36:遊園地でリンの日
今回は、ちょびっと長いです。
でも、遊園地編はこれでお終いなので、頑張って読んでみてください。
目標として、テンポよく、ポンポンとお話を展開させていきたいです。
3人は遊園地で遊んだ。
遊びまくった。
なんせ、正彦とむつみから凛のお守り代をもらっているのだ。
5000円である。
実を言えば、翔子がわざわざリンを連れ出した理由のひとつが、このお駄賃目的だったりするのだが。
凛は知らぬが仏という奴だろう。
いやいや、翔子が酷いとかないですから。
誰だって学生の時はお金のやりくりに困るものでしょ? その点、お金持ちの純菜にたからない翔子は見上げたものだと思ってほしい。
ほとんどのお客は、ムーン・ミュージックの特設ステージのほうへ入っているので、アトラクションは比較的すいている。
なので、凛たちは普段とは違って長々とした列に並ぶことなく遊ぶことができた。
ゴーカートに乗って、お化け屋敷にはいって、ジェットコースターで騒いで、コーヒーカップでぐるぐる回って、ミラーハウスでくらくらして、空中回転ブランコで歓声をあげて、他にもバイキングにトランポリン。疲れたら筐体ゲームの置いてあるアーケードゲーム・コーナーで10円のゲームを遊ぶ。
え? 5000円じゃ、そんなに遊べないだろって?
全くもって、その通り。
でも、途中で純菜が臨時収入を獲得したのだ。
仕事で来ていた神宮寺達也を見つけて、おねだりをしたのだ。
達也はご存知の通り、かっこつけである。いいカッコしいである。
そんな達也が年下の知り合いにおねだりされたら、断れないのを知っての純菜の行動だった。
これは酷い! 達也が貧乏なのを知っていながらの暴挙!
しかし紛れもないファインプレーでもある!
そんなこんなで時間は過ぎて。
「勝手に帰ったりしないでよね」
「あ~ん、凛くん。考え直して、一緒に行こうよ~」
凛は、2人と別れた。
だって、リンにならないといけないしね。
時刻は18:20。達也との待ち合わせは18:45分である。
ちょっと時間がある。
凛は待ち合わせよりも早くに行動するタイプだ。
けど、今回は遊園地ということもあって気が緩んでいた。
「観覧車に乗っちゃお」
弾む足取りで、人の少ない観覧車に乗り込んだ。
明るいうちにも観覧車に3人で乗っている。
けれど日が暮れてからの高いとことからの眺めは、また別だった。
ライトアップされた園内は綺麗だった。
遠い街の灯が宝石みたいにキラキラしている。
「人間の営みってやつだな」
「綺麗ですわね」
タックとチックも見惚れている。
そんな時だった。
ガゴン、と観覧車が止まったのだ。
ちょうど凛の乗るゴンドラが頂点にきているときだった。
「え?」
と戸惑う凛に
「機械の故障で、観覧車が止まっております。お客様におきましては、再び動き出すまで、しばらくご辛抱ください」
そんなアナウンスが聞こえてきたのだった。
リンが来ない!
達也は焦っていた。
何度もポケベルを鳴らしているのだが、連絡が返ってこないのだ。
そんな達也を、遊園地のスタッフが醒めた目で見ている。
若いスタッフだ。1人だけだ。
そう。達也は…アポロ・プロは期待されてないのだ。
ほとんどのスタッフとお偉いさんは、ムーン・ミュージックのステージへと足を運んでいる。
この若いスタッフからしたら、とんだ貧乏くじを引かされたと思っていることだろう。
リンのことは知ってはいても、しょせんは素人。
ムーン・ミュージックという肩書には、まだまだ勝てないのだ。
とはいえ。
リンを観ようと、来てくれたお客さんもいる。
たったの5人だけだが、居るのだ。
そんなお客さんに対して、穴をあけるわけにはいかなかった。
そんなことになったら、信用を失って、さらに仕事は入らなくなるだろう。
「何処に居るんだ!?」
達也はしつこくポケベルを鳴らすのだった。
「みなさん、こんばんは」
マッシュルームみたいな髪型をした女性が番組オープニングでの定番の台詞を口にする。
「7時になりました。ザ・テンの時間です」
のっぽで鼻の高い男性司会者が続ける。
日本でもっとも認知度の高い音楽番組、それこそが『ザ・テン』である。
男女の司会者が巧妙な遣り取りをしながら、邦楽ランキング上位10曲を紹介する、この番組。生放送ということで、歌手は嘘偽りのない生歌を披露しなければならない。しかも音楽はオーケストラが演奏する。歌手の実力が足りないと、演奏に負けてしまい、日本全国に恥をさらすことになってしまう、シビアな番組でもあるのだ。
