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14:リンと達也と翔子と純菜な日

あくまでも不定期。

魔法の口紅をステッキに。金色のシャワーを浴びた凛は、リンへとT〔天使に〕S〔スイッチ〕した。


個室から出たリンは、いちおう鏡で自分の姿を確認する。


本日の服装はブルーのデニムシャツを羽織って、その下にはタイトなTシャツ。下半身はショートパンツで、靴は赤いスニーカーというものだ。


「うん、なかなか好いな」


リンはうなずいた。

自分の容姿に満足したのではない。スカートではなかったことに満足しているのだ。


幸いなことに、トイレに人はいない。デパートに詰めかけているおかげだ。


「呑気に鏡、見てる余裕なんてないだろ!」


「はやくデパートに急ぎなさい!」


髪に潜り込んだタックとチックが勘違いして急かす。

だからというわけではないけど、リンは駆け足でトイレを出た。


達也はベンチで項垂れている。

時折、デパートの方へと向いていたが、トイレとは逆の方向なので、リンには気づいてないようだ。


リンはゆっくりと達也に近づいた。

そうして、達也の座るベンチのそばで足を止めた。


「帰ったんじゃなかったのかい?」


凛だと思ったのだろう、達也が顔を向けて


「…君は!」


息を呑んだ。


金色の髪が淡く輝いている。達也は、ちょっとのあいだ呆けたようにリンを見詰めてから


「すまなかった!」


ベンチから立つと、深々と頭を下げた。


「許されるとは思ってない。でも、あんなことを仕出かして、申し訳ないことをした!」


警察に突き出されたって仕方ないと達也は覚悟をしていた。

そうとなれば、いよいよ達也は立場を失うだろう。神宮寺の面汚しとして、父親とおなじく僻地に飛ばされるかもしれない。それでも、達也は謝りたかったのだ。


「頭を上げてください」


少女の声が、そう言う。


やわらかな雰囲気の割に、しゃっきりと男の子みたいな喋り方をするんだな。

そんな場違いなことを思いながら、達也はゆっくりと頭を上げた。


「もう、いいです」


少女は言うと、微笑んだ。


ああ、と。達也は思う。このはホンモノだ、と。ただ、そう思った。


「さっき、男の子にリフティングを教えてましたよね。あれを見て、あなたが悪い人じゃないって分かりましたから。もう、いいです」


「だけど…」


「しつこいなぁ、達也さんは」


思わずこぼしてしまったリンだったが


「俺の名前…何で知ってるんだ?」


しまった! リンは自分の口を抑えたが後の祭りだ。


「そ、その…男の子に名前を言ってましたよね。それが聞こえて」


「ああ、そういうことか」


納得した達也は、ふと


「でも、俺だけ名前を知られているなんて不公平ずるいな」


とリンを見た。


さっきまで頭を下げていた男の言動ではない!

しかしながら、達也は生粋のプレイボーイなのだ。


もっとも……家の教育が厳しかったのと、婚約者がいたのとで、女の子と付き合ったことはないのだが。


リア充にみえて、実はぜんぜんリア充じゃなかった男。


高校は男子校。クラスの友人に「神宮寺、女とデートとかしたことあるか?」と訊かれ「もちろんさ」とふかしてしまった上にも、何時の間にか女性と付き合うにはどうしたらいいのか how to 講師に持ち上げられてしまっていた男!

しかも大学でもプレイボーイに相応しく、仮想の女の子と付き合わなければならなくなってしまった悲劇の男。その仮想彼女の数は、なんと10人!


泣ける!


キラリン・スマイルの裏には、涙がいっぱい。


それが神宮寺達也なのだ!


