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屋上は今日も閉鎖されている 〜ハーレムを作ろうと言われたら〜  作者: えくぼ
第三章 諫早千歳 上

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家に呼ばれて

何故Safariが開かない……!

ごめんなさい、遅れました。更新です。はい

 ここで大切なのは、決して俺たちが口を出さないことだ。

 諫早が「巻き込まれた」と認識するのはいい。だが事実関係として、俺たちが無理矢理何かしたから、というよりは諫早自身が考え、選んでもらわなければいけない。

 それに、ここで俺たちが選択肢を提示すればきっと彼女はそれに反発する。反発することを見越して逆の選択肢を提示することもできるが、どちらにせよ誘導だろう。

 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、と言わんばかりに俺たちは諫早の弟と妹と思わしき二人に声をかけた。


「妹と弟か?」

「うん!」


 すると二人は声を揃えて元気よく返事をした。

 年齢は……四歳、それとも五歳か……二歳とは考えにくいがなんとも。俺には見た目だけで小さな子の年齢はわからない。

 ただ、立って歩いて明瞭に会話してるってことは、三歳かそれぐらいはあるのではないだろうか。

 これぐらいの年齢で兄弟姉妹ともなると、性別の区別もつきにくい。服装がどちらかというと……というので弟、妹を区別しているわけだが。

 俺はしゃがんで二人に目線を合わせた。


「そうかー」

「おにーちゃんは、ちとせおねーちゃんのおともだち?」

「うーん、どうだろうなあ……お姉ちゃんは俺たちのこと、嫌いかもしれないからなあ」

「そうなの?」

「おなまえ、なんていうの?」


 最上も俺の隣にしゃがみこんで、笑顔にのせて尋ねた。

 東雲も二人を見る目は心なしか微笑ましい。


「ふたば!」

「しょう!」

「ふたばちゃんにしょうくんか。いい名前だな」

「お名前ちゃんと言えるの偉いねー!」

「よろしく、ね……」

「えーっと、ふみかおねえちゃん?」

「ふみかちゃん?」

「あやちゃん!」


 元気よく女性陣の名前を呼び合う。

 その可愛らしい様子に、諫早も少しイライラしていたのがおさまっていくのが……いや、おさまってないな。むしろ逆だ。

 何うちのかわいいのにちょっかいかけてんだオラァ!みたいにお怒りでいらっしゃる。

 そんな分からず屋なお姉ちゃんは置いてだな。


「俺は?」

「えーっと……」

「んーさいかー」

「西下くん、だよ……」

「呼び捨てでいいよいいよこんなのー」


 そうか、俺だけ苗字呼び捨てか。

 わかってたよちくしょう。

 ありがとう東雲。

 お前だけが俺のオアシスだ。

 最上、お前後で屋上……は閉鎖されているから校舎裏な。


「さいかときや。さいかおにいちゃんでもときやおにいちゃんでもいいぞ」

「あんたうちのに何変なことふきこんでんの?」

「えっ、別に変じゃないだろ。むしろ幼いうちに年上を呼び捨てにするように教えるよりはいいかと思ってな」


 ただ俺はおにいちゃん付けで呼んでもらおうってだけじゃねえか。

 何も変なことはあるまい。うん。


「さいかー!」

「ときやー!」


 ……うん、わかってた。

 すると、諫早がぷっ、と吹き出した。


「っくくく……あんた全然聞いてもらってないじゃん……」

「なんだ、笑うと可愛いじゃん。もっと笑えばいいのに」

「ちょっ! あんたいきなり何言ってんの」


 ちなみに言っておくと今のイケメン発言は俺じゃない、最上だ。

 何口説き文句さらっと横から奪ってるんだこいつ。これで女なんだぜ?


「……ほんっと、あんたらといると調子狂う……」


 諫早がガシガシと髪をほぐすようにしながらこぼした。


「いつも、諫早さん……二人を迎えにきてるの?」

「ん? ……ああ、そうだよ。チビどもはまだ二人じゃ帰れないし、ママは忙しいからね……ん? なんか連絡きてる」


 そういうと諫早はポケットから携帯を取り出してメールを確認した。


「ん? なに? しょうとふたばならちゃんと迎えに来てるよ? えっ? いやもう迎えにいって今保育園の前だって! なんかクラスメイトがいて……なんで? そんな仲良くないっての! ……はぁ、聞いて暇だったらね」


 電話の向こうがお母さんであることのほかにだいたい事情はわかった。

 多分、普段から忙しくてあまり娘たちのことを見れていないお母さんなのだろう。それが今日はたまたま早く帰ってこれたから、諫早が迎えに行ってないなら別に構わないと言おうとした、と。

 娘に友達がいるか心配だが、正面から聞いても誤魔化されることは明白。

 ならば、クラスメイトがいるならそのクラスメイトから情報を得る方が楽そうだ。なんなら家に呼ぶことで仲良くなるきっかけを、ってところか。

 こちらにとってもかなり都合が良い。


「……おい、東雲と最上って言ったよね? あんたら、この後暇? うちのママがお茶でも飲んでいってもらえって」

「……西下は?」

「あんたは帰れば」

「酷いな」


 これは笑うしかないよな。

 いや、でもこの対応は当たり前のような気もする。

 だってロクに話したことのないクラスメイトの男子をいきなり家に連れていけとか難易度高いだろう。

 仲のいい東雲だって俺を家に、っていうと戸惑うだろうに。

 そういう意味では、距離感が適切ってことでむしろ俺から諫早への好感度が上昇中。


「ねーね、さいか置いてくの?」

「おねえちゃん、ときやもつれてこ?」


 ……俺が凄く可哀想な子に思えてきたぞ。

 同級生女子に実にまともな扱いを受けているにもかかわらず、慰められてフォローされてるぞ。

 なにこれ。俺が自分の口で抵抗した方が良かったのか? それともさっと身を引いた方が良かったのか?

