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屋上は閉鎖されているもの

 よく学園物の創作物では屋上が当たり前のように開放されている。

 しかしこのご時世、公立高校の屋上は開放されていないのが一般的だ。

 その辺りの理由付けは別に必要だとは思わない。開放されているところも何処かにあるかもしれないし。


 以前最上がそのことについて愚痴をこぼしていたが、俺だって残念だった。

 高校に入ったら屋上が開放されていて、そこで告白とか飛び降り宣言とか、不良がサボるとかそういう悲喜交々があるんじゃないかなと期待していた。

 飛び降りを期待するのは不謹慎極まりないが。多くの場合、学校なんて目立つ場所で周囲にバレるように飛び降りを決行するのは構ってもらいたいか、いじめられた相手に復讐するためとかそんなあたりかなと思うあたりますます不謹慎だ。

 もちろん、普通にお弁当を食べる場所として上に何もない開放感というのは捨てがたい。こぎれいで景色もよければなおよし。

 屋上が開放されていればなあ、とは多くの高校生が思ったことがあるのではないだろうか。


 そんな面白みで一歩遅れをとった学校ではあるが、そんな我が学校にもお弁当を食べるスポットというのは幾つか存在する。

 それは中庭だったり、説明は難しいが座るところと屋根だけのところだったり。

 もちろん学生食堂も存在し、そこではパンやおにぎり、カツ丼やカレーなど様々なものが売られている。

 学食には座るところがたくさんあるが、人もたくさん来るため落ち着いて食べるスポットとは言い難いか。


 そんな俺は一つだけ極めて良好な食事場所を見つけていた。

 それは四階建ての校舎の最上階にある。ちょうど俺たちがいる校舎だ。

 四階建て、とは言え三階までは教室は三〜四つあるのに対して四階は二つしかない。

 以前は別の学年のクラスが入っていたのだが、新校舎の建設と共に両方とも使われなくなった。

 二つしかないからとか、クーラーがないからとか、四階は高いからとかそれはもう色々な理由があるらしい。

 決してホラー的な理由は一つもない。

 どちらかというと設備的な問題だった。


 そのうちの一つは倉庫、つまり物置部屋として使われているのだが、もう一つは現在使われてはいない。

 本来ならば鍵を閉めておくべき部屋なのだが、扉の鍵が壊れて閉まらないようになっている。

 盗られるようなものもなく、使われていないのなら、と予算にも限りがある学校が修理を後回しにしてしまっている。

 生徒のいない時間帯は校舎全体を戸締りするからとかそういうこともあるのかもしれない。


 扱いとしては余った机と椅子を置いてある部屋、といったところか。

 持ち出されたり、運びこまれたりして数が変動して今となっては十個あるかないかといったところ。

 文化祭の前とかになると、先生に許可をとってここで作業する奴らもいる。


 そんなことが許されてしまうのも、なんだかんだとこの学校の生徒は行儀がいいからだろう。

 空き部屋が一つあったからといって急にイジメの温床になったり、不良の溜まり場にはなることはないのだ。

 荒れていないからこその緩さ、というものがこの学校にはある。

 

「ここでお昼ご飯食べるの?」

「まあな」

「誰も来ないよね?」

「たまにここで食うけど来たことはないな」


 自分で言うのもなんだが、社交性がある程度でもあれば近くの席の人と話すなり親しい人と一緒に食べるなりとあるだろう。

 わざわざ教室を出て階段を上がってここまで毎日来る暇人は真性の孤独体質だ。


「あいてるのを見つけてから定期的に掃除するのと引き換えに使ってても怒らねえって取引をだな」

「そこまでして一人で食べる場所欲しかったの?」

「でも便利じゃね?」


 その取引以来、たまにここでご飯を食べては掃除をして教室に戻る。

 掃除といっても、ものが少なく人もいないこの部屋だ。床にかすかにつもるホコリを箒で掃いてちりとりでざっと集めるだけだ。邪魔者もいなければ箒は使い放題。十分もあれば終わる。


「ここを部室にして……」

「変な部活は作れないんだっつーの」


 まだ諦めてなかったらしい。

 そもそもああいうものは、本当に変な目的を持って作られるべきだ。最初から女の子を集める目的で作るなんて拗れる未来しか見えない。

 具体的に言うなら、可愛い女の子目当てにチャラい男子が入ってきて他の女子に馴れ馴れしく接することで、そいつをやめさせたいとか逆に誰かが居づらくなるとか。

 実際に目的だけの活動内容がない部活に女子が集まった日には、他の男子が来ないわけがない。

 学校の活動という表向きに正当な団体にすることで、部外者の参入を拒否できなくなってしまうのだ。


 残念系ラブコメで男の主人公が女子ばかりの部活に腰が引けてやめようとするシーンがあるが、ああなるまで男子が来ないなんてことがあるのだろうか。

 唯一の男子が怖いとか、女子がキツすぎるとかそういう他の人間が入る気さえ失せる原因がないといけないわけで。

 俺がそこまで悪役を演じるのも支障が出るし、かといって他の男子が入るのを躊躇うほどに性格がダメな女子を連れてくるのも嫌だ。

 なら俺たちは部活を作るべきじゃない。と長々理屈を捏ねてはみたものの。


「だから活動内容がいい加減な部活動は活動報告ができないから予算もおりないし、部室も割り当てられないっての」

「西下、お昼ご飯弁当やめたんだね」

「ああ。今学期からだな」


 正確には最上に提案・・された次の日からだ。


「誰もいないはずの教室っていうと、そういうのに限って誰かいて秘密を握ってしまったりしそうだよね」

「それが自慰行為ならエロ漫画一直線だな」

「それセクハラ」

「わかっててやった。反省はしてない」


 ここで狼狽えたり、顔を赤らめて「西下も……そういうこと興味あるの?」とかそういう返しができれば最上の萌えレベルはMAXになりそうだ。ここで窘めて流せる最上は手強い。……俺は何と戦ってるのだろうか。


