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25:天使が舞い降りた日

皆さまお気づきの通りに、美也子の指図だった。


リンがステージの中央にきたら、真っ暗にするようにと言いつけておいたのだ。


どんなに美しかろうが、姿が見えなければ評価のしようがない。


クスリ、と美也子は意地悪く笑う。


もっとも…。誤算はあった。

ステージの中央へと進む、たったの数歩。


それだけの時間で、おおぜいの人がリンに注目したのが美也子には肌で感じられた。

斯くいう美也子もリンに目を奪われそうになってしまったほどなのだ。


そして肝心のリンはといえば…。


「どうして…」


悔しがっていた。


出番までで、リンは20名近くの女の子を間近に見ていた。


あの娘は、今日という日の為に血のにじむような努力を重ねてきたのだと言った。

あの娘は、家族の期待を背負って泣きそうになりながら、ステージでは頑張って笑っていた。

あの娘は、幼い頃からの夢が叶うかもしれないと緊張で震えていた。


どの女の子も本気だった。

アイドルになろうと真っ直ぐに、ひたむきに。

それだからこそ、健気で。


リンは、そんな彼女たちと自分とを比べて、生半可な気持ちでいることが恥ずかしくなってしまったのだ。


全力を尽くそう!


そう思った。


他の女の子たちに恥ずかしくないように取り組もう!


そう決意していた。


その矢先の出来事だった。


「このまま、終わっちゃうのか…」


こぶしをかたく握る。


「おいおい、諦めるのは早いだろ」


タックが


「ふん、ようやく見れる顔付きになりましたわね」


チックが、胸のポケットから顔を出した。


ちょこちょこと2匹は胸から、左右の肩へとのぼる。


「君はさ、忘れてる」


「あーたは、何者なのか」


「「 思い出してみな(さいな) 」」


「ボクは……」


言い淀むリンに向かって、白いハムスターは言葉を重ねる。


「君は人を笑顔にする少女」


言い聞かせるみたいに。


「魔法を使って、人に幸福を与えるのですわ」


思い出させるみたいに。


だから。とタックとチックは声をそろえて言った。


「「 あの声が聞こえるだろ(でしょう)? 」」


声? リンは耳を澄ませた。


「…………」


誰かの……声がした。


「…リ……」


大勢の声が。


「リン! 頑張れ!」


自分を呼んでいた。


分かる! 呼んでいるのは北条由紀だった。原宿のホコテンで出会った人たちだった。

みんなが後楽園球場の外で、リンの名前を呼んでいた。


「「「「「 リン! 頑張れ! 応戦してっぞ! 」」」」」


たったひと時、出会っただけの関係。

そんな人たちが、声を張り上げてリンのことを応援してくれていた。


リンはブルリと大きく震えた。


胸の奥が熱い!

体がカッカと燃えるように熱くなる。


「「 もう一度、訊くぞ(わよ) 」」


「君は」


「あーたは」


「「 何者? 」」


「ボクは」リンは大きく息を吸って

「天使にスイッチした、リン!」


聞いた2匹は互いの顔を見合わせてうなずくと、定位置のリンの髪へと潜り込んだ。


「ヘイ!」


ポケットから取り出した口紅をマイクにして両手で握りしめ。


リンは。

己のチカラを。

今こそ解放した。



「機材トラブルのため、オーディションはここまでとさせていただきます」


拡声器越しに女の人の声が告げる。


「そんな…!」


特別招待席で純菜と一緒に観覧していた翔子は、暗闇のなかで愕然としていた。


「純菜?」


どうなってるの? どうなるの? そういった言葉を込めて隣りに座っている親友に声をかける。


「わかりません…わかりませんけど…こんなこと」


声が低い。

怒っている時の声だった。


だが、怒っているのは翔子も同じだ。


せっかくリンさんの登場だったのに!


観客席からも不満の声がところどころから上がっている。


みんながリンさんに見惚れたのは分かった。

会場中が、息を呑んだのが伝わったからだ。


「お嬢様」暗闇のなかで声がした。


忍者の人の声だ。


「テレビ中継があと2分で終了いたします」


「延長は…無理ね」


口惜しそうに純菜が言った時だった。


キラリ! と光がまたたいた。


「え?」


翔子は見上げる。


それは空からパラリパラリと降り落ちてくる。


「雪?」


「ありえません」


4月なのだ。

陽気としても、暖かいほどの日だった。


パラリパラリと瞬きが降ってくる。


それはでも、ステージの上だけの現象で。


降りしきる瞬きに、金髪の少女が淡く照らされる。


「…天使」


翔子は思わず呟いた。


「天使」


同意するみたいに純菜も同じ言葉をくちにのせる。


2人だけじゃない。

観覧席でも。

テレビの前でも。


誰もが思っていた。

その言葉を。


そして、歌が始まる。


あの日、公園で聴いた歌だ。


でも何故だろう、あの時よりも胸に歌声が迫る。


会場の誰もが、リンさんの歌に耳を傾けているのが分かった。

天使の歌声に聴き惚れているのが、感じられた。

何故なら、咳のひとつも、ひそひそ声すらも、聞こえなかったからだ。


きっとこの声は球場の外にまで広がっていることだろう。


やがて歌が終わる。


同時に、空から降っていた瞬きも止んでしまった。


終わった。


ステージが再び暗くなる。


それなのに。

まだ誰も動こうとしなかった。


動けなかった。

動かなければ、もう1度、ステージに天使が舞い戻るのではと…。


そう思ってしまっていた。

文才のなさがツライ!

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