硬派系攻略対象の考察
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
俺の幼馴染みは、超人だ。
俺も十分優秀の部類に入るらしいが、紫安を見ているととても信じられない。
何をやらせても効率的且つそつなくこなし、求められた以上のことを容易く成し遂げてしまう。
あいつはそんなやつだ。
子供の頃から表情が乏しかった俺と違って、紫安はいつでも柔らかな微笑みを浮かべていた。
でも何故だか、俺と同じくらいに表情が乏しいように思えた。
あいつのどこかに俺と親しいものを感じた。
紫安はもともと母の実家があるフランスにいることが多く、あまり会う機会がなかったが、俺らが6歳になると、会うことがなくなっていた。
紫安は勉強があったらしいし、俺も家の道場で稽古があって忙しかった。
次に紫安と会ったのはそれから2年経った頃だ。
その日は皇家の御曹司の7歳の誕生日で、皇家の庭に同年代の名家の子供達が集められていた。
俺には未だによくわからんが、俺達の世代は美形が多いらしく、それを見に来た貴婦人方もたくさん参加していた。
俺は今まで通り、隅の方で1人でやり過ごそうと思っていたけれど、運悪く壁際で年の近い令嬢達に捕まってしまった。
「りゅうと様、あっちでわたくし達と話しましょ?」
「りゅうと様、りゅうと様はどんなお料理が好きですか?」
「ちょっと、りゅうと様は今、わたくし達と話していますのよ?あなたの順番をお待ちなさい」
いつの間にか令嬢達が睨み合っていた。
知らない人──特に女子──と喋るのが苦手だった俺が、令嬢達に上手く答えられなくて困り果てていたところに
「ごめんね、通してもらえるかな」
どこか甘い響きがある声が令嬢達の後ろから聞こえてきた。
「誰ですの、あ──しっ、しあん様!」
「しばらく会っていなかった友人と話がしたくてね。邪魔しちゃったかな?」
「いえ!とんでもないです!」
「そう?よかった。少し、失礼するよ」
言い争っていた令嬢達の間に割って入った少年は、俺の手を取ってテラスの扉の方へ俺を引っ張っていく。
「あの少年が柊の次代か。随分としっかりしていらっしゃる」
「柊様がパーティーに出席しているなんて珍しいですわね。いつも海外にいて、なかなかお目にかかれないって評判ですのに」
「なんでも暫く日本にいるそうよ」
「まあ、そうですの?なら、学園には……」
俺らを見た大人達が話しているのが聞こえた。
「琉斗の女嫌いは変わらないね」
「え?」
8歳になった紫安は、同い年の男子の中では身長の高い方の俺と同じくらいの背だった。
顔つきは少し大人っぽくなっていたけれど、瞳は記憶通りの深い緑色だった。
そういえば、紫安は昔からよく、俺の思っていることがわかっていた。
「別に嫌いじゃない。それと……帰ってたなら、連絡しろ」
紫安はしぱしぱと長い睫毛を上下させて瞬く。
「……うん、次からそうするよ。久しぶり、琉斗」
そこにはいつもの微笑みがあって。
──俺には紫安の笑みの下にある感情が何か、わからない。
「紫安、学園に入るのか?」
でもいつか、紫安が俺のことがわかるように、俺も紫安のことがわかるようになりたい。
こいつを見ていれば、わかるようになるだろうか。
紫安はそれから半年の間、清園学園の小等部に通った。
その期間で紫安がテストで満点以外の点数を取るところを、俺は見ていない。
あいつの規格外の片鱗を見た気がした。
紫安がイギリスに留学してからも、俺達は連絡を取り合うようになった。
紫安は度々日本に来たし、俺もイギリスへ遊びに行った。
そして俺らが高校へ上がると同時に、紫安は日本に帰国することになった。
俺の幼馴染みは物腰が柔らかくて、口調もいつも優しい。
だがその実、結構食えない性格をしている。
本人は隠す気がないのか、これはすぐにわかった。
そして、親も認める腹黒のくせして「僕は至って純潔だよ」と笑顔で言って退ける程の豪胆な男でもある。
紫安の場合厄介なのは、猫の下に見え隠れする真っ黒も、本心を隠すための目眩ましであることもある、というところだ。
間違いなく素である時が多いが。
そんな幼馴染みだが、高校に入学してから何やら考え込むことが多い。
あいつが話してくれるまで、俺には何もできない。
だがあいつがいつか、俺を頼ってくれるなら、その時は俺は全力で友達の紫安の力になろうと思う。
以上、琉斗さんでした!
読んで下さってありがとうございます。