学園長の挨拶
「ではこれより、第26年度清園学園高等部の入学式を執り行います。始めに学園長先生より──えー、あー、学園長不在のため、学園長だ、代理より学園長の挨拶の言葉です」
おいおい、いい加減慣れろよ。学園長の挨拶はここ3年間ずーっと学園長代理が務めてきただろ?
──ん?代理って何だよ、ってか?
その言葉通り、この清園学園の現学園長は3年前に就任して以来一度も生徒の前に姿を現したことがない。
学園長の挨拶は、入学式も始業式も終業式も卒業式も、いつも代理の細身の眼鏡の男が行う。
──何でって……
そりゃいろいろあんだろ、察してやれよ。
って俺が言うのも変だけど。
唐突だけど俺には物心ついた頃から、前世の記憶があった。
そんな大層なものではなく、穏やかな親の元で、2人の姉と妹に挟まれて、それなりに振り回されながら、私大の大学生になるまでそれなりに幸福に生きた人生だ。
死んだ時の記憶はない。欲しくもない。
だって嫌だろ、そんなもんに取り付かれて生きるの。
まあ、とりあえず割りとオタッキーだった姉達と妹のおかげで、俺は転生をすんなりと受け入れることができたわけだ。
あと、オタッキーな姉達と妹のおかげでわかったことはもう一つ。
ここは俗にいう乙女ゲームの世界だ。
そしてこの清園学園はその乙女ゲームの舞台だ。
──乙女ゲームの名前?
んなもん覚えてるわけねぇだろ。覚えてる方が絶対におかしい。俺は姉達がやたらと語ってくるのを聞き流してただけだぞ?
──何だ、俺のポジションか?これが結構おもしろいんだ。
実は、今壇上で俺が書いたを読み上げている細身の男は、俺の執事で秘書の宇野だ。
そう、清園学園の常時不在の学園長とは、まあ、俺のことだ。
あと──
──あ?入学式出ろよ、ってか?
弁明させて貰うが、俺は去年までは本当にいなかったんだぞ?つい3ヶ月に日本に帰ってきたんだ。
そう、最近だ。
あと、誤解しているようだが、俺は入学式に出てるぞ?
現に宇野は俺の目の前で挨拶をしている。
ただ、俺は教職員側にいないだけだ。
──ん?意味わからんって?仕方ねぇな。
あー、はじめまして。こんにちは。
この学園が舞台の乙女ゲームの、隠しキャラ、隠れ学園長の、柊紫安だ。
今年入学する新入生の一人で、高校一年生、15歳だ。
──ちゃんと入学式出てるぞ?てへぺろっ☆
こんな主人公でいいんでしょうか……?