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118:決着の日

さて、4投目も外しちゃうか。


明日からゴロ寝する自分。

今ぐらいの時間帯にはフジテレビの『3時のあなた』と朝日テレビの『独占!女の60分』を交互にザッピングしているだろう自分を想像して。


あれ?


と麗華は違和感を覚えた。


なんか、それって、ちょっと…

つまらなく…ない?


そう思った。

思ってしまった時だ。


頭の中に、何かがスルリと入り込んだ。



***


まとの中心に手裏剣が刺さった。


カッ! カカカカッ!


その上に下に手裏剣が連なって


パカン


木製の的は真っ二つに割れて地面に落ちた。


「すげぇ!」

「さすが、雲類鷲!」


眺めていたクラスメイトから讃嘆の声がもれる。


当然よ。だってウッチーは天才なんだから。

フフン、と礼花は内心で鼻を上向かせる。


礼花と麗華は、幼馴染で、友達だった。


親友?


そんな大層な言葉はつかえない。

だって、ウッチーは里の大人たちが期待する天才なんだもの。


対して、礼花は平凡だった。

いいや、乗り物に弱いことを考慮すると、落第生ですらあった。


そんな礼花に


「いいじゃん、いいじゃん。乗り物酔いしちゃうなら、ほうぼう行かされることもないし」


そう麗香は慰めてくれたものだ。


そんな天才が、中学生に上がるとつまずいた。


嘘のように成績が悪くなったのだ。


みんなは口々に言った。


「10で神童、15で才子というけど、才子ですらなかったな」


ひどい!


礼花は憤慨した。


ウッチーを馬鹿にするな!

ウッチーは凄いんだから!

あなた達なんかよりも、ずっと!


礼花は奮起した。


見返してやる!

手の平を返した連中に目にもの見せてやる!


それから音無礼花は血のにじむような努力を重ねたのだ。

頑張って、頑張って、1番になった。


ウッチーが調子を戻すまで、わたしが頑張るんだから!


だんだんと。

考えが変わる。


そんな背中を丸めないでよ!

俯かないでよ!


身勝手な期待は何時しか麗香に対する失望となって。


情けない奴!


失望はそのまま苛立ちに変質した。


それでも。

それでも。


礼花は、かつての天才への憧れを捨てることができずにいた。


だから、麗香がアイドルの、それもリンの付き人に抜擢されたと聞いて嬉しかったのだ。


なのに…。

なのに!


名前違いだぁあああ?!


許せなかった。

何に対して許せなくなったのかは自分でも分からないけど、麗香に引導を渡すつもりで自転車を漕いで、フェリーに揺られてゲェゲェ吐きながら、えっちらおっちら、ようよう撮影場所まで辿り着いたのだ。



**


というような礼花の気持ちが入り込んできて、麗香は礼花をかえりみた。


いうまでもないけど魔法だ。

混線した魔法が、礼花の気持ちを麗香に通じさせてしまったのだ。


さて。

そんなトン単位に重い想いをみせられた麗香はといえば。


え! わたしが天才とかいわれてたの10年以上前だよ?

まだ期待してたの?

どんだけだよ!


と呆れるのと同時に


ホント、どんだけさ。


いまだに期待を寄せているお馬鹿さんがいることに感動してもいた。


そう!

感動しちゃったのだ。


もちろん魔法のパワーだ。


魔法の効果がなかったのなら、120パー確実に感動はしなかったろう。


呆れただけで終わりだったはずだ。


でも、今回は感動してしまったわけで。


「ふっ」


息を抜いて、ボードに意識を集中する。


麗香の背筋がピンと伸びた。

顔が上がる。

前髪のあいまから鋭い視線が覗いた。


シッ!


呼気とともにダーツを投げる。


「おお!」


驚きの声が見守るみんなから漏れる。


ダーツは見事に命中。

それどころか真ん中だった。


かつての天才を彷彿させる鋭さに、礼花が目を見開く。


それからも麗香は次々にダーツをボードの真ん中に当てた。


すごい! 

ウッチーは、やっぱり凄いんだ!


興奮しているのは礼花ばかりじゃなく、みんながみんな、麗香が投げるたびに歓声を上げるほどだった。


7発、すべてボードの真ん中に的中。


するってーと? 70点と70点で


「どー点だ!」


リンが大きな声で言った。


おおおお! 絶対に負けると踏んでいた麗香の起こした奇跡に、怒声にも近い大声が巻き起こる。


と。


そんな興奮する人込みから、颯爽と奴が現れた。


パチパチパチ。


拍手をしながら歩み出たのは達也である。

真っ白ジャケットが都合よく戻ってきていたのだ。


ちなみに若葉はいない。

彼女は彼女で忙しいのだ。決して作者が登場人物が混雑してセリフを掻き分けるのが面倒になるのを避けたとかじゃないのだ!


