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29:むつみとデパートに行ったら翔子と会った日

ふ、不定期投稿だから…。

あっ、という間に土曜日である。

半ドンである。


ほほう、半ドンを知らない? ならば教えましょう!

昭和の時代は土曜日も休みじゃなくて、4時限目まで授業があったそうなんです。その半日授業のことを半ドンといったんですって。語源は諸説ありますけど、著者が選んじゃうのは『明治時代から太平洋戦争の頃まで、正午に空砲を撃つ地域があって、だから半日経った昼にドンと鳴るから、半ドン』っていうのが歴史を感じさせてくれて好きですね。


話を戻すとして。


半ドンということで給食なしで学園から帰宅した凛は、ちょうど日曜出勤の代替で休暇をとっていた母親のむつみに


「お昼つくるのめんどくさいし…デパートの食堂で食べよっか?」


と提案されて


「やった!」


とバンザイした。


ということで、お昼は豪勢にデパートの食堂で食べようということになったのである。


まささんには内緒ね」


悪戯っぽくむつみは言うけれど、帰りにはデパートの総菜売り場で正彦の好物の魚のかす漬けを買うはずだった。

それで、夕べになれば粕漬けを肴に一杯ひっかける父さんにニコニコ笑顔で話しかける母さんを目にすることになるのだ。

もちろん話題は野球である。


干原家の両親の仲は花丸なのだ。


電車で2駅。デパートに到着。


デパートは普段にもまして盛況だった。

それというのも1階エントランスロビーに巨大モニターを設置して、大手テレビ局で放送したものとローカル局で放送したもの、2通りのオーディション番組を交互に放送しているのだ。


え? どうして予選とのきみたいに屋上を使わないのかって?


だって、デパートの屋上はお子様方の天国、ちっさな遊園地だからです。

大人の都合で、子供の楽しみを奪わない。それがMISAKIグループなのだ!


「知ってる、凛? 正さんの番組を編集しなおして映画にしようって話が持ち上がってるみたいよ」


「え~、そんなこと父さん教えてくれなかったよ」


ズルイ、と思いを込めて言うと


「だって、お昼に正さんから電話があって教えてもらったんだもん」


36歳だというのに『もん』である。


ひ! 今…著者の背中に射るような視線を……感じ…。

まさか…!


も、ももも…『もん』が全く全然自然で不釣り合いでない、そんな若々しいむつみさんなのです!


凛とむつみは食堂でお昼を食べた。

むつみはラザニアで、凛はオムライスだ。タックとチックはさすがにテーブルに出せないので、フードのなかでアーモンドをカジカジしてもらっている。


「母さんはこれから総菜売り場に行くけど、凛はどうする?」


食事を終えて代金を払うと、むつみが訊いた。


「先に帰る」


即答である。母さんの買い物が長くなるというのは10年の息子生活で思い知っているのだ。


「たまには母さんとデートしようよ~」


という、むつみの甘えを「また今度ね」と売れっ子ホストみたいなセリフでいなして、凛は1階へと降りた。


そこで見覚えのある後姿を見つける。


「翔姉え!」


「あらま、凛じゃない。凛もリンさんの雄姿を見に来たの?」


「違うよ、ボクは母さんとご飯を食べに来たんだ」


「お! いいじゃんいいじゃん、羨ましい」


「ごめんね、もう食べちゃったんだ」


翔子がいると分かってれば、一緒にお昼を食べられただろう。


「そんな図々しくお相伴にあずかろうとか考えてないから」


翔子は苦笑して、凛の頭を撫でる。


凛は翔姉えに頭を撫でられるのが好きだ。

いいや、好きだった。

近頃、ちょっと変なのだ。翔姉えに頭を撫でられても、あんまり嬉しくならないのだ。翔姉えが中学生になってからというもの、置いて行かれているような寂しさがあって、こうして頭を撫でられると如何にも子供扱いをされているのが分かって、それが不満で、あんまり嬉しくならないのだ。


でも、まぁ、頭を撫でられるのは好きなわけで。


凛はなんとも難しい顔で頭を撫でられた。


「でもさ、翔姉え? ビデオに録画してたんじゃないの?」


翔子の家にだってビデオデッキぐらいはある。それでオーディションの番組は2つとも録画しているはずだった。


「もっち、してるわよ」


翔子はフフン、と得意げに鼻を鳴らす。


「しかも標準で録画してるんだから」


昔のビデオテープの録画は3倍録画と標準録画というのがあったのだ。3倍は画質は荒くなるものの、標準録画の3倍の時間を録画できる。つまり、120分テープなら360分録画できるということだ。ということで、大抵の人はビデオテープがかさばるのを嫌って、3倍録画を使っていた…らしい。標準で番組を録画する人はまれだったんだってさ。


そんな理由があるので、翔子がフフンと得意になってしまうのだ。


「ならさ」と凛は小首を傾げた。

「なんで、デパートで見てるの?」


「わかってないわね、リンさんの雄姿をおおきな画面で見たい、それがファン1号ってなもんなのよ」


「ははぁ」


うなずきながらも、ピンときてない凛である。


「じゃあ、ソレは?」


凛は翔子が小脇に抱えているスケッチブックを指さした。


「スケッチブックよ」


ほんのりと顔を赤らめて、翔子は分かり切ったことを言う。


「絵、書いてたの?」


「そうよ」


翔子はぶっきらぼうに言う。


恥ずかしいのだ。


実は翔子。リンのことを主役に漫画を描こうと頑張っているのだ。家ではビデオを繰り返し見て、リンの姿をスケッチしている。けれども、どうにも納得がいかなくて『おおきなテレビでみたらどうかな?』とわざわざデパートまで足を運んだのだった。


そんなだから、まだまだ納得のできる絵は描けてない。


しかも。漫画家になりたいと夢をリンに話してからというもの、何故だか他人に気軽に絵を見せられなくなってしまった。


以前までなら、凛には気軽に描いた絵を見せていたというのに。


だから


「見せて」


と凛が言っても


「嫌」


と翔子はニベもなく撥ねつけた。


「なんだよ、ケチんぼ」


凛もしつこく言ったりしない。

長年の付き合いで、翔姉えが本気で嫌がってるのぐらいは分かるのだ。


「んじゃあ、ボクもう帰るね」


「待って」と翔子が呼び止めた。

「一緒に帰ろ」


「いいの?」


「いいの。もうリンさんの出番終わっちゃたし」


凛と翔子は連れ立ってデパートを出た。


そうして何気なく公園を見た凛は


「あれ?」


と見覚えのある人物がいたことで声を漏らし。

釣られて公園を見た翔子もまた


「あの人…」


と、これも見覚えのある男の人がいたことで声を漏らしたのだった。


「「 知ってるの? 」」


凛と翔子は互いの顔を見合わせた。


それから肩を落としてベンチに座っている、真っ白なスーツを着た人へと歩みを進めたのだ。

半ドンやらビデオテープやら。

カルチャーギャップ!

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