3話
実は特殊能力ある世界です。
タグはつけてないけどこれは最早異世界。
「やっぱり君は運命を変えられなかったのか」
第三王子ことレイザール殿下は、俺の悲壮感漂う顔を見て、そう言って悲しげに笑った。
その隣には、令嬢にしては些か立ち居振舞いが見惚れるほど男らしい可憐な少女が立っていた。確か名前はターニャと言っただろうか。婚約者だった⬛⬛⬛のフェミーリアを蹴落として王妃の座につくあたり実力は相当のものなのだろうが、彼女は俺を気遣う王子とは真逆の冷え冷えとした視線をこちらに向けている。
二人の両極端な視線に耐えられなくなったからだろうか。夢の中の『俺』は、一般的な貴族であれば考えもしないであろう言葉を紡いだ。
「『やっぱり』って、襲撃を知っていたな!?それなのにどうして止めなかったんだ!お前なら二人を助けられただろう!なのに…何故だ!」
大切な二人をほぼ同時期に亡くしたからだろう。
最早何も怖くはなかった。不敬罪など知ったことではなかった。そんなものが怖いなら、恐ろしいのなら、二人を亡くしてのうのうと生きていられるはずがないのだ。
ただ一つの楽園を失って、それなのに。
「甘えないで下さい。殿下の優しさに付け入ることも理不尽に罵ることも、他の誰が許そうが、私が絶対に許しません」
滔々と、駄々をこねる子供を諭すように、ターニャは
『俺』に言い放った。ああ、悔しいけれど、彼女の発言は正当性のあるものだ。
何故そう断言出来るのかは自分でも分からないが、『俺』が王子の優しさに付け入ろうとしたのは事実であることは解るのだ。
王子の傍観を責める理由なぞどこにも存在してはいなかった。俺も二人の死を知っていた。それなのにその運命に抗うことすらしなかったのだ。
そんな俺が自分を差し置いて誰かを責めるなど出来るはずもない。
「運命は自ら切り開くもの。なればこそ、殿下に怒りの矛先を向けるのは筋違いと言うものです。しかし…そうですね、これではあまりにも後味が悪い。お伽噺のようにハッピーエンドまでは望みませんが、少なくとも私は私のせいで生じてしまった『他の誰かのバッドエンド』は見たくありません」
ふわりとドレスがひらめいて、彼女のどうしようもなく綺麗な蒼の瞳がこちらを捉えた。
光る眼に変化する髪色。本来であればそれは怯えるべきものなのだろうが、不思議と恐怖はなく、先程のように見惚れることもなかった。
「能力を表立って使うのはこれが初めてですね。まあ彼が過去を変えればこの世界は『はぐれる』のでこれが最初で最後となるんでしょうけど」
「能力?はぐれる?一体何の話をしているんだ」
突然出て来た訳の分からないワードを反芻すると、王子とターニャは顔を寄せあって楽しそうに笑ってみせた。
「殿下が言うに、確定した未来を変える変則コードですよ。お二人が亡くなったきっかけは、極論私にありますから、責任を持って貴方の過去を巻き戻しましょう」
最早何が何だか分からない。
分かるのは、彼女の行動によって引き起こされた悲劇が俺を取り巻く環境であり、それは彼女の有する『コード』を手に入れれば変えられるかもしれないと言うこと。
けれど、それさえ分かれば十分だった。
結果として記憶を失ったとしても、過去を巻き戻せるなら、本能が悲惨な過去を繰り返すまいと動いてくれるだろうから。
「これから君が目にするのは遠い昔に滅んだ魔術の残骸…謂わば特殊能力だ。これを目にしたが最後、いや、これを思い出したが最後、君は君ではなくなるよ。もしかしたらもっと酷い惨劇を目撃することになるかもしれないし、君の行動によって僕たちが敵になるかもしれない。それでも構わないと言い切れるかい?」
ああ、構わないとも。
そう告げて、二人が亡くなってから一度も浮かべてなかった笑顔を浮かべた。
ターニャは満足した顔で頷き、そしてたった今『それ』を思い出したかのように、パッと笑みを浮かべて言い放った。
「貴方の婚約者が死ぬ前に私の元に来たのよ。
この特殊能力、過去を変えるためには生贄が必要なの。彼女は自ら立候補したわ。殺される運命に感付いていたんでしょうね。
貴方の枷を私がつけてあげるから頑張りなさい。助けに来なかったら未来永劫祟ってやるわよ!
これが彼女の遺言よ。
それじゃあ健闘を祈るわ。運命に、負けないで」
負けるものか。だって、⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛訳にはいかないのだから…
「んぐ……もう朝か」
手掛かりとなる夢を見た気がした。
現時点でも行き過ぎた妄想である可能性を切り捨てることは出来ないが、妄想にしては全てがあまりにも現実と似通っている。この時点では知り得なかった情報を無理矢理入手して照合したところ、『俺が関わっている部分』以外の情報は夢で知ったものと全く同じだったのだ。
やはりこれは嘗て現実に起こったことなのだ。
それを伝えるべく、上体を起こし、いつものように執事服を…
「お早いお目覚めでございますね。感心感心」
「うおっ!ちょ、突然なん…てか誰!?」
着られなかった。執事服を手にとろうとしたところで、メイド服の少女が音もなく俺の目の前に降り立ったからだ。屋敷内の人物を全て把握している俺が知らないということは、彼女は正規で雇われた人間ではない。
まさかカイルへの暗殺者なのかと疑っていたところに、彼女は無表情で淡々と質問に応じた。
「私はカイル様の愛人ことラフィエルです。ザキ・サランの差し金で参りました」
「はあ!?」
「嘘です。すぐに信じるなんて愚かですね」
もしや喧嘩を売っているのだろうか。
ただでさえ気が立っているのにこのような言動をされれば苛つく以外の選択肢は残っていない。昂る気持ちのまま口を開こうとすると、彼女は深々と頭を下げながら弁明した。
「申し訳ございません。貴方がどれくらいザキに憎しみを抱いているのか確認させていただきました。私は完全な味方ではありませんが、ザキの絶対的な敵です。
そんなわけで今日から雇い主のカイル様に頼まれてこちらに配属となりました、ラフィエル・ガートと申します」
とあるアニメの映画を先週見て思った。
現実と若干連動している夢のお話…もう作品化されてるのかい。