場違い……もとい、ハンサムな登場に、みんなが注目する中で、達也は言った。


「同点なら、2人を雇うしかないね」


「やった!」


リンが文字通り跳び上がって喜ぶ。


え!?


と驚いたのはダブル・レイカだ。


礼花は実のところ雇ってもらえるとは思っていなかった。

だって乗り物に乗れないのだ。


「わたし、その……」


「君のことは若葉から聞いてるよ。事情は分かってるから、事務所の近くに住まいを借りて事務仕事をしてくれたらいいさ」


音無礼花。

やっと雇ってもらえたのだ。


嬉し泣きする礼花の隣りでは、麗香がいまだに『え?!』と驚いてフリーズしていた。


「ああ、雲類鷲くんには引き続きリンのマネージャーをしてもらうよ。相性も好いみたいだしね」


ポロポロと麗華の両目から大粒の涙がこぼれた。


「ウッチー!」


嬉し泣きだと思った礼花が抱き着くけど、ええ、もちろん違います。


やってもうたああああああ!


麗香は自堕落な生活をみすみす逃してしまって後悔の涙を流していたのだ。






こうしてアポロプロに2人の社員が入ったわけだけど。


まぁ、礼花は真面目にやっていた。

基本的に優秀なので、問題もなかった。


問題があるのは


ガラガラガッシャーーーン!


事務所に派手な物音がして


「おわちゃああああ!」


ブルースリーの怪鳥音も真っ青な達也の悲鳴がした。


熱々のお茶を運んでいた麗香がスッ転んで、達也に湯呑ゆのみの中身をぶちまけたのだ。


雲類鷲麗香。

天才が全身全霊をかけて10年間もの長きにわたって演じていたポンコツ設定は、化けの皮が皮膚に癒着して、完全完璧に同一化していた。


つま~~り。

かつて天才と呼ばれていた彼女は、正真正銘のポンコツになっていたのだ。


ダーツ?

いや、だって麗香さん。暇さえあればダーツをしてましたからね。そりゃ、上手にだってなりますよ。


「ご、ごごごごご、ごめんなさい!」


麗香は大慌てに達也の顔面を拭くけど


「ぶへ! くさ! これ、雑巾じゃないか!」


もはやワザとやっているのでは礼花が疑うほどの無惨っぷりだった。


そんな麗香は、猫背で、顔も俯かせている。

演技というよりも、こっちが素になってしまっていた。


転ぶのだって、運動不足で足腰がなまっているせいだったりする。

日に何回と転ぶので、今日も麗香のズボンの膝っ小僧は黒く汚れているのだ。


そんな麗香は言いました。


「社長、申し訳ないのですが、明日、お休みを貰ってもよろしいでしょうか?」


「突然だね?」


「親戚の法事でして」


と、ここで


「嘘ですよ、社長」


礼花が事務仕事をしながら目を向けることもせずに言ったのだ。


「里の者はみんな親戚みたいなものですから、何処かで法事があれば、わたしにだって連絡がきます。それがありませんから」


「雲類鷲君、どーゆーことかな?」


達也が厳しい顔をすると、麗香は白状したのである。


「だって! 明日はドラクエ3の発売日なんですよ? 今日の夜から並ばないと買えないんですよ?」


ドラゴンクエスト。言わずと知れた国民的RPGだけど、特に3の人気は物凄くて、購入するために前日から列に並んで、ビックカメラ池袋東口店では1万人を超える長蛇になってしまったほどなのだ。ニュースにもなったんだって。


こうと聞いて、さすがに礼花も席を立ちあがった。


「ゲームが欲しいから嘘を吐くなんて、何考えてんのさ!」


「オッちゃんこそ、ばらさないでよ!」


「ばらす、ばらさない、の話じゃないでしょ!」


「ドラクエ欲しいんだよおお!」


ギャーギャー言い合うダブル・レイカに、達也は「はぁ」と溜め息をついた。


早まったかなぁ。と思わずにいられない。

この2人。仲が良いのか悪いのか知らないけども、1日に数回はこうして口喧嘩をするのだ。


「おっはよー!」


ドアを開けて、リンが挨拶をした。


ギャーギャー遣り合っていた2人の口がピタリと閉ざされて


「「 おはようございます 」」


声を揃えてダブル・レイカが挨拶を返した。


「おはよ」


達也も挨拶をする。


さて、と。今日も仕事をしますか。

これにてマネージャー篇はお終いです。

次回からは10月に突入。

折り返し地点? ということで大事件が起こります。

某クリーミーなアニメを視聴した読者さまならお分かりでしょう。

前半のクライマックスです!

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