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久しぶりです
「これから行く所はどこですか?」
清閑な出で立ちの青年が丸眼鏡をくいと上げながら、彰に問いかける。
「銜正のベースキャンプだ。」
「うわぁ、行きたくないなぁ。記録係の先輩達からいろいろ噂を聞いてますけど、いい噂聞かないんですけど…。」
青年は苦虫を噛み潰したような顔で話を続ける。
「えーと、狩り獲った後の人間をぐちゃぐちゃに踏み潰したり、自分に意見した部下を即殺したり、教団の上層部にわいろを贈ったり…。」
スッと、横から巨大な槍の矛先が青年の顎に添えられる。ぎょっとした青年は、慌てて居住まいを正してその槍の使用者を睨み付ける。
「何するんですか、錦戸さん。貴方たち守護者は、私を守る為にいるんでしょう?」
「生意気な口を叩くな、小僧。貴様を守る前に軍律を守らねばならん。上官への失言には気を付けることだな。貴様は記録のことだけに集中していればよいのだ。それに、ある意味では、守っていることになる。」
屈強で武骨な顔つきの錦戸は、そう言い終えるとゆっくり槍を下ろす。
「ハイハイ、わかりましたよ。新入りには、風当たりが強いですね、まったく。」
やれやれ、という風に青年が手を振っていると、ふと、背筋にひんやりとした汗が流れた。
「置いていくぞ。」
彰のその言葉はその意味に関わらず、その場にいた全員の雰囲気を変える独特の重みがあった。
「な、なんていうか、あの世に連れていくような…そんな雰囲気っすね。」
記録係の青年は全身を震わせている。
「だから言ったろ、失言は(・)控えろ(・・・)と特にあの方と同じ隊のときはな。俺に感謝することだな。」
そんな錦戸や、もう一人も額に汗を浮かべている。
やがて、一行は銜正のベースキャンプに着いた。そして、周りに比べ一風変わった、一回り大きく、豪奢なテントの入口をくぐった。
「う、うわぁ…うっ、おえぇぇぇー。」
その中は、単にグロテスク。まるで拷問部屋の如く、むっとした死臭が鼻から侵入しとてもじゃないが、我慢ならない吐き気を催す。奥の壁替わりに使われている錆の浮かんだ鉄板には、服の代わりとでもいうように、年齢順だろうか、首なしで裸の女性で並んでいる。向かって左手側にある木棚には、ホルマリン漬けされた女性の頭部が飾られていた。そして、右を向くと血によって濡れた深紅のベッドには、首に手の形に青痣が浮かんでいる妙齢の女性で死姦に集中している銜正の姿がある。ふと、銜正が動きを止めて青年に向かって溜息をもらす。
「キミィ、ちょっと失礼だよう?こんなこと、ざらだって。ほら、周りを見てみな。」
未だ口を押さえ、涙目の青年が錦戸達を見回すと全員まるでこの場所が平気…というよりむしろ少しリラックスしているのではないかと思わせる、堂々ととした態度をとっている。不思議そうな顔をする青年に、錦戸が小声で「近榎さんに対抗できる数少ない一人があの銜正さんだ。」と言われ、少し納得する。この状況より、近榎と近くにいるほうが恐ろしいのだということを。
「誰も、教えてあげなかったの?このこと。まぁ、新人君なら、驚いても仕方がないかな。いくら何でも不親切ってものだぜ。」
「記録、早くしろ。」
彰は銜正を無視して、話を進める。銜正は一瞬、目を細め場が凍ったが、すぐに青年に笑顔を向けた。「轍、このごみ処理しといて。」死体を傍に控えていた轍に指示する。さて始めようか、と戦況を語り始める。
「待機。」
と、守護者二人に言い残し彰はテントを出る。
(この後、杜のところへ行って、その後どうしようか…。帰るか?)
読んでもらえるってのはいいものですね。頑張ります。