変化
あれから一カ月が経った。
あれからというのはわたしが拓人さんと付き合ってから、
それと椿とも会わなくなってからの期間。
拓人さんとは順調に付き合いを重ねていって今はほぼ
半同棲生活をしているような感じ。
椿とは一度も連絡取ってないし、会ってもいない。
別に大したこと無い。と私はそう思うようにしていた。
『菫っ。今日このあと会議が入っちゃって一緒に帰れなそうだから先帰ってていいからさ!』
『あっうん!
わかった。今日夕飯はなに食べたい?』
『うーん…そーだなぁ。
肉かな!肉なら何でもいいから任せるよっ。』
『またアバウトー笑!
でもリョーカイ!作っておくようにするね。』
『ありがと!
時間はちょっと遅くなるかもだからゆっくりでいいからね。ぢゃっ!また連絡する!』
拓人さんは足早に会議へと向かった。
この一カ月でわたしは敬語をやめ、もっと拓人さんに近づいた。
敬語をやめただけでこんなに距離が縮まるなんて思ってもいなかったけど、今まで以上にわたしも素直に自分の気持ちを表現できるようになっていった。
でも……
拓人さんが会議で遅くなると知って
わたしは椿のお店に向かってしまっていた。
いけないことのような気がする反面、
ただお店に行くだけ。
2つの気持ちの中で揺れ動きながらお店のドアを開けた。
『いらっしゃいませ!
菫さんぢゃないっすか!最近来ないなぁと思ってたンすよ!』
『うんッ!…ちょっと色々忙しくて中々来れなくって。
……………………。』
『…!あっ!…オーナーなら今ちょうど休憩中で
店の屋上でタバコ吸ってると思いますよ!
…関係者以外立ち入り禁止なんすけど、特別っス。』
『トーマくん、ありがとうっ…!』
わたしは屋上に向かう階段を上りながら
いきなり緊張してきた。
コツコツ…とわたしのパンプスの音だけが
響いていた。
ガチャっ…………
扉を開いた先には
見覚えのある背中があった。
『……………椿……………。』
『その声は……………菫か。
久しぶり…だな。』
振り返った椿は少し印象が変わっていた。
『ここ、関係者以外立ち入り禁止なはずだけど?』
『………トーマくんが気を利かせてくれて……。』
『だよな。分かってるよ。……あいつらしいよ。』
椿は右手でタバコを吸いながらベンチに座り、
左手でベンチをポンポンと叩いた。
〝ここに座りな〝
そういう意味で呼んでくれただけなのに
わたしはドキッとしてしまった。
『………ありがと……。
ねぇ…。ヒゲ、作ったんだ…?』
わたしは自分の鼻の下をトントンとさしてそう聞いた。
『あぁ…。作ったというか…まぁそだな…作ってみた。』
『印象変わったなって思った。………』
『そ?どう変わった?』
『…なんか大人っぽくなった。
ヒゲだけぢゃなくて、前より筋肉ついた感じもするし
全体的に男の色気があるというか…。』
『男の色気は嬉しいね。
鍛えてる甲斐があったわ。
…そうゆう菫は………変わらねーな。』
『…!!
変わってなくて悪かったですね!!』
『ばかか。
相変わらず…綺麗だって言ってんの』
『…!』
わたし恥ずかしさとビックりが混じって
一瞬返す言葉がなくなってしまった。
『そっ…そういえば……
普通に話してくれるんだね……』
『話すって?』
『だから…前に、もう会うのが最後って言われたから
今日お店に来るのも悩みながら来たんだよ……』
『……あぁ。
正直あん時はホントにそう思ってたよ。』
『…今は?』
『今はこの通り。
俺も元々頑固なタチぢゃねーし、時間が経って変わるものもある…そうゆうことなんだろうな。』
『……そっか…。そうゆうのもあるよね……』
『……まぁ…な。』
椿はタバコを消し、吸い殻入れへ捨てた。
『…………聞かないんだね…。
私のこと。』
『……なんで?…聞いて欲しかった?』
『うぅんっ……別にそうぢゃないけど…』
『あいつとならうまくいくんぢゃねーの。』
わたしはその言葉に胸が痛くなった。
『……うまくって……?』
『…お前のこと大事にするだろうし、してる感あるし
………悪い奴ぢゃねーぢゃんてこと。』
『………………そう…だね……。』
『……12月23日、みんなでパーティしたぢゃん?
