【お題】あかつきとキリギリス
メタくなるのは仕様です。
「寒いね」
「うん、寒いね」
雪降り積もる中、道端には倒れている二人がいた。
道行く人はちらちらと視線を向けるが、すぐに逸らす。まるでそこには誰もいないかのように。
「楽しかったね」
「うん、楽しかった」
二人のガサガサにひび割れた唇がかすかに動く。他人には聞こえない声ともいえない声。だが、二人には互いの言っていることが理解できた。
・・・
春、二人は出会った。すぐに仲良くなった二人は一緒に暮らし始める。「家賃が浮くから」そんな理由だった。
夏、二人は人生を謳歌した。
「ほら、こういう誤字脱字が女子にモテるんだ」あかつきの笑顔は最高にシャイニングだった。
秋、健康診断でキリギリスの病気が発覚した。冬まで生きられない。宣告された余命はあまりに短く、キリギリスの狼狽の程は言葉に尽くしがたかった。
そんなキリギリスにあかつきは言う。「最後まで一緒にいるよ」と。
その晩、二人は身体を重ねた。
冬、延命治療の一切を拒否し、一緒に過ごすことを選んだあかつきとキリギリスは雪降り積もる中、路上の片隅いた。
あかつきはソシャゲのガチャに課金し過ぎてお金が無く、キリギリスはもとより蓄えが無かった。そうなるのは自然な流れだったのだ。
薄汚れた二人を気に掛けるものはこの街にはいない。
本当に世界で二人きりになった…そう思うと幸せだった。
キリギリスがそっと瞼を閉じる。
ああ、もうこの瞼は開くことはない。そう思ったあかつきの心に少しの寂しさが生れる。
だが、その顔には微笑みがあった。
「おやすみなさい」誰にも届かない声が雪の降り積もる音に静かにかき消されていった。