学園長の委員会
ブックマークなど、ありがとうございます。
とても励まされています。
部活の仮入部も来週からだったので、その日の放課後から2人の勉強を見ることにした。
善は急げって言うし。
なので今、3人で図書館の机の1つを陣取って勉強会をしている。
わかっていたことだが、2人は別に頭は悪くない。
清園学園では求められるレベルが高いだけで、むしろ頭はかなり良い方だ。
物覚えは良いし、呑み込みも早い。
つくづくこの世界は攻略対象に甘いと思う。
「僕は今から委員会に行くから、2人は休憩してていいよ」
「はああーーーー」
燈真が脱力して図書館の机の上に突っ伏す。大袈裟な。
「A組のやつらって、全員こんななのか?」
「どんなかは知らないけど、2人とも今回のテストはかなりいいところまでいくんじゃない?」
「いかなかったら割りに合わないって」
琉斗が隣で無言の肯定をする。
「ともかく、2人とも良く頑張ったね。呑み込み早くて助かったよ」
「紫安様から労いの言葉を頂いきました……」
「……飴と鞭?」
「琉斗?」
俺の前で大の男がガクブル……
「じゃあ、行ってくるね」
「はい!行ってらっしゃいませ!」
「燈真、図書館で大声出すな」
「琉斗……?お前、俺と紫安で対応なんか違くない?」
「ヒエラルキー、カースト、ジャーティー」
「なるほど……って納得しちゃダメだ、これ!」
愉快なやり取りを聞きながら、俺は図書館を出る。
今日の委員会は各クラスの級長の顔合わせみたいなものだろう。
他にすることと言えば、新入生歓迎会の打ち合わせくらいか。
ってそれがメインか。
部屋に着くと他の4つのクラスの級長は既に集まっていた。
俺が入ると直後に扉が再び開き、如月玲奈が入ってきた。若干息が上がっている気がする。
「いましたのね、柊様……」
「もしかして探してくれてた?ごめんね」
「いいえ、お気になさらず」
何だか良くわからない人だ。責任感は強いみたいだが。
「来たか、柊、如月」
櫻井先生がプリントの束を持って部屋に入ってくる。どうやらここは彼が取り仕切るらしい。
働かされてんな、先生。
如月玲奈と一緒に空けられていた椅子に座る。
「んじゃ、始めんぞー。知ってる人が多いと思うが、みんな簡単な自己紹介をしてくれー。ちなみに俺は櫻井だ。じゃあA組から」
言われた通りに、俺から名前だけ言っていく。
琉斗のB組からはいかにも委員長という感じの男女。
燈真と同じC組の2人も真面目そう。
D組からはクラスのムードメーカー気質の男の子にギャルっぽい女子。
E組は大人しそうな女の子とやたらと派手な男子。
「A組は片桐じゃないんだ。意外」
D組の人懐っこい感じの男の子が俺を見ながら言う。
やっぱり去年まではあの片桐っていう奴がやってたのか。
俺は級長の座を横取りした感じか。
「軽口は後にしてくれー。新入生歓迎会の話をするぞー。知っての通り、新入生歓迎会は中間テストの最終日の次の日だ」
「テストの日じゃないんだ」
「倒れる人が出てくるからな。中等部と違うのは、高等部では社交ダンスがあるところだ」
「マジかよ。先生ー、俺、社交ダンスなんてやったことないんスけど」
E組の派手男子級長が言う。
「だよねー。先生、ウチらもやんなきゃダメですかー?」
「残念ながら、最初の曲は新入生の級長の10人だけで踊るのが伝統だ。歓迎会はお前らのお披露目でもあるからな」
「うわぁー、聞いてねぇー」
「言うと皆やりたがらないからな」
「何スか、それ。どうせ指名じゃないですか」
「先輩達も見てるんですよねー、先生。ちょっとキツくないですかぁ?」
「プレッシャー、パネェな」
櫻井先生がため息をつく。
「ちなみにこの中で社交ダンスを全くやったことがないのは?」
D組の男女、E組とC組の男子が手を挙げる。
後の人も若干青ざめているから自信がないのだろう。
──俺?もちろんバッチリだ!
「歓迎会まで暫く体育の授業でダンスを習うが……やばそうだな」
櫻井先生も厳しそうな顔をしている。あ、こっち向いた。
「柊、如月……」
「なんでしょう、先生」
「お前ら、社交ダンスはできるよな?こいつらに教えてやってくれないか?」
「ちなみに先生は……?」
「自慢じゃないが、俺はステップしか知らない」
「実践経験がない、ということですわね」
「そういうことだね」
「すまん」
先生が俺らの前で項垂れる。
生徒に言葉攻めにされる先生の図がここに完成された。パチパチパチ──
向こうから、A組怖ぇー、という声は聞かなかったことにする。
「私はお断りさせて頂きますわ。私達はもうすぐ試験がありますのよ?他人の面倒なんて見てられませんわ。話がそれだけなら、私は失礼させていただきます」
「あ、ああ。そうだな……」
如月玲奈が出ていくと部屋がシーンとなった。先生が気まずそうに俺を見る。
やって欲しいんだろうな……
「先生、去年まではどうされていたんですか?」
「え、あー、ダンスの講師に放課後、特別に指導して貰っていた」
「今年も頼めないんですか?」
「それは大丈夫なんだが、何分今年は人数が多いしな。去年までは1人2人だったんだが」
「そうですか。僕は教えるのは無理ですが、練習なら付き合いますよ?」
「おお、そうか!助かる」
他の級長達が驚いている。
ここは如月玲奈のように、勉強のために断るのがA組の級長らしいか。
櫻井先生は目を輝かせている。
……ひとまず先生の信頼ゲット、かな?
なかなか進まない……
そして燈真がいじられポジに就任しつつある。こんなはずじゃなかった……