そん時バルコニーでタバコ吸うのがかぶった時に
あいつ言ってたんだよ。
〝菫は良い子なんだ。傷つくのは似合わない。
いつだって守ってあげていたい子なんだ〝
ってそう言ってた
俺それ聞いた時普通なら、だから何なんだよって言ってるとこだけど何故かあん時共感したんだよ。』
『そんな話ししてたんだ……。』
『だから…………
別にあいつと付き合ってる以上、菫は幸せでいられんぢゃねーかな、とは思ってるよ。』
『…………うん。
でも……私にもどう幸せになりたいかってゆう権利はあるよね…………』
『……そりゃあ……まぁ。』
『…………傷ついても悲しくなっても怒っても
どんな感情があっても変な事ぢゃないよね?……』
『…変ぢゃねーよ。』
『…たまに言いようのない気持ちになったりするの…。
この一カ月間、拓人さんと一緒にいてホントに楽しいし安心する……
でも…なんか……なんていったらいいか……』
『………お前が考えすぎなんだろ。』
『違うよ……そんなんぢゃない……』
『違くねーよ!』
椿は急に声を荒げた。
『お前は今目の前にある幸せにまだ気づいてないだけなんだよ!わかるか?!』
『…っ…椿…』
『あ〜…そっかそっか…そんなに刺激が欲しいんだ?
『…えっ…ちょっと…』
『俺のカラダならいつでも空いてるよ
…それならあいつと付き合いながらも刺激が手に入んぢゃん?』
わたしは気がついたら椿にビンタしていた。
『…いーパンチくれんぢゃん…』
『バカにしないでよ…!
……なんでそんな事いうの?!……』
『そーゆう事なんだよ!わかるか?
クズ野郎は何万といんだよ。誘惑や欲望……
けど奴ならお前が泣かずに傷つかずにっ…』
『違うっ………
今椿にそんなこと言われても、納得できないっ…!
椿と会えなくなる方が嫌だって思っちゃうのっ!!……
なんでなのか自分でも分からない……なんでなの…』
『…………………………
………っ……。』
何か言いかけようとして
椿はわたしを抱きしめて言った。
『……もういいっ…今日はもう帰れ。
トーマに送らせるから。』
椿の香水の香りとタバコが混じる
あの匂いが余計にわたしを惑わせる…
結局いつも椿に助けてもらって
椿の優しさに甘えてしまう…
拓人さんとは何かが違う優しさに…
『ぢゃあよろしくな…。』
『はい。あっでも…俺よりオーナーが送って行ってあげた方がいいんぢゃ……』
『いや、…いいんだ。…
最後まで送り届けてくれ。頼んだぞ。』
『…わかりましたっ。』
わたしは涙を拭きトーマくんが運転する車に乗った。
『えーっと、菫さん……どっか寄りたいとことかあります?なんか…買い物っつーか夜ご飯買うとか…』
『………うぅん。大丈夫。
…ありがとう…。トーマくん……。』
『わかりました。
ぢゃあ出発しまーす』
わたしはトーマくんに拓人さんのマンションの住所を伝え、向かい始めた。
『なんかよく分からないですけど、大丈夫ですか?…』
『あっうん……。それより迷惑かけちゃってごめんね…
仕事中なのに送ってもらったりして……』
『ぜーんぜん良いっすよ。
今日車で来てたんで役に立てて良かったですよ!』
『……ありがとう……。』
トーマくんは日常的な当たり障りない話を私にしてくれた。
車を走らせて15分くらい経ったころ、マンションへと着いた。
『ここで大丈夫ですか?』
『うん。…
ありがとね。』
『あのっ…、俺には何が起こってるのかはよく分からないですけど
オーナーはああみえて硬派な男です。
だから…なんてゆーか…付き合って後悔しない相手だと思います。』
『………。椿もそう言ってくれる人がいて幸せだね。
トーマくん、本当にありがとう。』
わたしは車を降りてマンションのエントランスに向かった。
拓人さんからは連絡も来てないしまだ帰って来てないだろうから早くご飯作らなきゃ。
わたしは足早にエレベーターに乗り自室へと急いだ。
そして合鍵を使って中へ入るともちろん帰ってはいなかった。
真っ先にキッチンに向かい料理を作り始めた。
何品か作り終えたあと、テーブルに並べ拓人さんの帰りを待った。
ソファーに座りテレビを付けようとした時
テレビボードの下のあたりに一瞬キラッと光った物が見えた。
わたしは不思議に思い近づいてみた。
『………ピンクゴールドの…ピアス………』
そこには私の物ではないピアスが落ちていた。
…どうゆうこと………
わたしがいる時は必ずわたしが掃除機かけてるし
こんなの落ちてるはずはない…
けど昨日、一昨日はわたしはここには来ていない。
ぢゃあ
この2日間の間に誰か来たってことなの…?……
つづく。




