学園長の断罪(2)
ちょっと長めです。本日2回目の更新です。
「大丈夫ですよ、先輩。僕がここに座っていても何ら問題はありません。僕が、学園長なので」
「……は?」
全員がぽかんとした顔で俺を見る。そういうのはかすみ先輩とかがやった方が可愛いんだけどな。
「宜しいのですか、若様? 言ってしまっても」
と宇野が聞いてくるが、これが言ってしまっても特に問題ないのだ。
だって考えてもみてくれ、この場にいる誰かが言いふらしたとしても、学園に通う生徒が学園長だったと聞いて信じる人がいると思うか? いくらそいつが理事長の息子だったとしても、信じないだろう。
それに、発覚したとしてもそう問題にはならない。
「まさか、本当なんですか? 宇野さん」
東雲先輩の隣に立っていた、生徒会顧問の綾野先生が宇野を見る。
これは寧ろ宇野の発言でもしかしたら、と思っている様子だ。宇野も僅かにしまった!という顔をしている。
ここでいい加減、状況整理をしよう。
今日は7月23日。夏休み前のサマーパーティーの日で、断罪の日。場所は学園長室。
被告側は片桐兄と生徒会役員4人、そして御手洗という女子生徒。原告側は俺、生徒会会計の東雲先輩、生徒会顧問の綾野先生、そして俺の執事で秘書の宇野だ。
現在この部屋にいるのはこの10人。
「本当ですよ、先生。僕が学園長のリュシアン・セイヤードです」
とは言ってもすぐには信じてくれないだろうけど、本題はそっちではないのだ。悪いが今は放置だ。
「さて、先輩方。あなた方6名が、とある女子生徒に対していじめを行っていたという情報が寄せられています。現に先程、あなた方が女子生徒の髪の毛に火をつけようとしていたところを僕らが目撃し、取り押さえました。
この件については、3年生の生徒だけではなく、1年、2年の生徒からも多数の目撃情報が入ってきています」
さっきこいつらが女子生徒の髪に火をつけようとしていたというのは事実だ。そして女子生徒というのは勿論、かすみ先輩。
パーティーが開かれていた中庭から離れた体育館の裏で、6人で囲んで抑え込み、かすみ先輩の髪に点火されたアルコールランプを近づけたり離したりして、怯えるかすみ先輩を見て笑っていたんだ、こいつらは。
実際に火をつけるつもりはなかったかもしれないが、かすみ先輩は泣きながらやめてと言っていた。許されることじゃないだろう。
かすみ先輩は今、片桐(弟の方)と一緒に保健室に行っているはずだ。
火傷は幸いしていなかったが、あんなことをされたんだ。暫く休んていた方がいいだろう。
片桐弟をつけたのは、かすみ先輩を1人にしないためというのが大きいが、片桐弟を兄の断罪に立ち会わせるべきではないと俺が考えたからだ。いくら仲が悪くても、な。
──かすみ先輩が大丈夫だといいが……片桐、襲ってねぇだろうなぁ!
