15:魔法のレベルがあがった日
急いで書いたので、なんか雑かも。
でも投稿してしまうぞ!
「ヘイ!」
伸ばした右手に、空間からあらわれた魔法のマイクが握られる。
「「「 おお! 」」」
マジックだと思ったものか、翔子と純菜と達也は拍手だ。
リンは公園にある象さんすべり台のてっぺんに立っていた。
魔法のマイクを握れば、自然と口から歌がこぼれる。
別になければないでもいのだけど、やっぱりあったほうがシックリくるのだ。
ルールー
リンの唇から声がもれる。
それはドリームワールドの風の音。
誰かが笑った時の音。
誰かが幸福だった時の音。
だから、聞く人は心地よく耳を傾ける。
笑顔だった、あの日を思い出して。
幸福だった、あの昔を思い出して。
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「いつになったら来るんだ!」
MISAKIデパートの屋上は大騒動だった。
とんでもない金髪の美少女を見に来たというのに、何時まで経っても待ちぼうけなのだ。
暴動寸前と言ってもよかった。
そんな様子を干原正彦は持ち運び型のテレビカメラを肩に担ぎながら眺めていた。
「まずいぞ、これは」
謎の女の子を撮影に来たら、図らずも事件を撮影することになってしまいそうだった。
みんながみんな苛立っているのがハッキリと分かった。
何時からだろう? 景気はよくても、どこか人から余裕のようなものがなくなって、誰もがワガママになったような気がする。
喚いているのもイイ大人だ。身なりもキチンとしている。
なのに、誰はばかることなく怒声を張り上げている。
そもそもの話、このアイドルオーディションは無料なのだし、女の子が来るとも宣伝してない。
それなのに、男性はデパートの従業員に詰め寄っているのだ。
正彦は腕時計を見た。
4時45分。
これは、どうかんがえても女の子は来ないだろう。
と。正彦は連れてきた音声スタッフが目を閉じて、イヤホンに耳を傾けていることに気づいた。
「どうした?」
「聴こえる…」
音声スタッフはいうなり、ステージの裏へと走る。
「おい!」
正彦も後を追った。
「何が聴こえるっていうんだ?!」
「歌です! 聴こえるんです」
音声スタッフはフェンスから身を乗り出すようにして棒つきのマイクを伸ばし、ネットの向こうの音を拾おうと躍起になっている。
正彦も、釣られるようにカメラを向けた。
公園があった。そして……見つける。
金髪の女の子を。
ズーム。
「これは…」
正彦が生まれてこの方、見惚れた異性は妻であるむつみだけだ。
あの時は一目惚れだった。
好きだ! とただ思ってしまった。
そんな正彦が、カメラレンズの向こうの女の子に見惚れた。
ただし、思ったのはむつみのことだった。
何故か。むつみに会ったあの日、あの時が鮮烈に思い出され。
甘くて酸っぱいトキメキを……青春を思い出したのだ。
金髪の女の子は歌っていた。
正彦は、その様子を撮影する。
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ステージに急遽取り付けられていた巨大モニターに、金髪の女の子が映しだされた。
同時にスピーカーからも音声が…歌声が流れた。
それを聴きつけたのは誰が初めだったのか。
「おい」
誰かは、友人の肩をひいて
「聴こえるか?」
気付いた人たちは耳を傾け、そうして、モニターを見ることのできた人たちは、その金髪の天使に釘付けになった。
怒鳴り散らしていた人も。
人込みでヘトヘトになっていた人も。
イライラしていた人も。
波紋が広がるように、彼等彼女等は黙って耳を傾けた。
その。
胸をうずかせる歌声に。
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リンが歌い終わると、パチパチと3人が拍手をしてくれた。
「ほんと、リンさんの歌、好き!」
「素晴らしかったですわ」
「改めて感心したよ」
翔子が、純菜が、達也が満足したように笑う。
その時だった。
マイクが眩く輝いた。
「わ!」
その瞬間にリンは理解した。
人々を笑顔にしたことで、魔法のレベルがひとつ上がったことを。
そして。ドリームワールドからこぼれた風が、人の心とまざって、歌詞を得たことを。
だからリンは再び歌った。
心から。
頭から。
心臓から。
体中から。
浮かび上がってくるドリームワールドの風の調に、人の想いの歌詞をのせて、歌った。
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カメラレンズの向こうで、少女が再び歌をうたう。
しかし、今度は前のものとは違っていた。
歌詞がある。
その歌は。
その歌詞は。
ひと言でいえば、初心だった。
気付けば正彦は、微笑んでいた。
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リンのマイクが輝いたのと同時に。
デパートの家電売り場においてあるテレビというテレビに、正彦の撮っている映像が映し出されて、歌声が流れた。
「え?」
驚いたのは店員だ。
唐突にテレビに映像が映し出されたのだから。
テレビに電波受信機能なんてものはついてない。それどころか、コンセントに刺さってないテレビすら映っているのだ。
けれども、そんな驚きは蹴散らされてしまう。
「あの子が映ってるぞ!」
屋上まであがれずに、押し合いへし合いしていたお客様たちが大挙して家電売り場へと流れ込んできたからだ。
エレベーター前や、危険なので止められていたエスカレータに居た人が、みんなして遣って来る。
店員は、お客様をさばくので手いっぱいになってしまった。
この日。後に分かるのだが、家電売り場のテレビは全て売れてしまう。
1台も、それこそ展示されていた物すらも売れてしまうのだった。




