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12:ファン1号と2号ができた日

日曜辺りに投稿と書いておきながらの、今日!

ステージで歌い終わったリンは、早いとこ逃げたくて仕方なかった。


何故なら、詰めかけている観客がジッと自分を見詰めているのだ。


これが生まれた時から美少女だと認識して、周囲から見られることに慣れているような女の子なら違ったろう。得意げに、少なくとも内心で当然だと思って、何事もなく観客の視線を受け止められたに違いない。でも、リンの中身の凛は、普通の一般的な小学生児童なのだ。おおぜいの人の視線を浴びるだなんて、初等部3年生の時の学芸会で演劇をして『ここです桃太郎さん』という村人Aの台詞を言った時ぐらいしかない。


そういう訳で。


「おっし」とガッツポーズをしたリンは、そそくさと逃げるようにステージをおりた。


司会者が引き止める声なんて聞こえない。

いいや、聞こえてはいた。でも、なにやら大声をだされて『これは絶対に怒られるやつだ』そう早合点して、リンは仕舞には駆け足していた。


リンの前は自然と人込みが割れた。そして走り去ると、人込みは元に戻る。おかげで、司会者はリンに追いつくことができなかった。


屋上から屋内へ。エレベーターの前で、やっとこさリンは足を止めた。


こわ! アイドルなんて無理だ、無理!


そう怖じ気づいていたリンの手を


「君!」


突然に取った男がいた。


それはリンにいきなり名前を訊いてきた真っ白スーツの人だった。


「頼む! 名前を教えてくれ! 住所と、電話番号も!」


鬼気迫る形相でせまられて


「ヒッ!」


リンはヘタリコと腰を抜かしてしまった。

リンは凛でありながら男の子の凛じゃない。今は女の子なのだ。


「お願いだ! 俺のものになってくれ!」


男が目を血走らせながら詰め寄る。

リンは涙目で頭を振るのが精いっぱいだ。


この時、この場所に、リンと真っ白スーツ…神宮寺達也しかいなかったのは、リンにとっては不幸だが、達也にとっては人生最大の幸運だったろう。さもないと、誰がどう見ても通報まっしぐらだったのだから。


「頼むよ、お願いだ」


いやいや、と頭を振っていると『チン』と間の抜けた音がした。


「なにしてるんですか!」


エレベーターのドアが開いて、誰かが飛び出してきた。


このとき…神宮寺達也〔20歳と2ヵ月〕の幸運はなくなったのだ。


リンは男とのあいだに割って入ってくれた誰かの顔を見上げて、安堵でポロポロと涙をこぼしてしまった。


それは翔姉えだった。


ひし、と翔子の脚にリンはすがりつく。


一方で、一喝されたことで頭の冷えた達也は自分の仕出かしたことに動転していた。

パッとリンから離れるなり、拳銃を突きつけられた犯罪者の如く広げた両手を頭の高さにあげて、あたふたとしていた。


「あ、いや、これは…」


言い訳をしようとしていた達也の目が、割って入った女の子の向こうにいた、もう1人へと向けられて。


「純菜…ちゃん?」


何を隠そう! 神宮寺達也のかつての婚約者であるみさき若葉わかばの実の妹こそが純菜だった。とうぜん、顔見知りなのだ。


純菜はポヤポヤとしている。毒っ気のない雰囲気がある。


そんな彼女が


「最ッてー」


唾でも吐き捨てるように言った。


今まで異性にそんなガマガエルを見るみたいな目を向けられたことのない達也である。

ショックは測り知れない。


またしても達也はフリーズしてしまった。


……彼は、前向きな割に打たれ弱いのかも知れない。


そんな固まった達也を尻目に、翔子と純菜はリンを庇うようにしてエレベーターに乗り込んだのだった。


「もう安心ですからね」


翔子は、しゃくりあげるリンの背中をさすりながら言った。


「まったく、あの人は…!」


純菜が鬼のような形相で毒づく。


「知り合いなの?」


翔子の質問に、純菜は鬼面を解いて


「すみませんでした!」


リンに向かって頭を下げた。


「どうか警察に通報しないでください」


「わかった、しないよ」


リンはスンスンと鼻をすすり上げながらうなずいた。


小学生的な思考のリンにとって、警察は『恐いところ』なのだ。できればお近づきになりたくない。


「で、あの人は誰なの?」


翔子はリンにティッシュを差し出しながら訊いた。


チーン! とリンが鼻をかむ横で純菜が居心地悪そうに答えた。


「あの人は……姉の元婚約者なんです」


「外聞とかがあるってわけね」


「…はい」


「別にあたしはどうもしないよ、リンさんも我慢してくれてるみたいだし」


「ほんとうに、すみません」


純菜が、もう一度頭を下げる。


チン、と音がしてエレベーターのドアが開いた。


到着を待っていた人達が乗り込もうとして、泣きはらした表情のリンを見て二の足を踏む。


「ちょっと、そこのベンチに座って休みましょう」


「そうしたほうが良さそうですわね」


翔子と純菜にリンはいざなわれて、3人は隅のほうにあるベンチに座った。


リンは翔子にティッシュを返しながら


「助けてくれて、ありがとう、翔ね…翔子さん」


と感謝した。

因みに鼻をかんだあとのティッシュはポッケにないないしてる。汚い? 小学5年生男児なんて、そんなものなのだ!