「──被害者の女子生徒からも情報提供をされています。
それに加え、あなた方は生徒会役員でありながらも5月頃から役員としての仕事を横着するようになり6月頃から顔を出すこともなくなったそうですね。綾野先生が再三注意するもそれを無視し、後輩の会計1人にその全てを押し付けていた、と」
片桐兄以外の5人が若干青ざめている。バレていないとでも思っていたのだろうか。
片桐兄1人が冷静に俺の机の隣に立つ東雲先輩と綾野先生を見ている。
「……それの話が本当だったとして、学園側はどうするんだ?」
現生徒会長はまだまだ余裕の表情で口を開く。
「学園側は俺らを処罰できるのか? 俺らは全員成績上位者。特に俺は中等部から5年間ずっと主席だ。それに生徒会長だ。俺を懲戒処分にするということはそれだけで学園の醜名に繋がる。それはどうされるんですか、学園長ぉ?」
おうおう、よく喋る、よく喋る。
取り巻きはこいつの主語が途中から”俺ら”から”俺”になってることに気付いているんだろうか? 気づいてないんだろうなあ。なんかまた不遜な態度に戻っていってるし。
「それにここまで言うんだ。ちゃんと証拠はあるんだろう? 目撃証言と状況証拠だけじゃ駄目だってわかってるだろうな? ちゃんとした証拠がないのに懲戒処分にすると、俺の親父が学園に対して訴訟を起こす。お坊ちゃんはご存じないかもしれないが、俺の家もそれなりに力があるんだ。こんな学校なんてすぐに取り潰してやるさ」
片桐兄が俺を見ながらニヤリとした笑みを浮かべる。
片桐兄の言葉に、東雲先輩と綾野先生が毛を逆立たせた猫のように体を緊張させて奴を睨んでいる。
「証拠、ですか……先輩方はこの学園にはいくつもの監視カメラが設置してあることはご存知ですね?」
取り巻き共の顔が一瞬強張るが、片桐兄は余裕の表情のままだ。
「それで? 俺らがその女子生徒とやらをいじめている現場は、映ってたんですかぁ?」
奴の口元が不敵な弧を描く。
まあ、こいつの自信に根拠がないわけじゃない。
確かに学園にはいくつかの監視カメラが設置されている。
だがこの学園は敷地が広い上に、監視カメラもそう多くないのだ。人通りの少ない場所に集中されてはいるが、当然死角はそれなりに多い。
取り巻きは監視カメラのことには思い至っていなかった様子だが、片桐兄は伊達に成績優秀というわけではなく、巧妙にカメラの死角を計算していじめを執行していた。
そのためカメラに映っていたいじめ現場は、取り巻きや便乗者が独断で動いているものばかりで、主犯の片桐兄は捉えられていなかった。
まあ、始めはな。
俺は自信満々の顔の片桐兄を見据える。
「はい、ばっちり映っていましたよ」
「なっ!……そんなはずはない! 嘘に決まっている!」
「宇野さん、お願いします」
「はい、若様」
奴が嘘だの何だの喚くので、宇野に監視カメラの映像を机の上のコンピューターに映してもらった。
そこには奴らが破かれた女子用の制服をゴミ捨て場に投げ捨てているところ、奴らが雨の日にかすみ先輩を外に締め出しているところ、かすみ先輩が弁当を食べているところに上の窓から墨汁のようなものをかけているところなど、たくさん映っている。
それを見た奴らは顔を青ざめさせていて、初めていじめの実態を知った東雲先輩と綾野先生は顔をしかめている。
「……そんなわけないっ……こんな映像、お前が作ったものに決まっている!」
「片桐先輩は監視カメラを常に意識して動いていて、なかなか映ってくれなかったのでカメラを少し増やしてもらいました。するとこの様です。
繰り返しになってしまいますが、学年を問わず多数の生徒からいじめの目撃証言をもらっています。被害者側からも証言を頂いてます。その全てはこの映像を裏付けるものです。」
6人は言い訳をする気力もないようになって固まっている。
いじめに使われそうな場所を洗い出して絞り込み、親父に頼んで監視カメラを秘密裏に増やしてもらった甲斐があったな。
「あなた方の処分ですが、此度のいじめはいくら生徒会で成績優秀だと言えども看過できるものではありません。学園側は停学処分も視野に入れていましたが、経歴に傷をつけないという被害者側たっての希望により謹慎処分に落ち着きました。
また、学園はあなた方が清園学園に在籍するには相応しくないと判断し、清園学園大学、及び大学院への進学の権利を剥奪します。
ご家庭へは学園が連絡致します。学園長として、あなた方が清園学園での残りの時間を有意義に過ごしてくれることを期待しています。」
俺は席を立ち、学園長室の扉を開けてやる。
「学園側はこのような形で優秀な生徒を失う結果になったことを、大変残念に思っております。」
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