別れ ネット小説大賞五
俺はこのスペースシャトルの窓から外を眺め、別れた彼女のことを考えていた。
窓からはステーションが見える。まだ飛び立つ前だ。俺の頭では彼女との思い出が浮かんでいた。
彼女と会ったのは今からちょうど一年前。火星の高校にいたころ、俺はバスケに夢中になっていた。結構人気があって女の子のファンが数人いた。その中に彼女がいた。彼女とはなぜか話す機会が多くそのうち惹かれあっていった。
「前から聞こうと思ってたんだけど、なんでバスケしてるの?」
デート中に唐突に彼女が言った。
「ん? まあ……強いて言えば、弟のためかな」
「弟?」
「ああ。ちいさい頃によく一緒にやっててね。バスケ」
「そうなんだ」
「ああ」
ほんの少し間をあけて俺は言った。
「今病院にいるんだ、弟」
彼女は驚いた顔をしたが黙って聞いていた。
「病気が治らないんだ。もってあと数年らしい」
となりで彼女はうなずいている。
「あいつの夢をかなえてやりたくてね」
「夢?」
今度は俺がうなずいた。
「地球でプロバスケットプレイヤーになること。でももう弟は足が動かない。だから替わりに俺がなってやるって約束したんだ」
「そうなんだ」
それきり彼女は黙ってしまった。
すると突然前に出て、こっちを向き、
「応援する! 絶対!」
と言うと、にかっと笑った。
俺はそんな彼女が好きだった。
シャトルの外を窓越しに眺めていた俺は時計を見た。そろそろ出発か。あれから色々あったな。嫌なこともいい事も色々あった。けんかもした。弟にも会わせた。あまり思い出したくない思い出だ。あれは確か――
彼女と付き合って半年ほどたったころ、俺は弟を紹介した。いつもは寝てるのだが、気を使ったのか、車椅子で俺たちを出迎えた。
「はじめまして」
弟はにっこりと微笑み言った。
「はじめまして」
彼女もそれに答える。病気のことはひと通り話しておいたが、笑顔がぎこちなかった。しかし社交的な性格の弟が話しをリードして、だんだんと自然な雰囲気になっていく。しかしそれを見ていた俺は何か小さな違和感を感じていた。いまではそれが何かはっきりとわかる。しかしその時の俺はその感覚を気のせいと思い、よく考えなかった。
一週間に一度くらいのペースで俺は彼女を連れて病院に訪れた。弟と彼女は会わせるたびに親密になっていく。俺は大切な弟を大事にしていると思っていた。
ある日弟が唐突に彼女をどう思っているのか聞いてきた。俺は大切な人だと言った。そう、とだけ言ってそれきり黙ってしまった。俺はまさかと思った。次の日彼女に何気なく弟をどう思うか聞いた。
「好きだよ」
こっちを見ていない。
「男としてか?」
長い沈黙のあと彼女は言った。
「うん」
そんなことを考えていると、機内アナウンスが流れた。地球につくのは今から五時間後。これでもずいぶん早くなったらしい。親父が言っていた。アナウンスはスマホの電源を切るように呼びかけている。俺はスマホを取り出した。メールが二通きていた。一通めは弟だ。
『兄ちゃん。おめでとう。ついに兄ちゃんの夢がかなったね。地球では風邪に気をつけてください。火星から応援しています』
お前の夢だろ、とは言えなかった。いつものにか地球でプロとしてプレイすることは俺の夢にもなっていた。まあバスケに打ち込まなければやってられなかったのだろう。
俺は彼女を弟に譲った。言い方はおかしいかも知れないがそうなるだろう。それが一番よかったのだろう。
もう一通は彼女からだった。
『ごめんね P・S頑張れ!』
電源を切り背もたれを倒した。二人には『行ってくる』とだけ返信をした。
そしてシャトルは火星から地球へ向け出発した。




