30:ガッカリしている達也の話を聞く日
しつこいのを承知で。
不定期投稿です!
その人はひどく煤けていた。
思わず
「達也さん?」
と凛が確認口調になってしまったぐらいだ。
その人、神宮寺達也が顔を上げる。
「ああ、凛くんか…」
キラリン・スマイルどころか、生気が薄い笑顔を向けてくる。
「それに、君は…」
「翔子です、純菜の友達の」
「ああ、そうだった。翔子ちゃんか、よろしく」
笑顔をむけるけれど、やっぱりキラリンしてない。眉もヘチョンと下がってしまっている。
「なんかあったの?」
凛は訊いた。
デリカシーがないとか思わないで欲しい。ただ単に凛は困っている人を見ると放っておけないだけなんです。
達也はボソリと答えた。
「…久しぶりに現実って奴を思い知ってね」
つい口に出してしまってから、内心で自嘲してしまう。
こんな子供に何を言ってるんだ?
「困ってることがあるなら、ボク、相談にのるよ? 達也さんにはリフティング教えてもらたし」
「サンキュ。でも、言ってどうなることでもないし」
「そっか…達也さん大人だしなぁ。ボク、恩返ししたかったんだけど」
凛は達也に恩を感じていた。それというのも、達也にリフティングを教えてもらってからというもの、コツを掴んだからか、今では100回ぐらいなら落とすことなく続けることができるようになっていたのである。おかげで凛はサッカーチームの仲間に大いに面目を施したのだ。
そう聞いた達也は、恩返しなどという大仰な言葉に苦笑をした。
それを見た翔子が眦をあげる。
「凛は凛なりに真剣なんだから、笑うなんて失礼でしょ!」
達也の苦笑を、馬鹿にしたものと捉えてしまったのだ。
加えて、翔子は達也にあまり好い感情を持ってない。
だから、つい突っかかるみたいな態度になってしまうのだ。
いきなり中1の女子に叱りつけられた達也は、目をパチクリして翔子を見た。
久しぶりに怒られたなぁ、そんなことを思っていた。
以前は、しょっちゅう岬若葉に叱られていたものだ。『他の女の子たちと遊ぶのもほどほどにしなさいよね』『あなたの笑顔は嘘っぽいから友達がいないんです』思い返すと、勘違いからの冤罪だったり、友達がいないとか酷いことを言われていた。まぁ、表面上の付き合いばかりで、友達がいないのはホントのことなんだけれども…。
「なによ!」
真っ正面から達也に見られた翔子はちょっとだけ身を強張らせて、それでも強がる。
「いや、悪かったよ」達也はペコリと頭を下げた。
「そうだな、凛くんは本気で心配してくれてるんだもんな。話、聞いてくれるかい?」
「うん、もちろんだよ!」
達也は悩んでいたのではない。
落ち込んでいたのだ。
話しは約2週間前にさかのぼる。
オーディションで達也はリンのスカウトの権利を独占で勝ち取ったのは読者様も憶えておられるだろう。
まさしく達也は我が世の春を味わった。
晴れやかな将来を夢見て、ウキウキしていた。
しかし、春はすぐに過ぎてしまった。
具体的には10分ほどで。
リンがいなくなったのだ。
これでは交渉もへったくれもあったもんじゃない。
しかも、だ。
我を取り戻した芸能事務所各社が、リンに対する権利を放棄しろと達也に詰め寄ったのだ。
もちろん達也は強情をはった。
せっかく掌中にした宝物を自ら手放すはずもない。
そんな達也の前に姫宮若葉が立って言ったのである。
「あの娘を背負えるのですか?」
その瞬間、達也は夢から覚めた。現実を取り戻した。
まっとうな社員の1人もいない会社。
芸能関係にコネのひとつとしてない。
そんな俺が…リンの光輝く道を拓くことができるか?
分かり切っている。
NOだ、無理だ、力足らずだ、俺は……馬鹿だった。
結局、神宮寺達也はリンに対する権利を放棄した。
そして……リンの歌を聴いた、この公園で黄昏ているのだった。
とはいえ、そんな大人のドロドロした内情や達也の個人的なことを少年と少女に詳しく話すことも憚られる。
だから達也は
「すごく上手な選手が俺のサッカーチームに入ってくれそうだったんだけど、やっぱりナシってことになって、こうして落ち込んでるのさ」
そう例え話で誤魔化した。
「それって…」
と、翔子がリンのことだと察して言い淀む。
一方で
「その上手な選手が約束を破ったんだね、なんて悪いやつだ!」
ご本人様はとんと見当違いなことを言ってプンスカしていた。
…凛がお馬鹿さんなんじゃないんですよ? 10歳なんてこんなもん…じゃないのかなぁ? いやいや、凛は素直だから、達也のお話をそのまま丸っと受け止めちゃっただけなのだ。
本気で怒っている少年の様子に、達也は真心を感じ取って、またもや苦笑してしまった。
それでハッとして翔子を見るも、今度は翔子が眦をあげるようなことはなかった。ただ達也と目が合うと、フン! と言った感じで目を逸らす。
それで達也は、翔子が事情を汲み取ったのだと察した。
頭のいい子だ。
それに比べて。
「そんな悪いやつのことなんて気にしちゃダメだよ! きっともっと好い選手が見つかるから!」
単純だなぁ。
我がことのように憤慨する凛に、達也はホッコリしてしまった。
「いやいや、悪いのは選手じゃないだ。上手な選手に相応しいチームをもってなかった俺が悪いんだよ」
「うん?」
と凛が首を傾げる。
「例えばさ、凛くんが幼稚園児のサッカーチームに入れたとして嬉しいかい?」
「え~、そんなの絶対イヤだ」
「だろ? そんな感じなんだ」
「そっかぁ」
例によって凛はピンときていないのもかかわらず頷いていしまう。
家庭で全く興味のない母親のお喋りの聞き役に徹している弊害である。
「そうなんだよ」
言うと、達也は立ち上がった。
「聞いてくれてありがとうな、おかげでだいぶスッキリしたよ」
ポン、と凛の頭に手を乗せる。
どうやら凛の頭と言うのは誰もが手を乗せてしまいたくなるらしい。
キューティクルで艶ッツヤの坊ちゃん狩りが、魔性ともいえる引力を発しているのだ。
「純菜ちゃんによろしく」
翔子にそう言い残すと、達也はテクテクと去っていった。
「ちょっと可哀想かも」
後姿を見送りつつ、翔子が呟く。
「だよね、可哀想だよ」
同意する凛だけど
「リンさんをプロデュースできなかったんだもん、ガッカリもするわよね」
へ!? 翔子の言葉を耳にして心底から驚いた。
悪い選手ってボクのことなの!
今更、気づいたのである。
報われないハンサム(死語)、神宮寺達也。
彼がキラリン・スマイルを取り戻す日は来るのか!?
次回。アイドルになるのをすっかり失念していた凛が、ようやく動く。
ていうか、何時になったらアイドル活動をするのか?
作者も不安になるほど展開が遅いのはゴメンナサイ!