「あたしの名前、憶えててくれたんですね」


「うん」


リンはコクリとうなずいた。

元気がないのは、翔子や純菜に泣いているのを見られてしまった気恥ずかしさからだった。


「リンさんは、アイドルのオーディションを受けに来たんですか?」


翔子はリンを励ますためなのか、ちょっとテンションを高くして訊いた。


「うん」


やっぱり、リンはコクリとうなずく。


「いいと思います、アイドル! あたし、大賛成です!」


「でも…やめようと思うんだ」


「ええ? 何でですか?」


「恐いもん」


それで翔子は黙ってしまった。

女の子なら、あんな目にあって怯えない方がおかしい。


代わりに純菜が言った。


「あ、あのですね。わたしも、リンさんがアイドルになるのは賛成です! いきなりこんなこと言いだして、不躾だと思うかもしれませんが、わたし、そこにいる翔子さんと友人で、あなた…リンさんのことを聞いてたんです。それで実際に見たらホントに綺麗で……あ~なに言ってるんだろ、わたし。その、ですね……リンさんがアイドルになったら、とっても素敵だと…そう思っちゃったんです」


言った純菜は真っ赤になってしまっている。


リンは小首を傾げて純菜をしげしげと見た。

こんなアタフタした純ちゃんを見たのは初めてだったのだ。


そんな視線を勘違いしたものか


「名前、まだ言ってませんでしたね。わたし、純菜って言います」


自己紹介をした。

それも湯気を吹きそうなほど真っ赤になって。


そんな様子がリンのツボに嵌まった。


くすくすと笑ってしまう。


リンが笑ったことで、翔子も純菜もホッとしたようだった。


「そこまで言うなら、もう少し考えてみるよ」


よかった。純菜が安堵の息を吐く。

知り合いのせいで、リンが夢を潰してしまうのが心苦しかったのだ。


「さて」とリンは立ち上がった。

「ボク、もう行くよ」


正直、翔子や純菜にTSした姿をみられるのは気恥ずかしい。


「もうですか? もっとお話とかしたいのに…」


「ごめんね、用事があるんだ」


「なら、リンさん。ひとつだけ訊いておきたかったことがあるんです」


「なに?」


「昨日のことです。リンさん……事故が起こるって知ってたんじゃありませんか?」


まずい! と思うリンだった。


目があっちへキョロキョロ、こっちへキョロキョロしてしまう。


そんな様子を見て


「あ、もういいです」


翔子はあんがい簡単に引き下がった。


「あたし、別にリンさんを困らせようとは思ってませんから」


ホッと安堵の息を漏らすリンに、しかし翔子は続けて言った。


「じゃあ、電話番号、教えてください」


これにもリンはあっちへキョロキョロ、こっちへキョロキョロである。

だって仕方ない。リン=凛なのだから、電話番号をおしえたら速攻でばれる。


翔子と純菜は顔を見合わせた。


「電話…ないのかな?」


「貧乏なんでしょうか?」


「でも、服は綺麗だよ?」


「見栄とかありますから」


ボソボソと話し合って、翔子は労わるみたいな顔をした。


「あ、やっぱし今のいいです。その代わり、あたしをリンさんのファン1号にしてください!」


「でも、アイドルになるか分からないし…」


「それでもいいんです! お願いします!」


神様を拝むみたいに両手を組んで見上げる翔姉えに


「わかったよ」


リンは負けた。


「でしたら、わたしは2号でお願いします!」


純菜までそんなことを言い出す始末で、リンはこれもまたうなずいたのだった。





そそくさとリンはトイレに突入した。

個室にはいって、呪文を唱える。


金色のつぼみが開いて元の男の子にもどった凛は、ふつうに扉をあけて。


おしっこをしている人や、手を洗っている人が、自分に注目していることに気づいた。


「あれ? 変身が解けてないのかな?」


そんなことを呟く凛の頭を


「馬鹿か!」


「愚か者!」


タックとチックが容赦なく叩いた。


それもそのはずで、美少女が男子トイレの個室に駆け込んだと思ったら、そこから男児が出てきたのだ。

驚かないはずがない。


こうして2匹のハムスターは、ヒマワリの種10個分の腹減りパワーを5人分も使うことになったのだった。


しかも、だ。


「何処行ってたのよ!」


トイレを出たところで翔子と純菜につかまって、こっぴどく叱られてしまった。


まぁ。何時も通りの凛なのだった。

エレベーターに翔子と純菜の2人しか乗っていなかったご都合主義!

あと、神宮寺達也はリンに対して汚名挽回…もとい汚名返上できるのか?

それは作者にも分からない!

まさかリンを泣かすとは思ってなかっただけに無理かも知んない!


最後の辺りは文章が雑だけど、ごめんなさい。


改稿で、リンに翔子が電話番号を訊くくだりを追加。

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