39:緊張する陽子の日
これっぽっちを書くのに2時間かかる。
なんで、こんなに時間がかかるのか!
シャワーを浴びて、汗を落としてから控え室に戻って来た陽子は、誰がどう見ても緊張していた。
「どうしよう」
不安そうにつぶやいている。
「ねぇねぇ、そんな顔してたら駄目だよ」凛は言うと、ニッコリ笑って見せた。
「スマイル、スマイル」
「ス、スマイル」
ニ~と陽子は笑顔をつくるけど、スタジオで凛たち3人を相手にしていた時みたいに自然な笑顔じゃない。いかにも取ってつけた引きつった笑顔だ。
「それじゃあ、子供が逃げちゃうよ?」
「そ、そんなこと言われても…」
「これはチャンスなんだからさ!」
サッカーをしている凛は自己主張ができる。何故なら、プレーを監督の目に留めてもらって、はじめてレギュラーに選ばれるのだから。そんな凛だから、緊張はしても体が硬くなるようなことはない。むしろ、緊張を楽しんでワクワクできちゃうのだ。
けど、陽子は違った。
「そうですよね、チャンスなんですよね…」
これが最後のチャンスだと思ってしまえば、よけいに力が入って緊張してしまう。
そんな陽子を見兼ねて
「陽子さん、リラックスしないと。まずは深呼吸しましょ?」
翔子が言った。
彼女は陽子の気持ちがよくわかった。サッカーをしていても、レギュラー決めの争いをする度にひどく緊張したものだ。どこかの誰かさんみたいに、わくわくなんてできやしなかった。
スーハーと陽子が深呼吸をする。
それで幾らか体の強張りが抜けたようだ。
お次は純菜だ。
「わたしは、できる! 陽子さん、繰り返して」
「わたしはできる」
「声が小さいですよ!」
「わたしはできる!」
「そう! もう一度!」
「わたしはできる!」
これは純菜が姉の若葉に教わった方法だった。口に出して言うことで、自分自身に言い聞かせるのだ。
「では、お化粧をしましょうか?」
純菜は言うと、陽子に断ってから彼女のポーチの中の化粧品を化粧台に広げた。
フェイスパウダーに、リップクリームに口紅、チークとティッシュ。最低限度の化粧品だ。
「あまりお化粧に興味がなくて…」
恥ずかし気に陽子が言う。
「お化粧直しならこれでいいんですけど、うたのおねえさんになるんですから、しっかり綺麗にしませんと」
パンパン! 純菜は手を叩いた。
「は!」
何時の間に!
控え室の扉の前にスーツ姿の女の人がいた。言うまでもない、純菜の隠密だ。
「化粧道具をお願いします」
「承知」
隠密が出て行く。
「え? 今の人? 誰? 何時からいたの?」
陽子が戸惑っているうちにも『コンコン』とドアがノックされた。
ガチャリと返事を待つほどもなくドアが開けられて
「お持ちいたしました」
隠密が帰ってきた。
純菜は「ありがとう」とひと抱えほどもある四角いバッグを受け取ると、蓋をあけた。
なんだろう? とばかりに凛が脇から覗き込む。
なかは化粧品だった。
なにか色々種類がある。
「わたし、お化粧にはちょっとばかり自信がありますの」
純菜は言った。
幼い頃から人前に出なければならなかった純菜は『化粧こそが女の戦装束』と思っており、強いこだわりがある。そのこだわり故に、他人に化粧を任せるのを良しとせず、何時の頃からか、パーティー前などでは自分で化粧をするようになっていた。
つまり。純菜は、そこいらのメイクアップアーティストよりも腕がいいのだ。
「子供相手ですから、ナチュラルに見えるようにしましょうね」
純菜はやる気満々だ。
そして翔子も
「陽子さん、ちいさな子供って最初にガツンとやらないと舐められますからね」
アドバイスをし始めていた。
なんせ翔子はサッカーチームで、女の子という理由だけで新加入の1年生の世話を任されていた実績がある。それも翔子が中学年のときからである。
そんな翔子に言わせると。
『ちいさい子は、お猿さんと同じ』
なのだ。
いっとう最初に侮られたら、そこで決まってしまう。
言うことを聞かなくなってしまうのだ。
だから、最初が肝心。ガツンとやらなくてはならない。
翔子は、サッカーのテクニックをみせつけてガツンとやった。
「陽子さんなら、踊りで見せつけたらいいかもしれませんよ?」
「できるかしら?」
陽子はずっとハムハムをしていた。着ぐるみは、それだけで子供の心を鷲掴んでしまえる。でも生身となると別だ。ちいさな子供の気をどうやって引いて、どのように相手にしたらいいのか分からないのだ。
「できますって!」
翔子と純菜はそれぞれが、陽子にかかりっきりになっている。
凛は『今のうちに変身しちゃお』と考えた。
ドアの横にいる隠密さんにペコリと頭を下げて
「おしっこ、行ってきまーす」
と控え室をあとにしたのだった。
トイレに直行する。
今日はキチン? と女子トイレだ。
10歳男子が女子トイレ……ぎりぎりアウトだろう。しかし、今回は気にしないでいただきたい!
男子トイレにはADっぽい人やらが結構いたのだ、仕方ないのだ。
個室に入って。
「ペペッチ、ポポッチ、レレンチカ。ポポッチ、ペペッチ、レレンチカ!」
クルクルクルリンのボールを蹴り上げ~の、金色のシャワーを浴びて、凛はリンへとT〔天使に〕S〔スイッチ〕した。
本日の衣装は。七分丈のTシャツにデニムのミニスカートである。簡素ではあるが、それだけにリンのスタイルの良さが際立って分かった。ひと言でいえば『脚、なげ~!』と感嘆してしまう服装だ。
ちぇ、スカートか…。なんて文句をリンは漏らさない。
諦めたのだ。受け入れたのだ。
「さて、どうしよっかな…?」
「なんだよ、達也ンとこに行かねーのか?」
タックが言う。
「待ち合わせの時間まで2時間以上ありますもの」
チックが言う。
「そ~いうこと」
リンはトイレをでると、そぞろ歩き始めたのだった。
E3見ました?
ラスアス2、ゴースト対馬、バイオ2にキンハー3、仁王2、小島監督の新作!
すごいぞ!
個人的にスパイダーマンは……いまいちっぽかったなぁ。
なんか大味。




