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屋上は今日も閉鎖されている 〜ハーレムを作ろうと言われたら〜  作者: えくぼ
第三章 諫早千歳 上

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34/84

雑談≒会議

頻度が落ちてる……!(毎日から1日忘れたレベルで)すいませんー休む時はちゃんと言えればいいんだけど!

ちょっと修羅場ったから繋ぎが綺麗にまとまらなかっただけです、はい


 東雲がハーレムを受け入れて和解した。

 このように言うと、まるで東雲が俺と最上と三人で付き合うことを了承したかのように聞こえてしまう。

 そうではない。

 東雲はあくまで、俺たちが意図的に仲良くなろうとしていたこと――つまり下心に関しては許し、そして三人で仲良くし続けることを受け入れてくれたのだ。

 そのことを勘違いして、東雲に無理矢理に迫れば、これまでの信頼関係はガラリと崩れさってしまうだろう。

 もちろん、押しの弱い東雲がズルズルと受け入れてしまって、ドロドロもやもやしながらもそういうハーレムになることもありうるが。俺が望んでいるのはそうではない。きちんと、東雲の意思を尊重して、その上で選んでもらえるように努力しよう。


 と三人の関係性が決定的に変わったような言い方をしたが。

 その本質的には大きな変化があったが、しかしそれでいて表面上には周りが驚くほどの変化はなかった。急に東雲がべったりになるとか、そういう変化は。

 もしもわかりやすく変わったところをあげるのならば、最上と二人で密談していたあの教室に、今は三人で集まって密談していること、だろうか。


 ◇


 いつもの部屋には先客がいた。

 彼女は窓際で椅子に座って、静かに本を読んでいた。

 細い指先が一つ、また一つとページをめくる。それに合わせて吐息が胸を僅かに上下させてリズムを刻んでいる。時計の音さえ無視するように。

 ――そこに俺たちは立ち入れるのか?

 そんな風に気が引けてしまうほどに、その姿は一人で完結していた。埃がうっすらと舞う教室内でさえまるで優雅な茶室のごとく支配していて。

 その横顔に思わず声をかけるのも忘れて立ち尽くす。


「あ、西下くんと綾ちゃん……きた」


 読んでいた本を閉じて、俺たちを見て頬を緩ませ嬉しそうに笑う。

 その動作にどれほど俺たちが萌えているかも知らずに。

 そこでようやく、俺たちは何かを許された気になる。


 少女の成長は速い、などと男子三日会わざれば刮目して見よといった慣用句に対抗して言われることもあるが、東雲のそれはそういう成長とは違うような気もする。

 女心と秋の空みたいなそんな感じにも近いが、それだと悪口みたいにも聞こえるし……

 兎にも角にも、東雲に何か以前と違うものを感じてしまったいるのだろう。罪悪感とかそういう後ろめたさとは別に。

 そんなわけで円卓会議だ。


「さて――」

「それ推理を始めるときのお約束だから」

「ああ、三つ子姉妹と社会不適合者みたいな探偵の話でそんなネタあったな」

「西下くんも、読んでたの……?」

「パラレルみたいな怪盗の話も読んでたぞ」

「そうなんだぁ……」

「はいはい、お二人さん。話逸れてるよ。ラブラブなのはいいけどね」


 最上はぱんぱんと手を二度、セリフに合わせて叩いて話を戻した。


「ら、らぶらぶって……」

「お、そう見える? そりゃあよかった」

「西下くん……?」


 なんか東雲がプルプルしながら俺を見上げている。

 何か問題があるかね、東雲くん。


「第二回、諫早ちゃん攻略会議を始めます」

「そんな名前、ついてたの……?」

「いや、今最上がつけた」

「でも似たようなことはしてたから」

「あの……それって、私の、時も……?」

「もちろん」

「なんで最上は東雲に追い討ちをかけたがる」


 というよりは俺たちはだいたいアドリブで生きているため、会議をしてもその人の可愛さについて惚気る会議みたいになりかねない。

 もちろん人生設計もアドリブオンリー。つまり計画性ゼロってことなんだが。

 俺の言葉を最上がおもちゃにしている。

 これは止めなければもっと大変なことを言われてしまいそうな予感がする。


「よーし、諫早の話をしようか」


 だから誤魔化す。

 東雲もやめるにやめられなくなってしまっていたから、少しほっとしている。


「で、諫早が不良じゃないかどうかって話だっけ?」

「不良じゃない、と仮説を立てます」

「あの……二人、とも……」

「どうしたの?」

「えーっと、どうして二人は諫早さんのこと……」


 東雲に言われて、ふと考える。

 どうして、か。

 そもそもは性格が悪いことは問題がないのだ。俺と最上もそんなに褒められた性格はしてないし、明るく優しく清く正しくなんてそんな非の打ち所がない人格の人間だけ選んで仲良くなるのも面白く、ない。

 そういう意味では、東雲と仲良くなろうとしたことだって大した意味はないのかもしれない。

 正確に言うならば、ああいう方法で仲良くなれる子なら仲良くなりたかった、というべきか。

 手伝ってあげれば感謝し、知り合ったら挨拶をし、物をなくせば一緒に探してくれて、そして思わず手が出たら罪悪感で慌てる。

 一連の流れから得られた反応がもしも一つでも違っていれば、多分俺は東雲と仲良くはならなかった。

 そもそも、非の打ち所がない人間であれば俺が地雷を踏みにいったときも感情的になどならず淡々と何が自分を不愉快にさせたのか説明するか、もしくは心の奥にそっとしまいこむ。

