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24:藤堂美也子のオーディションの日

ちびちびと投稿します。

いっきに読みたい方には申し訳ない。

圧倒的だった。


美也子はそれまでの参加者とは格が違っていた。


まず、歌だ。


美也子は誰の耳にも新鮮な『アゲイン』をうたった。


歌はバックミュージックのないアカペラである。これは登壇者の誤魔化しようのない実力を測るためのはからいだったが、おかげで、これまでのオーディション参加者34名の歌で上手いと断言できるような女の子は皆無だった。無伴奏というのは、それほどに難しいのである。


しかし美也子に限っていえば


『ほお』


と感心の声がスタンドから聞こえるほどに上手だった。


努力したのである。

美也子はプロの声楽家にスパルタの指導を受けたのだ。


その成果が発揮されていた。


それだけじゃない。


美也子は振り付けすら魅せつけた。


まるっきり姫宮若葉と同じでは芸がない。だからアレンジを加えた振り付けで踊ってみせた。


歌いながら、踊る。


これが如何に難しいかは、分かってもらえるだろう。


踊りで息が弾んだのでは、歌が聞き苦しくなってしまう。

だからといって、こじんまりとした振り付けでは魅せられない。


ならば、どうしたらいいのか。


心肺を強化するしかない。

地道に走って、心臓と肺活力を鍛えるしかないのだ。


それでようやく、歌と踊りの両立ができる。


優雅に浮かぶ白鳥もその水面下では必死に足をもがいている。


それが藤堂美也子という女の子だった。


しかも、である!


パフォーマンスを終えて、審査員が点数をつける。


10点。

若手の映画監督は、美也子の両親から次回作のスポンサーになってもいい旨を言われていた。


10点。

24歳の作曲家は、乱れた性活を雑誌にすっぱ抜かれそうだったのを藤堂家の力でもって揉み消してもらっていた。


10点。

伝説のスタントマンは、アメリカに進出するための資金を藤堂家に融通してもらうことを約束していた。


10点。

大物ディレクターは、不出来だからこそ可愛い孫が藤堂家の会社に採用されていた。


……このように、手を抜くことなく買収をしていたのだ!


た、だ~し!


9点。

姫宮若葉だけは買収できなかった。


実は彼女、本名をみさき若葉わかばという。純菜の姉なのだ。

もちろん、お金も権力も、藤堂家の遥かな上をいっている。買収なんて不可能だ。


それでも9点。

若葉が美也子の実力を認めたということだった。


とはいえ、満点狙いの美也子が満足するはずもない。

内心は激おこマックスである!


次に観覧者の声援と拍手が点数に変換される。


50点!


素晴らしい!


が、ちゃんと美也子による細工が施されている。


サクラは勿論のこと、あらかじめ点数が50点になるように機械に細工がしてあったのだ。


「合計点、99点! 最高得点が出ました!」


司会者が疲れも忘れたように声を張り上げる。


ええ、ええ。美也子のときは盛り上げるようにとお幾ら万円かいただいているのです。張り切らざるを得ないのです!


1点。

たった1点。

されど1点。


美也子は舌打ちをしたいのを我慢して、精いっぱいに朗らかさを振りまいた。


誰もが認める美少女っぷりである。


そうして、スカウトたちが札をあげる。


分かっているだろうけども、裏がある。

あらかじめスカウトたちは言い含められているのだ。ウチの美也子のことをよろしく、と。遠回しに凄まれているのだ。

これで札を上げなかったら、中小の芸能事務所は嫌がらせで、下手したら潰れる。

大きなところは、純粋に美也子を認めてのことだった。


「なんてことでしょう! すべての芸能事務所が札を上げておりま……」


と司会者は褒めちぎろうとして


「せん!?」


思わす大きな声で言ってしまった。


美也子の眉がピクリと吊り上がる。


1社だけ。1人だけ、札を上げていなかったのだ。

アポロ・プロ、神宮寺達也だけが入札の権利を主張していなかった。


彼はリンの他はアウトオブ眼中だった。

たとえ藤堂家から嫌がらせを受けようと、今でさえ仕事がないので今更どうということもない。むしろ、反骨心から腕を組んで、絶対に札は上げないと主張していた。


「お、惜しい! それでも249社が入札をしました!」


司会者が大慌てに自らの失点を誤魔化す。


美也子は最後に一礼をしてステージを袖へと向かった。


その深々と一礼した時の顔がモニターに映されたならば、テレビの前の幼児は泣き出したことだろう。

それほどの表情だった。






「エントリーナンバー36、神奈川県出身、リンさん!」


いよいよ名前を呼ばれて、リンはステージへとのぼった。


金髪の女の子が巨大モニター映しだされる。


観客は6時間以上もの長丁場にだいぶん疲れていたが、その瞬間だけは疲れを忘れた。

それはテレビの前の人々も同じだ。


『あのは誰?』


知りたい。それが人々の共通した想いだった。


リンはステージの中央へ。

頭を下げようとした…。


その時だ!


バン! と球場を照らしていた照明が消えた。モニターも消えてしまった。

ステージが真っ暗になる。


「みなさま、申し訳ありません! トラブルのようです!」


美也子は舞台袖でニヤリと笑ったのだった。

次回、突然のトラブル!

どうするどうなる、リン!?


激おこマックス、とか、アウトオブ眼中とか、砕けた物言いが嫌な読者様にはスミマセンでした。

やめて! という連絡がありましたら、使わないように気をつけます。

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