近榎 彰
短めです。無念…
「こ、ここが、破救道教の本拠地…」
教団地、通称〈家〉。半径数十キロメートルの周りを囲む無機質な壁を持つ。ただし、厚さが尋常ではない。爆撃兵器で砲撃され続けても何週間かかっても落とせないだろう。これを作り上げた先人たちは偉大であると言わざるを得ないだろう。
門は、大人五人がそれぞれ手を広げたほどの長さで、高さは四~五メートル。形は長方形で、壁に対していささか小さい、が総鉄製で相当な重厚感を持っているのは確かであると言えよう。
そして、門がシャッターのように上に上がる。門の前で待機させられていた捕虜、もとい新たな信徒となる子供たちが門のわきに移動させられると、兵団が出てくる。
(あぁ、また大人がたくさん殺されて、僕たちみたいなのが来るんだな)掘る尾の少年がふと見上げると楽しそうに笑っている若者たちがいた。これから、殺人をするというのに…。
「よし、揃ったか。今日は、残念ながら漠水第五大隊、宇和第六大隊との共同戦線。第五廃地の掃討作戦だ。気を引き締めていけ!」
「「「はっ!」」」
絇島の良く通る声に、絇島第三大隊の全員が勢いよく返事をし、それぞれの持ち場へ散っていった。うむ、よく訓練されている。あ、訓練させたのは自分かと絇島は自画自賛している。
「そうだ、彰、いるか?」
ぬっと絇島のやや右後ろの影から、彰が現れる。熟練された感覚を持つ絇島の意識の隙間を縫う動きに、いつも驚かされる。敵でなくて本当に良かったと思う。
「お前には、ここの長老格を殺ってきてほしいんだが…。」
「既に。」
「だよな。」
その手には五人の老人の首があり、それからは、まだ血が滴っている。これを戦闘用の能力なしにこなすから恐ろしい。
「彰、お前は何を目指している?」
絇島が唐突に切り出す。だが、彰は表情を変えずに口を開いた。
「特にありません。貴方様に仕え敵を殺していくのみです。」
そう言って、遠くの戦場を見つめる。その瞳は闇夜の湖を思わせる。
絇島は、軽くため息をつき煙草を取り出す。彼の物憂げな顔を横目に、彰はさらに遠くの戦場を見つめた。
「終わったか?」
「そのようですね。見てきますか?」
「あぁ、記録係と守護兵を連れて行け。気を付けて行け。」
絇島は、ぷかぷかと煙草をふかし、すっと消えていく彰の気配を真顔で見送る。
(もう少しだ。あと一押しで、運命は動き出す筈だ。)