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屋上は今日も閉鎖されている 〜ハーレムを作ろうと言われたら〜  作者: えくぼ
第二章 馬に蹴られてしまえ

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たまにはこんな三人も

 俺が煽った次の日から三人の空気は張り詰めていた。

 三人とは俺と東雲と最上じゃない。断じてだ。当然龍田、蔦畑、菅沼の三人組だ。まったくピリピリしやがって、俺たちを見習え。

 と俺が原因の一端というか全般を担うそのしてきた所業を棚に上げてとりあえず罵倒する。


 こういう時に、避けたい展開がある。

 一つ、誰かが嫌になって三角関係を抜け出す。特にやけになって他の子に走る展開は望ましくない。

 二つ、焦った男子のどちらかのみが抜け駆けし、それに対してもう片方が身を引く。もしくは無理やり手を出す。

 三つ、これを機と見た第三者が三人の誰かに近づく。

 多分、そんな風になってもこいつら三人ならグダグダと元の鞘に戻るような気がする。だがわざわざハッピーエンドにしこりを残してやるような真似をすることもない。


 これらの展開を避けるために必要なことがある。一つは龍田の保護。手を出されるにしても抜け駆けされるにしても、その要となるのは龍田である。

 そして監視とヘイト管理。ゲームじゃないけれど、負の感情の矛先を三人同士で向け合うようになるとよくない。それならその矛先は俺に向けた方がいい。

 俺が仮想敵でラスボスでお助けキャラで黒幕だ。

 さしずめ最上と東雲は味方だと思っていたら敵方に通じていた裏切り者ポジションか。


 さて、さらわれたお姫様が敵と通じていたら。

 助けにきたヒーローはどんな反応を見せてくれるのか。



 ◇


 そして龍田の保護が有効になったのは、HRホームルームが始まる前の時間のこと。

 龍田が自分の机で準備をしていると、それを三人の女子が囲むようにして周りに立った。端から順に、目がやたらでかく、癖のあるセミロングが北上きたがみ亜美あみ、髪が短く少しむっちりしてるのが矢野やのすず、スレンダーでストレートロングの髪が六角ろっかく纓奈えいなである。ギャルとかそういう類に近い。お洒落に余念がない三人、特に二人はスタイルもよく男子の一定層にはよくモテる。俺はまったく食指が動かない。

 ああいう風景を見るたびに、「弱い者ほどよく群れる」という、一つ踏み間違えれば厨二もしくは高二病などと揶揄されそうな発言を思い出す。

 そう、奴らは三人がかりでないと言いたいことも言えないのだ。


 俺はそれを一概に否定するつもりはない。

 事実、世の中数が多いというのはそれだけで強いのだ。コミュニケーション能力の磨き方も人それぞれだということだろう。一人でも言いたいことを言える力も、言いたいことを言うために人を集める力も、ベクトルが違うだけで広く見ればコミュニケーション能力なのだ。

 だがそれを向けられる側からすればたまったもんじゃない。


「どうかした?」


 龍田は気丈に返す。その態度がますます三人をヒートアップさせる。


「あのさぁ龍田、結局あんたって誰狙いなわけ?」


 矢野は体をやや斜めに、腕を組んであからさまに見下している。女子の中では大柄なこともあり、それだけで迫力がある。

 威圧的な尋問に、龍田は萎縮するどころか逆に反発した。


「狙いって何?」


 笑顔の一つも見せずに、ぶっきらぼうに興味ないですと言わんばかりに答えた。態度が一貫していてたいしたもんだ。


「あんたっていつもあの二人と一緒にいるじゃん」

「そういうわかってませんアピールとかいいって」


 隣で北上と六角が追従する。

 えっその構図なんだ。なんつーか、物理的な強さでグループ内の地位決めてんの? てっきり顔面偏差値で決めてるのかと。

 すごく失礼な疑問を浮かべつつ話をそのまま聞き続ける。龍田には悪いが、決定的な質問が来ない限りはむしろちょうどいいかと思って放置している。

 朝練に向かった菅沼は当てにならないし、蔦畑は……ダメだ、龍田たちから一番離れた教室の端で爆睡中。あれ寝たふりとかじゃなくってガチの爆睡だ。なんでこんな時に寝てるんだ。いざとなった時に状況に応じて俺か最上が出なきゃならねえだろうがこれ。


