【お題】魔っ具売りの少女・リストカット
「痛みを感じることで生きていると実感する」
そんな馬鹿な事は無いと私は自分の左手首について消えない傷跡を見るたびに思う。
「自傷する度に周りが気に掛けてくれ自分が特別な存在に感じられた」
私を心配する人なんていなかったなと、左手首のかさぶたを掻きむしりながら思う。
今だってそうだ。
魔具を売り歩く私を誰も見やしない。気にも留めない。
時々、性癖を拗らせたような奴が話しかけてくるだけ。魔具界隈は変態の集まり。じゃぁ、それを売り歩く私は何だ?
決まっている。変態以下だ。
そんな変態以下な自分に今の状況は相応しいと思う。
視線を下げ、己の身体を見る魔具売りの少女。体中のあちこちから血が滲み、その元となっている傷は左手首についたものとは違い、本当に少女の命を刈取りにくるものだった。
裏路地の奥。
少女が逃げ込んだそこに迫るのは丸い顔に虚ろな目をした異形の存在。都市伝説でpinoと呼ばれている怪人であった。
「イイモノアルヨ…」
Pinoは言う。
動けなくなった少女の左手を掴み、ぐいと引き寄せたpinoは、少女に頭突きを喰らわせる。
少女の歯が飛び散る。鼻血が花が咲く様に飛び散る。
意識を飛ばした少女の目は上を向き、白目をむいた。しかし、pinoの頭突きは止まらない。
いや、それは頭突きではなかった。
歯ぐきから流れ出る血を気にもせず、ぐりぐりと自分の頭を魔具売りの少女の口の中に押し込んでいくpino。
奴は“自分を”喰わせていた。
どれぐらいの時間が経ったのだろう。
少女はいつの間にかpinoになった。
Pino…魔素を司る魔王とはまた違う、人を保存するシステム。
己を食わし、その者をpino化することで力を与え、その者を守る。それが当初の目的であった。
世界が安定したその時、pino化した者達は女神フリアエの加護を持つギルドマスターろうるによって人の姿と記憶を取り戻す。
しかし、ろうるは他ギルドの女性に手を出し、今まさに処されようとしていたのであった。