「では、初めに異例ではありますが、アイドルの藤堂美也子さんに歌ってもらいましょう」
むろん、ムーン・ミュージックのごり押しである。
「あらあら? どうやら美也子さんは遊園地のほうにいらっしゃるようですね」
「もしも~し! 美也子さ~ん!」
男性司会者が呼ぶと、画面が中継に切り替わる。
「はいは~い!」
全力全開で猫を被った笑顔の美也子が映る。
その背後にはズラリとムーン・ミュージックの新人アイドルたち。
「とっても可愛らしい方ですねぇ」
「そんな~照れちゃいますぅ」
えへへ、と美也子は笑う。
この瞬間。美也子は男性から『ケーキみたいに甘やか』という評価を受ける。と、同時に。同性から『なんか気に入らない』と反感を喰らうのである。
しかし、それは彼女の方針でもあった。
ハッキリ言って、美也子は女性からの支持はいらなかった。アイドルになったのは、男性にチヤホヤされたいからに他ならないのだ。ならば、方針は明確。徹底的に、男性に媚びを売る。女性からは、どう思われようと…ちょっと下品だけども屁でもないのである。
美也子はそつなく司会者2人と遣り取りをした。
そうして歌う。
歌に自信はあった。
なんだかんだ言いながらも、美也子は努力家なのだ。
オーディションで2位は伊達じゃない。
マイクを手にして。
口を開こうとした……その時だった。
ピカリ! と観覧車が…てっぺんにのぼっているゴンドラが光り輝いた。
「どうしよう!」
凛は半泣きだった。
また達也さんに迷惑をかけてしまう!
「もういいから、ココで歌っちまえよ」
「そうですわ、出られないんですもの」
2匹のハムスターが言うけれど
「こんなとこで歌っても、遊園地に来てくれた人に聞こえないんじゃ、意味ないじゃないか」
凛はそう言い返した。
ゴンドラの中なのだ。
観覧車のてっぺんなのだ。
「何を言ってるんだか」
ふふん、とタックが笑った。
「あーたがポケットに入れている、ソレは何ですの?」
チックが呆れたように指摘する。
「魔法の口紅…」
取り出して、凛は手の平のソレに目を落とした。
「「 そーいうこと(ですわ) 」」
「そうか!」
リンは手にしていた口紅を「へい!」ステッキに変えた。
ペペッチ、ポポッチ、レレンチカ。ポポッチ、ペペッチ、レレンチカ!
ゴンドラの中が光に満ちた。
「まだなのかなぁ」
翔子はリンが出てくるのを今か今かと待っていた。
けれど幾ら待っても、即席でつくりました感満載のステージに、リンが出てくることがなかった。
遠くから、ひと際大きな歓声が上がる。ムーン・ミュージックのステージがある方だ。
たぶんテレビの生中継が始まったんだろう。
「行こう、純菜!」
翔子は立ち上がった。
「何処にですか?」
「達也さんとこに直接、訊きに行くのよ」
「そうですわね、遅すぎますものね」
翔子と純菜は一緒に、小さなプレハブにいる達也のところへと向かった。
2人が中にはいると、達也は……真っ白に燃え尽きていた。
「ああ、君たちか…」
達也がぼんやりと見遣る。
その尋常でない様子に、これまで気勢を上げていた翔子と純菜も大人しくなってしまった。
「なにか…あったんですか?」
「まさか、事故に…」
翔子は最悪な事態を想定して、知らずに足が震えたのだが
「遅刻だ…」
へ? 2人は年上にたいして失礼ともいえるような声を出してしまった。
「まだ、リンが来てないんだ」
「「 はあ? 」」
今度こそ2人は声をあげた。
でも、遅刻なんだ。最悪なことを考えていた翔子は
「よかった」
と呟いたのだが
「ちっともよくない…」
達也が虚ろな調子で言った。
「ようやく貰えた仕事なんだ。これが出来なければ、リンは信用を失って、もうオファーがこないだろう。それどころか…芸能界にはいられない」
それは岬の姓をもつ純菜も理解しているようで、達也と同じように顔を青くしている。
「そんな…」
翔子が呟いた時だった。
窓の向こうがピカリと光った。
「なんだ!?」
一瞬の。強烈な輝きだった。
呆けていた達也も、思わず体を起こして窓のほうへと顔を向ける。
そして、聴こえてきたのだ。
その歌が。
リンの歌声が。
「なんだ!」
遊園地中の人々が輝きに目を向け、その声を聴いた。
それは、テレビ中継に来ていた撮影スタッフも同じだ。
カメラマンが、ついレンズを輝きに向けてしまう。
事故だと思ったのだ。
満面の笑みの藤堂美也子から、観覧車へと…てっぺんのゴンドラへと映像が移る。
ザ・テンを見ていたお茶の間の人たちは緊張した。
何が起きているのか?
