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27:帰宅するまでがオーディションですの日

これにて、ひと区切り。

「うっわ!」


球場の外へと摘まみだされた凛は、人込みに仰天した。


もう陽も落ちているというのに、どんどかと人が遣って来ているのだ。


「さすが東京! 夜になっても人が多い!」


なんて呑気なことを言っている凛だが、この人たちが何を目当てに殺到しているのかを知ったのなら、血の気が引いたことだろう。


殺到している人々は、みんながみんな、リンを目にしようと足を運んでいるのだから。


問題はテレビ中継だった。

前述したように中継はリンを半端に映したところで終わってしまっている。


雪のようにまたたききが降って来て、30秒。

リンが天使の歌声を披露して1分30秒。


都合2分。


リンはまだまだ歌っている途中だった。


つまり! テレビ中継はお茶の間の皆さんに蛇の生殺しを味あわせたのだ。


「この番組は、ご覧のスポンサーの提供でお送りいたしました」


と、いきなりMISAKIグループ各社や協賛した企業の名前が列挙されて、放送が終わってしまったのである。


これに不満を持ったご近所の人たちが後楽園球場へと押し寄せているのだった。


しかも、これだけじゃない。

オーディションを生放送していたテレビ局には電話がバンバンとコールされていた。


どうして途中で番組を終わらせたんだ!


避難の声もあれば


あの女の子のことをもっと知りたいんだけど!


リンに対する問い合わせもある。


てんやわんやの大騒動だった。

テレビ局では手隙てすきのアナウンサーすら動員して問い合わせに対応しているような状況なのだ。


で、凛である。てんやわんやの大騒動をもたらした張本人様である。


凛は人ごみをようよう抜け出して、駅に辿り着いた。


「早く帰らないと!」


父さんと母さんは仕事の都合で、帰るのが遅くなると前々から言われている。

それでも母さんは10時には帰宅するだろう。


凛は焦りながら駅構内の時計を見上げた。


時刻は8時50分。

人込みを抜けるのに散々苦労して時間がかかってしまったのだ。


駅もまた、凄まじい混雑だった。

駅員さんが声を張り上げてお客さんを誘導しているほどである。


やっぱり、リンを目にしようとわざわざ電車に乗ってまで来た人たちだった。

駅員さんにとっては青天の霹靂へきれきと言っていい。


凛はどうにかこうにか電車に乗った。


スッカスカだ。

リンを見に来た人たちは降りてしまったのだから、当然だった。


ゴトンゴトンと電車に揺られる。

疲れているから、眠りそうになってしまう。


「寝たら起きれねーだろ!」


「目ぇ開けなさい!」


タックとチックの声掛けで、ウトウトとしながらも凛は眠ってしまうことなく電車の乗り継ぎをして、住んでいる光ヶ浜の駅に下りることができた。


改札でキップを切る駅員さんに、無くさないようにとポッケのなかで握りしめていたしわしわのキップを渡す。


改札の駅員さんが何かを言いかける。


その機先を制して


「父さんと母さんは後から来るから」


嘘をついて、凛は無事に通り抜けることができた。


悪い子である!


「ぎりぎり、セーフ」


10時まであと20分はある。家まで徒歩でも余裕だ。


と呑気に思っていた凛の肩に


「あんた、こんな時間にこんなトコで何してんの?」


手を置かれた。


その聞き間違えようのない声に凛は背筋をピンと伸ばして気をつけになってしまった。


おそるおそる、振り返る。


「なんでいんの、翔姉え?」


「質問に質問で返すなって、言ってるでしょうが」


凛の両こめかみに翔子は握りコブシをあててグリグリする。通称『うめぼし』である。


「NOぉ!」


翔子のうめぼしは容赦ない。容赦したのでは、効かなくなってしまったほどに凛は悪戯をしては翔子にグリグリされているのである。


うずくまってしまった凛を、2匹のハムスターが「チュウチュウ」と慰める。


「で? もう1度訊くけど、10歳のくせして夜遊びですか?」


腕を組んで翔子が訊く。


「ちょっと…原宿のホコテンに」


「うわ! 生意気! あたしだって、まだ行ったことないのに」


「そうなんだ!」凛はジャンプをするように立ち上がった。

「こんど案内したげようか?」


翔姉えよりも先にホコテンに行った。それを知ってお調子にのってしまう凛なのだが


「な、ま、い、き、なのよ!」


ほっぺたをムニュムニュとこねくり回されてしまった。


「あたしだって、近いうちに純菜と行く約束してるし」


「え~、ずっこい!」


「ちっともずっこくなんてありません~、あたしは中学生で、凛は小学生なんだからね」


「ちぇ。そういえばさ、純ちゃんはどうしたのさ? 一緒に後楽園まで行ったんでしょ?」


「純菜は、なんか忙しくなっちゃったんだって。いろいろと調べることがあるとか言ってたから、あたしだけ帰って来たってわけ」


ふ~ん。


テクテクと家路を歩く。


翔子は楽しそうにリンについて語った。

凛は聞き役だけど、それが苦じゃない。

翔姉えが嬉しそうなら、凛もまた嬉しいのだ。


やがて、家についたのだけど。


「あれ? 翔姉え?」


と凛は自分に続いて家に上がろうとしている翔子に首を傾げた。


「おばさん、もう帰って来るんでしょ?」


「うん、10時には帰って来るって言ってた」


「報告するから」


「ん?」


「誰かさんが夜遊びしてましたって、おばさんに報告します!」


「!」


こうして凛は、タクシーで帰宅したむつみにしこたま叱られ、来月のお小遣い全額カットの刑を言い渡されるのであった。

定番の叱られオチ。

ちょっと文字数が少ない2000文字程度がデフォルトになりつつありますが、ご容赦を。


明日も投稿するかは分かりません。

不定期投稿です!

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