言いながら、達也自身も己に呆れている。許してくれたとはいえ、強引に迫ったあげくに泣かした相手なのだ。名前を教えてくれるとは思ってなかった。


のに


「ですね。ボクはリンです」


ボク? 達也は少女の自称に内心で戸惑いつつ


「リン?」


と訊き返してしまった。


「はい、リンです」


「…それは。奇遇なこともあるな」


さっきまでリフティングを教えていた少年も凛と名乗っていた。


いいや、そんなことより。


「君…リンちゃん」


「リン、でいいです」


食い気味にリンは言った。ちゃん、付けなんてゾワゾワしてしまう。


「あ~、分かった。リンはこんなとこに居ないで、はやくデパートに行ったほうが良い」


そう言われて、リンは「?」と小首を傾げる。

達也も「?」と思いながら確認した。


「だって、アイドルのオーディションを受けに来たんだろ?」


と、その時だった。


「リンさん!」


2人の女の子が、リンと達也とのあいだに割って入った。


翔子と純菜だ。


翔子はキッと睨みつけ


「また、あんたなの!」


純菜は黒光りするアイツを見るみたいに


「……ゾウリムシ」


相対した。


こうまで敵視されて、達也はへちょんと眉を下げた。


「いや、その……」


「2人とも、そんな顔しないで。達也さんには謝ってもらったし、友達になったからさ」


取り成すみたいにリンが言うと、ようやく翔子と純菜も物騒な顔を少しだけ解いた。


「ほんとうですか?」


「そこの毛虫に脅されてるんじゃありませんの?」


「2人とも酷いなぁ」


へちょへちょんと、いっそう達也の眉が下がってしまう。


まぁ、それでもイケメンだ。見る女性ひとが見れば、母性本能をくすぐるとか、そんな感じでトキメクかもしれない。


リンは「ホントだから」と翔姉えと純ちゃんを宥めた。


そうしないと、達也の眉がドンドン下がって、可哀想だったのだ。


「でも、翔子さんと純菜さんは、どうしてココに?」


リンが尋ねて、2人は『はっ』とした顔をした。


「そうそう、そうです! あたし達、リンさんを探してたんです!」


「ずっと屋上で待ってたんですけど、何時まで経っても姿が見えないので」


「とういうかですね。リンさん、どうしてこんな所にいるんですか?」


「そうですわ! はやく屋上に行きませんと」


2人がせと言うけれど


「ん、と…。でももう時間ないし」


リンは公園の時計に視線を向けた。


時刻は4時45分。

今からデパートに乗り込んでも、あの人込みだった。オーディションの締め切り時間の5時までに屋上まで行けるとは思えない。


翔子と純菜も同じことを考えたのだろう、肩を落とした。


「今回は残念だったけど、リンなら何時か絶対にアイドルになれるさ」


達也が励ます。


もっともリンはちっとも落ち込んでないのだけど…。


そんな達也の言葉を聞いて、負けてなるものかと翔子も言った。


「そうですよ! リンさんなら絶対です!」


「我がMISAKIデパートの催しでデビューが望ましかったのですけどね」


さすがは純菜! 岬グループの血を色濃く継ぎし者の言葉である。


「でも」と翔子が残念そうに

「あたし、もう一度、リンさんの歌を聴きたかったな」と言った。


「わたしも聴きたかったです」


純菜も言って、上目遣いのおねだりのポーズをする2人だ。


これにはリンも折れた。

というか! 翔姉えと純ちゃんにおねだりされるなんて凛にとっては初めてだったのだ。


「いいともさ!」


ドン! というよりは トン! とリンは自分の胸を叩いた。それでも「けふ」と咳してしまったのはご愛敬だ。


「歌っちゃうぞ!」


わーい! 翔子と純菜がハイタッチを交わす。


そんな遣り取りに入り込むこともできず、眺めていた達也は


「若いっていいなぁ」


20はたちのくせに年寄り臭いことを言って、苦笑するのだった。

短いですけど、本日はここまで!

次回! 笑顔ポイントがレベルアップして、リンに変化が!


3人称で書いてますが、あっちへコロコロ、こっちへコロコロ、めまぐるしく各々のキャラクターの内心に視点が変化して、読みにくいかもしれません。

でも、この書き方だと、すんごく書きやすいんですよね…。


しばらく、こんな感じで書いていくと思います。

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