 表立てて、目立たせて。

 東雲はそういう解決方法を選んだのだ。


「なんとなく、だ」

「私は難しいんじゃないかな、って思うけど」


 出鼻をくじくようなことを言われる。

 それに疑問を返したのは俺ではなかった。


「どうして?」

「えっ? だってああいう不良系の女の子ってフラグ立ちやすい条件が自分より圧倒的に強い、もしくは守ってあげたくなる可愛さ、ドS鬼畜系の三択ぐらいじゃないの?」

「極端だな!」


 思わずツッコむと東雲がふふふ、と笑った。

 最上と俺はそれだけで満足、とさっきまでの会話のテンションとは一転して冷静になる。


「諫早さんがどのパターンかはわからないけど……ああ、メガネのオタクでメガネを外すと意外と可愛くていざという時にかっこよく勇気を出せるタイプ、とかも?」

「なんだそのギリギリ無理ある設定」

「そんなこと、ないと……思うけど……」


 勇気とコミュ力が最初からあるオタクならそんなに迫害されてねえんだよ。

 そりゃあね。コミュニケーション能力の低いオタクという人種は確かに存在する。

 コミュ力がないからオタになったのか、オタになってコミュ力を失ったのか。

 その議論については鶏が先か卵が先かと同じそれを感じさせる上にただの罵倒になる。


「でもオタクでハイスペックな主人公って鈍感系じゃない代わりにヒロインに興味なかったり、ヒロインを何かの手段として攻略したりしてるのが多いイメージ」

「育て方とか、神様とか?」

「そういうの」

「その作品って、面白い?」

「両方面白い、とは思うけど……どうなんだろうな。ああいうのって女子も楽しめるものか?」

「楽しめるよ! だって私は――」

「お前の趣味は女子じゃないことを自覚しろ」


 ハーレムラブコメにおいて、周りの女の子側に感情移入して主人公との恋愛を楽しむ方法ってアリなんだろうか。

 そういうので夢小説があるなら、それも需要の一つなんだろうけどさ。


「ところで、夢小説ってどんな傾向の作品が多い?」

「あー、夢小説ねぇ……」


 最上が考え込む。

 すると東雲がここで疑問を挟む。


「夢小説って、何……?」

「あー、二次創作の恋愛系に多いタイプなんだけど、主人公の名前を自由に変えて楽しめる小説な。自分の名前を入れてまるで自分が主人公みたいに体験できるってやつだ」

「ようするに、作品の中のイケメンとかに自分の名前呼んでもらって口説かれるようなシーンで感情移入したいってやつね」


 人によっては毛嫌いしていたり、ふとした拍子に恥ずかしくなって永遠の黒歴史化してしまうことの多いタイプの小説である。

 そういう意味では、二次創作におけるオリ主転生もそれに近いものはあるが。

 いや、オリ主転生の女性向けがこれにあたるのかな。若返りやトリップ、逆に現代日本側に作品のキャラくるとかタイプは色々あるみたいだし。

 一人称主体で感情移入したいという場合はあれらほど合理的なものもないとは思う。

 問題は本当に名前や最初の設定だけで感情移入できるかって話なんだけど。


「二次創作だとやっぱり……男性キャラの多いのが流行り、かなぁ」

「あー、じゃあ腐る界隈と似てる?」

「似てる似てる。バレー漫画とか六つ子とか」

「そういうのも、あるんだ……」

「自分の名前を使うのに抵抗がある人向けに名前がないのもあるとかな」

「西下くんは読んだこと、あるの?」

「俺はない。知ってるけど」

「私は何度かしたけどー主人公のキャラが自分と違うのが多くて感情移入しづらくてやめちゃった」


 最上は読んだことがあるのか。

 あれは圧倒的に女性向けだから、女性向けの小説や漫画を楽しめても俺には、なぁ……俺の名前打ちこんでも違和感しかないし。


「諫早さんだって読んだことあるかもね!」

「なんの根拠もない言いがかりはやめろ」

「ハマれば面白いらしいよ!」

「そう……なの?」


 ダメだ。東雲が引きずり込まれかけている。

 どうして最上は自分がハマっていないジャンルに人を引きずり込むんだ。


「で、諫早さんを読書好き同盟に引きずり込む話だっけ?」

「違う。どうやって諫早と仲良くなるか、だ」

「えっ……諫早さんの誤解を解く、んじゃないの……?」

「同じ意味だ」

「違うよぅ……」


 いいや、同じ意味だね。

 諫早がワザとああしているってことは、別に諫早はクラスの中での人気者なんか目指しちゃいないわけで。

 つまりクラスの全員の誤解を解く必要はないわけだ。

 では何が困るかというと、何かしらの偏見に晒された時、守ってくれる相手が教室内にいないことにある。

 クラスメイト全員が敵ということと、クラスメイトのほとんどは敵だけど理解者もいる、ではその内心の負担はまるで違う。もちろん物理的にもかなり違う。俺たちなんかは男女両方いるからこそ、俺ではフォローできない範囲を最上と東雲がカバーできる。


 もちろん、今は別に諫早が敵視されているわけではない。

 だがいつか、何かあった時に最も早く孤立が弱点となりうるのはああいう人種だ。見た目で損をして、距離を取られている人種が先に狙われる。


 そうやって俺たちが諫早の味方になるとまだ決まったわけじゃない。

 もちろん、それはこれからの展開次第なわけだが。

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