「せっかくだから一緒にお昼ご飯食べるぐらいの関係にはなりたいよね」


 自分の弁当に入っていたレンコンのはさみ揚げ(冷凍)を頬張りながら最上は言った。

 東雲のことであるのは主語がなくてもわかる。


「そうだな」


 最上と一緒に昼食を食べることになるなんて思いもよらなかった。半年前の俺が見れば驚いたことだろう。

 逆に言うならば、これから東雲と昼食を食べることになってもおかしくはない、ということでもある。

 むしろゼロから関係を築きあげた最上よりもずっとラクだろう。

 こちらには最上がいる。男子と女子が二人きりで食べることになるよりも、男子と女子が一人ずついるところにもう一人加わる方がハードルはグッと低くなる。

 最大の難関である「男女混合での食事」をクリアしている以上、そこの難易度についてはあまり心配していない。

 それよりも今はどうすれば一緒にいられるようになるか、だ。


「そうだ、お前も読んでおけよ、これ」


 そう言って最上に例の本を渡す。


「えっ? 私も?」

「これから仲良くなるのにあたって、お前を外して俺と東雲だけが仲良くなっても仕方ないだろ?」

「そんなことないと思うけど」

「んー、でも東雲と仲良くなったあとでお前と会話しにくくなるなら面倒じゃねえか?」

「それもそっか」


 本をパラパラめくりながら、この分厚さなら返却期限までに読めそう、と呟く。

 こいつ、読むの速いんだよな。授業中まで読んでる時もあるからあれだけど、それでも著しく成績が落ちた話は聞いたことがない。


「西下はいいの?」

「俺はどうせ読み込むために買うから」

「あっ、そうなの? んーじゃあ……そっち借りるのは?」

「それもそうだな。借りたものを又貸しするのもあんまりマナー的には良くないな」


 最上のことは信頼しているが、やっぱり学校の本だしな。


「私も買ってもいいんだけどさ」


 最上の言いたいことはわかる。

 東雲と仲良くなるにあたって、共通の本を持っておくことはきっとプラスに働く。

 しかし本を貸し借りする仲、と同じ本を同じ時に買う仲だと後者の方が意味深である。

 逆に深い意味もなく俺が買ったことを知っていて最上も買うとなると、俺が本を貸さないケチ、もしくは最上と仲が悪いかのようにに見える。

 だから貸し借りで済ませる方が自然だと言いたいのだろう。


「東雲も男子一人に干渉されるよりも抵抗が少ないだろうしな」

「むしろそっちが本命じゃないの?」

「それはノーコメント、かな」

「そこはとっぷしぃくれっとですよ、でしょ」

「アイドルじゃねえよ」


 俺はそこまで秘密主義ではない。

 どちらも本当で、どちらが本音というほどに偏っているわけではないのだ。


 俺と最上が東雲を対象にした理由は幾つかある。

 みんなでワイワイ騒ぐタイプでないこともその理由の一つとしては大きい。

 女子である最上はもとより、俺も女子が複数いるところに突っ込んでいって目当ての女子だけ引っ張りだすなんて芸当ができるとは思えない。

 かといって、既存のグループに突っ込んで全員と仲良くなろうとするのは非常に困難だ。

 ならば最初から一人でいることが多い人間を対象にした方が楽だろう。


 だがいけそうなら誰でもいい、というわけではない。わざわざ好んで好きになれそうにもない人間と仲良くしようとは思わない。


 その点、東雲は「不愉快な人間」ではなかった。

 一人でいることが多い、というのが彼女の人格性の下品さからくるものではないというのがよくわかる。

 周りを見下したり、人の感情を理解せず横暴に振る舞うといったことはない。仕事をサボって人に押し付けて当たり前とか、時間や金にだらしないとか、倫理観にそぐわぬことをすることをかっこいいとか思っていたりしない。

 人見知りだったり、意見があまり言えない引っ込み思案とか、ノリが悪いとかそのあたりは確かに欠点として見ることもできるのだろうが、俺も最上もたいした部分じゃないと切って捨てた。

 

「いい子だよねー」


 そう、いい子、というのがしっくりくる。善良なのだ。

 だが善良なだけの人間はきっとつまらない。良い人の反応なんてものは、人を傷つけることがないだけのごく当たり前の反応だ。可愛いからそれでいいや、となるかもしれないがそこは置いておいて。

 だからここから仲良くなるかどうかは東雲と対話し、歩み寄る中で決めることになるだろう。

 もちろん向こうがこちらを酷く嫌うこともあるかもしれない。それならそれまでだ。


 ちなみに決め手になったのは、俺の場合は東雲のクラスに関係ない用事で訪れた時、教室内で男子の机にぶつかり、男子の筆箱の中身を机の上に散らかしてしまったときだったか。

 筆箱の持ち主はそこにいなかったため気がついておらず、散らかしたのもシャーペンと定規ぐらいのものであった。

 だが東雲は慌てて他にも散らかしてないか、誰か見てないかと恥ずかしそうに慌てて片付けていた。

 端的に言えば和んだ。


 最上の決め手は本を借りて嬉しそうに抱きしめていたときだという。

 その本は平家物語であったとか。女子力の欠片もない本をそんないい笑顔で借りてくるなんて、と。


 最上はチョロインだな。最初から好感度マックスとか。相手は東雲じょしだけど。

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