「それとも何ー? 最近は西下とか?」

「マジ? 西下はないわー」

「でも一緒にいるところ見たって友だちが言ってたんだけど」

「ウケるー」


 嘲笑っている。

 つーか俺の名前出たな。じゃあ俺か。そうだな、俺もお前はない。ある意味同じ気持ちだったんだな。うんうん。


「結局男子に媚び売らなきゃぼっちなんでしょ? ほら、呼んでみたら? 蔦畑くんは向こうで寝てるし、呼んだら来てくれるんじゃないの?」

「でも付き合ってないんだっけ?」

「二人もかわいそうだよねー、付き合ってもない女の子のために振り回されて」


 そろそろ、龍田の怒りゲージもたまってきた。

 俺は席を立ち上がり、龍田の後ろから近づく。三人が「なにこいつ。邪魔」みたいな顔で見てくるからできれば俺も退散したいのは山々なんだけど。


「二人とも――」

「――はい。ストップ。まだ早いだろ?」


 言いかけたセリフを無理やりに遮る。

 龍田は信じられないものを見るような目で俺を見た。止まってくれてよかった。指一本触れないみたいなこと誓った気がするから、肩を掴んだりする必要がなくてよかった。俺は嘘はつかぬ男なんだよ。言ったことを忘れたりするかもしれないけれど。


「あんたは関係ないでしょ」

「今、女子同士で恋バナしてんだよね」

「邪魔なんですけど」


 心が折れそうなありがたいお言葉の数々。何この針のむしろ。これ、気の弱い男子や負い目のある子とか一発で退散するぞ。ほら、関わり合いになりたくない人たちが目をそらして距離を置いている。


「俺の名前が聞こえたもんで」


 困ったとばかりに、呆れを込めて返すと、矢野があからさまに顔をしかめた。


「は? 盗み聞きとかマジキモい」

「あんだけデカイ声で話してて聞かれたくないとか、自分らの周りに防音装置でもつけてるつもりなのか?」


 耳をすませなくても聞こえてくるから。ほら英語でlistenとhearの違いって習っただろう? リピートアフタミー?


「というわけで、どうも付き合うとかありえない人間終了のお知らせ、顔面崩壊キモデブ野郎の西下です」

「いや、そこまで言ってなかったでしょ……」

「あんたがないのは中身もだから」


 おい、敵と味方の両側から挟み討ちにされたぞ。

 どうして裏切った、龍田。そこまでは言われてなかったらしい。


「だいたい恋バナ恋バナって三人で一人を取り囲んで尋問するのが恋バナかよ。裁判と間違えるにしても二文字しかあってないぞ」


 俺が龍田を庇う理由は単純。このまま放置すれば、怒り心頭の龍田がいらぬことまで口走りそうだったからだ。

 それを何を勘違いしたのか、ギャルギャルしい三人は俺と龍田を見てニヤニヤと何かを察したように笑い始めた。

 ……多分それ、誤解だと思う。


「へーそういう……」


 矢野が口に手を当てて頷く。


「乗り換えたんだ」

「もしかしてこっちは遊び?」


 よくもまあ、そう下品な妄想を口から流せるものだ。こちとらいつも言霊で口に出すと本当になりそうだからなるべく嫌な想像は直接言わないようにしてるってのに。

 だからさあ……龍田のことは恋愛的にはどうでもいいんだってば……ツンデレとか照れ隠しとかそういうふりじゃなくって本気で。


「でもさー虚しくない?」

「他に好きな人がいそうな女子にいろいろしてあげるのとか」


 北上のそこだけはすごく同意。両想いの恋ほど、はたから見てて虚しくなるものはない。ましてやそれに補助役モブで参加とか。六角はそういう経験があるのか。という詮索はするつもりは無いが。


「西下くんとは何でもないって!」


 龍田やめろ、火に油を注ぐな。ムキになって否定すればするほど、照れ隠しとかに見えて逆効果だから。思春期おとしごろの恋愛脳の人たちには意味無いから。

 こういうのは、こうやるんだよ。


「こいつと俺が付き合うとかありえないから」


 人差し指で失礼にも指をさしながら宣言する。

 龍田がさすがにイラっときたのがわかる。

 後で謝っておこう。


「へー龍田さんは好みじゃないんだー」

「なんだったら私と付き合ってみる?」

「お断りします」


 北上からの提案を断った瞬間、横から腕が絡めとられた。


「だよねー西下には私と文香ちゃんがいるもんねー」


 最上がまるで見せつけるようにその腕をとって、わざと周りに聞こえるように言った。そうか、今の今まで出てこなかったのは最高のタイミングでまとめて処理できるようにしたのを探していたからか。

 聞こえた何割かはぎょっとしてこっちを見た。


「だから龍田ちゃんはトモダチ止まりでー恋人にはならなーい。だよね?」


 最上はケラケラと笑う。訂正、からからぐらい。


「そうだな。お前らがいるもんな」


 そのまま肩にしなだれかかる最上の重さが心地よくて、思わずいろいろ忘れそうになる。

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