28:正彦の仕事がテレビに流れる日
投稿しない詐欺!
月曜日。
登校すると、それはそれはオーディション番組の話題で盛り上がっていた。
凛の席の周りに集まって来た男連中の話を抜粋しよう。
「昨日、見たかよ?」
「見た見た」
「「 オーディションのやつ! 」」
と声を揃えるのまではいい。
「特に最後の、凄かったよな!」
「ああ、光がキラキラ降ってきてさ!」
ここで更に会話に2、3人が加わって言うのだ。
『あの金髪の女の人、可愛かったよなぁ』
と。夢見心地で言うのである。
聞かされる凛としては溜まったものじゃない。背中がぞわぞわしてしまう。
こんな会話が男女を問わず交わされていた。5年3組だけではない。学年でも、初等部でも、中等部に高等部でも。それどころか、ブルーム学園全体で、光が丘の街で、関東で、日本全国で、同じような会話が交わされていた。
オーディションで最低得点を叩き出したリンは、日本全国を魅了したのである。
「なによそれ! どうして、そうなるのよ!」
東京の何処からか、墓穴を掘ってしまった誰かさんの声が聞こえてきそうだ。
そんなこんなで水曜日。
日曜日、月曜日、火曜日と3日続けて会社に詰めていた正彦が帰宅した。
「日曜日の夜9時に放送だぞ!」
正彦は言うなり、バタンキューとベッドで眠ってしまった。
ず~~とオーディションを撮影したテープの編集作業などを手伝っていたのだ。
正彦の会社は20人ほどしか社員のいないこじんまりとしたものだ。それなのに、このリンの騒動で、放送予定のローカル局から『はやくしろ』とせっつかれることになってしまったのである。本来なら1ヵ月後に放送だったはずのものを、日曜日には放送したいと言い渡されたのだから、どうしたって帰宅どころの騒ぎじゃなくなってしまったのだ。
ローカル局が、オーディションの舞台裏を撮影した様子を日曜日にながす。
これは、あっという間に広まった。
局が宣伝をするまでもなかった。口コミで広まったのだ。
そして時間はながれて日曜日。
干原家ではリビングでテレビを見ていた。
凛に正彦にむつみ。それとタックとチック。
だけじゃない!
お隣の伴場一家もお邪魔していた。
正彦の晴れの舞台? をみんなで見ようということになったのだ。
加えて!
純菜もいた。
その純菜は、後ろから凛のことを抱きしめて座っていた。
ニコニコと満足そうである。「癒される~」とか言っている。
一方で、凛はといえば仏頂面だ。
だって恥ずかしいじゃないか!
けれども嫌だとは言えなかった。純菜がひッじょ~に悲しそうな顔をしたからだ。女性の涙に弱い、それが凛という少年だった。
……将来、騙されそうで不安である。
ともかく。純菜がへこたれていたのにはワケがあった。
ひとつ。リンの身元保証人になっていたせいだ。あの金髪の女の子は誰なんだ!? とオーディションの責任者どころか、審査員をしていた実の姉の若葉にも問い詰められ、最終的には両親がお出ましになる事態にまでなってしまったのだ。なのに、純菜はリンについて何を知っているわけでもない。散々に叱られたのである。
ふたつ。照明が不調になったことに不審をいだいた純菜は、これを調べたのだ。そうしたら、出るわ出るわ藤堂家の…美也子のやらかした痕跡が。「まったく、あの人たちは…」と眩暈をおぼえたほどである。藤堂家は収益こそ抜群だが、強引な手法が多く、評判は芳しくないのだ。しかも4人の審査員すら買収していたと知って、しかし純菜は何もできなかった。今の純菜には何の実権もない。ただMISAKIグループ会長の孫で、社長の娘というだけなのである。不正を両親に訴えたものの、それがどういう結果になるかは分からなかった。
以上。2点。
純菜はへこたれた。疲れきってしまった。
早急に凛くん成分を補給しなければならなかったのだ。
そんな2人を大人たちはニヤニヤと見ている。
「いいの? 凛くん、取られちゃうわよ」
翔姉えのオバサンがからかうみたいに翔子に言う。
「べっつに」
と翔子は気にしたぞぶりもない。
聞いた大人たち4人が「あらあら」なんて笑い合う。
食事はピザだ。
30分以内に届かなかったら無料にするということで話題になっているデリバリーである。なんと15分で届いている。
味も好評だ。
「はい、あ~ん」
純菜が手ずからピザを凛に食べさせようとするに及んで
「もう無理!」
凛は純菜の抱っこからもがいて抜け出した。
「ボク、もう10歳なんだからね!」
プンスカと怒りながら、ピザを食べて
「あ、美味しい!」
とご機嫌になってしまう、単純な凛なのだった。
そんなこんなで9時。
番組が始まった。
2時間の放送で、CMがはいるので実質的には1時間45分の放送時間である。
カメラは、ステージを前にして緊張する女の子たちの様子をあますところなく伝えていた。
「さっすがオジサン」
翔子が褒めれば
「いや~」
と息子と同じように照れてしまう正彦は35歳である。
そしてリンがちょこちょこ画面に出てくるようになる。
緊張に身をすくませる女の子を励まし。
泣き出しそうな女の子を変顔で笑わせ。
女の子の話しを親身になって聞く。
そんなリンが出てくるようになる。
決して主役ではない。出しゃばらない。
編集で正彦たちが入念に気をつけた結果だった。
メインは、ステージを控える女の子なのだ。
カメラも、彼女たちを中央に追っている。
なのに。
「いい子だな」
ポツリと翔姉えのオジサンが言えば
「ほんとね」
と翔姉えのオバサンが同意して
「でしょう?」
と何故だか翔子が得意になる。
感想はリンについてになってしまう。
不思議な現象だった。
そんな感じで、リンに対する評価は天井知らずにグングンとあがった。
やがて始まるのは、ステージ袖から撮影した例のシーンである。
降り注ぐ瞬きのなかで、金髪の天使が歌う。
この瞬間、視聴率は26パーセントを叩き出した。
ローカル局が始まって以来の数字である。
もっとも、このシーンを本人は見ていなかったりする。
ピザをしこたま食べて、凛は舟を漕ぎ始めてしまったのだ。
むつみに「歯だけは磨いてらっしゃい」と言われて、歯を磨いた凛は、そのまま夢遊病者のような足取りで2階に上がるなり、自室のベッドで寝てしまっていたのである。
「まったく、子供なんだから」
翔子は呆れたように言う。
まさか、そんな子供がT〔天使に〕S〔スイッチ〕しているとは、世界中でタックとチック、2匹のハムスターの他に知らないのだった。
でも、明日も投稿するかは本当にわかりません。