普段はうるさい程に喋る2人の司会者も押し黙っている。
カメラが…映す。
既に輝きの失せたソコを。
リンの姿を。
「きれい」
司会者の女性が呟いた。
リンはドレスをまとっていた。ワインレッドのドレスは、ワンポイントでウエスト部分に真珠が連ねてある。シンプルだが、だからこそ着る人を選んで、見事に着こなせたのなら、司会者の女性のように同性をも…いいや、同性をこそ魅了させてしまうようなドレスだ。
その娘。
リンは歌っているようだった。
だが、司会者の2人にも、お茶の間にも声は届かない。
魔法なのだ。
レベルが低いからか、中継をとおしてまで声は通らなかった。
だが、これが功を奏す。のちのち、ザ・テンにリンの歌を聞かせろと電話がバンバン鳴ることになるのだから。
ともあれ、リンは図らずもテレビに出演をした。
してしまったのだ。
観覧車が再び動き出す。
だが、そこにリンはいなかった。
みんなが呆けている間に、ひと足早く凛となって逃げだしたのだ。
乗り降りを監視しているスタッフさんには、チックとタックの『腹減りパワー』炸裂である。
騒ぎになっている観覧車から離れて、公衆電話へ。
魔法の口紅を塗ってから、達也へと電話をかけた。
「達也さんですか?」
「リン! あれはいったい!?」
「ごめんなさい、観覧車が止まってしまって。たぶん、歌はそっちまで聴こえたと思うんですけど。あれで大丈夫でしょうか?」
「う、うん。まぁ問題ないはずだ。契約は、君に歌ってもらうことだったから。でも、どうやって声をあんなふうに届けることが…?」
「それは…内緒、です」
こう言う以外にどうしようもない凛である。
「内緒、か」
達也は苦笑してしまった。
「まったく、君は。ほんとに秘密ばかりだな」
「ごめんなさい…」
「謝ることないさ。女性は秘密を着飾って美しくなるというからね」
プレイボーイである!
だが残念!
凛の心にはちっとも響かない。
微妙に気まずい沈黙の後で
「え~と…。今日はもう帰りますね。こんどは絶対に遅刻しませんから」
凛は電話を切った。
ふ~、とひと仕事を終えた心持ちでベンチに腰掛ける。
「凛!」
しばらくぼんやりしていると、翔子と純菜が遣って来た。
「こんなとこに居た! 探したんだからね!」
と言いつつも、翔子の表情はご機嫌だ。
リンさんの歌を聴けたことで大大大だ~~~い満足なのである。
「待ち合わせ場所を決めておけばよかったですわね」
純菜が言いながら、さりげなく凛の頭をナデナデする。
「じゃ、帰りましょうか」
「うん!」
こうしてリンの初仕事は幕を閉じたのだった。
「きぃいいいい!」
控え室に戻った藤堂美也子は奇声をあげた。
「悔しいぃ!」
ダン! ドン! と地団太を踏む。
控え室に他の女の子はいない。
美也子の剣幕をみるなり、とっととトンズラしているのである。
「あの女、許さない!」
リンのせいで、見せ場を奪われたのだ。
ザ・テンの中継も、リンを映したせいの時間切れで、最初の挨拶ぐらいしか放送されなかった。
おまけに、ムーン・ミュージックのステージを見に来ていたファンのほとんどもリンに心を奪われてしまったのが分かった。
いいや、それはいい。
ムーン・ミュージックのことは、どうでもいい。
許せないのは、見せ場を奪われたことだ!
「きぃいいいいい!」
美也子は再び奇声をあげたのだった。
子供が遊園地に夜の7時まで……そこは突っ込まないでいただきたい!
ザ・テンの元ネタのベストテンは、夜の9時から放送なんだけど。
さすがに、そんな時間まで中学生と小学生が遊園地にいるのは無理があるということで、放送時間を7時開始に変更しました。
物語の都合上、仕方ないのだ。
で。明日の投稿はないかも知れません。
不定期投稿なのです!