 おい最上、笑ってんな。肩を震わせて東雲の背中に顔を埋めてんな。

 何逃避してるんだ。助け舟を出せ。

 お願いだから応答願いします。

 両側から縋るような目を向けられて、諫早が目を逸らした。

 こちらを見て「おい、なんとかしろよ」と非難を露わにしている。


「ごめんな、おにいちゃん、今日は忙しいんだ」

「えー!」

「うそだー!」


 こいつら、読心術でも持ってるんだろうか。一発で俺の忙しいから発言が嘘だと見抜かれてしまった。

 いや、単に願望を口にしているだけとはわかっているんだけどさ。

 それにしても……こんなに好かれる要素どこかにあったかな……?


「……悪いけど、あんたも来てもらえる?」

「悪いな諫早」

「そう思ってるならストーカーするところからやめときなよ」

「それについては反省してない」


 諫早はあくまで自然に言ってはいるが、そこに激しい憎悪や嫌悪は見られない。

 どちらかというと、不信とか無関心とかそういう表現が近いか。

 俺を「男子」とひとくくりにしてストーカーだろうがなんだろうが一律そっけない態度を取っている。


「ねえ、諫早さん……」

「ん? ああ、結局あんたらはどうなの? ……暇じゃなきゃわざわざこんなところまで来ないか」


 最上はニコニコと幼児組と戯れている。

 それを横目に、これを連れていくのか……とばかりに目が死んでいる。

 御愁傷様です。




 ◇


 諫早の家は三階建てのアパート?だった。

 手すり付きの階段を上ると、人がすれ違える程度の廊下が奥まで続いている。その両側にドアと新聞入れが立ち並び、窓があちこちに見えている。

 他の住人と出会うことはなかった。


「ほら、ここ」


 諫早がぶっきらぼうに顎で三つ目の部屋を示す。


「ただいまー」


 バタバタと二人が駆け込んでいく。

 その後を諫早が自分も靴を脱ぎながら追いかけていく。

 廊下に一歩踏み出して、後ろを振り返りながら俺たちを招き入れた。


「あ、そこ狭いから靴は棚に置いといて」

「千歳! あんた帰ってきたならただいまぐらい言いなさい!」

「クラスメイト呼べって言ったんだからそっちに気使うでしょ……」


 呆れたように諫早が返事をした相手がおそらく母親だろう。

 なるほど。お母さんも髪は染めていて、三児の母親とは思えないヤンママといった格好だ。

 ……でもなんだろうか。親娘の仲は良さそうだが、諫早が母親に憧れたり影響を受けて髪を染めるとは思えないのは。

 そう、これはきっと違和感だ。何だ。何が引っかかっているのだろうか。


「へー、あんたたちが千歳の友達?」

「友達じゃない」


 娘の即答に、母はパコンと頭を叩いた。


「あんたさー、そういうこと言ってるとクラスで浮くよ?」

「もう浮いてるっての」


 母上殿。やめてあげて。

 俺ら本当に友達とかじゃないから。諫早が好きで追っかけてきたストーカーだから、マジで。


「だいたい、友達じゃなきゃなんなの?」

「ただのクラスメイト」

「クラスメイト、です……仲良くしたいって思って、ます……」

「今日初めてまともに喋りました」

「ストーカーです」


 諫早のクラスメイトという返答に三者三様の補足説明が入る。

 その正直すぎる回答に、被害者は顔をしかめたが、被害者の母親は弾けるように笑い出した。


「あっはははははは、今日初めてまともにしゃべっただけのクラスメイトがストーカー。あはははは。あんたら面白いね」


 冗談だと思われているらしい。

 もしくは前向きにとらえられているのか。

 ストーカーしている人は「俺はストーカーじゃない。見守っているだけだ」とか「俺はあいつの彼女なんだ」とけ言い出すのが相場だ。ましてや他の女子と一緒にきて「俺はストーカーです」とは言わないわけで。

 後をつけてきたのは本当のことなんだが。


「あーもういいでしょ、ほら」

「何言ってんのよ。あんたたちもお菓子食べてく? ちょうど仕事先でもらったのよ。座って座って」


 そう言って返事を聞かずにお茶を入れ出すあたり、随分とフレンドリーなお方だ。おばちゃんってこういう生き物だっけ。

 そんな歓迎されるようなこと、したっけ。

 とりあえず、言われるがままに腰を下ろすと東雲が俺に耳打ちしてくる。


「ねえ、西下くん……どうするの?」

「どうもこうもねえだろ。素直に歓迎されておこうぜ」

「気楽に気楽に。文香ちゃんは慎重だからねー。命や人権に関わることと、法律に触れること以外はもっと気楽にいっていいんだって」


 そうこうしているうちに、諫早のお母さんが帰ってきた。

 諫早が二人の子供を相手にしているのをチラリと確認したあと、俺たちに爆弾発言を放り込んだ。


「で、クラスでのうちの子ってどんな感じ?」


 ……直接聞くのかよ!


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