救うために歌います。

いよいよ、魔法少女の本領を発揮です!


あ、あと! 自転車の2人乗りは違反です!

作中は昭和のバブリーで大らかな時代なのでOKってことで。

お願いします。

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