プロローグ
1990年代の陽皇国では、少子化の影響で人口減少の一途を辿っていた。陽皇国政府は、少子化対策に、義務教育終了までにかかる養育費を国が全額補償。そして、寿退社した女性の就職の補助も国が負担した。然し、、財政は失敗に終わり、多額の借金を抱えることになる。
2000年代後期、政府は、財政回復を目指し、全国の政令指定都市から代表で八都市を「機械都市」化する計画を立てた。その政策は、機械を導入することで労働者不足を補うことに成功した。しかし、段々と人間の労働力の必要性が失われ、逆に失業者が増える結果となった。
富裕層は、各地の「機械都市」で自治を行い、「機械都市」以外の都市は、人の手が加えられなくなり廃墟となった。そこに貧民は住んでいる。
このような中、子供たちを正しく導き、未来を救う。そして、現状を壊すという思想を唱える人々が登場した。そのうち有力な五人を五道天人と呼ぶ。
そして2010年、五道天人と後に教祖と呼ばれる破救同一神(又は芽脳とも呼ばれる)が破救道教を説いた…
「…以上でよろしいでしょうか、先生」
白いポンチョを着た栗毛の少年が教科書を置く。
「ありがとう。ちなみに、貧民の文化はあまり知られていません。穢れた思考を学ぶことは、私たちの思考 まで穢れてしまうと考えられていますからね。」
甲高い女性の声が教室に響く。
「あの、何故、人間を狩るのですか?救わないんですか?」
恐る恐る手を挙げ質問したのは、十歳ほどの少年だ。
「愚か者!」
ヒステリックな声で教室が震える。
「教祖様の教えを忘れたのですか。基本の教えを唱えてみなさい!」
「ひうっ。愚かさは人を殺し、純真さは新たな希望となり人を救う…です。」
「そう、愚かさとは外界の大人。純真さとはあなたたちのような子供。外界で子供が大人に毒されないよう に保護し、神の教えに背き無知で愚かな大人は狩ってしまうのです。わかりましたか?このようなことは 既に理解していると思っていましたが…
「失礼。九番教室はここか?」
女性教師の言葉を遮り登場してきたのは、背筋が伸び威圧的な雰囲気を醸し出す偉丈夫だった。
「こっ、これは絇島特級貴族様。あなたほどのお方が何故…今月の特別講義は別のお方のはずですが…失礼と は存じてお聞きいたしますが、代行、ですか?」
「そうだ。この教室は白の制服か。まぁ、よろしく頼む。」
絇島に微笑みかけられた教師は、頬を赤らめ指を絡ませながら憧憬の眼差しで見つめていた。
「皆、初めまして。特級貴族の絇島応鹿だ。第三大隊隊長を任されている。」
三十人余りの生徒たち全員、驚きのあまり唖然としている。
絇島は、わざとらしく何かを考えるように、腕を組みながら壇上を一周し、にかっと笑った。
「椅子に長時間座って疲れただろう。今日は、趣向を変えて練兵場で講義しようか。」
生徒たちは初めての練兵場での講義なので、普段あまり見せないようなはしゃぎ様だ。そして、絇島が先に行って待機しているようにと言い、生徒たちはいそいそと教室を出て行った。
「あ、あの失礼ながら、よろしいのですか?あの子たちはまだ練兵場に入ってもよい年齢ではありません が…。」
教師は、心配そうに問いかける。
「心配無用だ。許可はとってある。」
絇島がそっけなく言い残して教室を出た後、教師はその態度にシュンとなりおどおどとしていたが、やがて急いで絇島の後をついてゆく。
練兵場は生徒たちの通うアカデミアに隣接されており、三千人は収容できる程の体育館のようにドームの形をしているが床は土になっている。ここは、アカデミア上級生が使用しており日夜汗を流している。授業で使用されていないときは、一般の兵にも解放されており砂が敷かれた地面には金属の破片が散らばっている。今日は、貸し切りなので他の生徒はいない。
「流石に、君達に実際に手合わせさせる許可は下りなかったので、私の軍の精鋭を幾人か用意した。彼等の模擬戦闘を見て本場の空気を感じてほしい。」
生徒が騒めく。そんな騒めきの中入口に向かって絇島は指を鳴らした。全員の視線が後ろの入口に向くと、そこから、僧兵の服装の上に防刃ベストとこしまきをつけ、ハルバードのような大きなものから無手の者まで二、三〇人ほどの一糸乱れぬ動きで闊歩してきた。全員が直立不動で整列し終わると、その中から独特の雰囲気を纏った三人が前に出た。その三人は、『三』と刺繍された外套を羽織っている。
「よっガキンチョ共。中隊長、銜正禽だ!よろしくなー。」
真っ先に声を上げたのは、長身で鷹のような鋭い目を持ち、痩せ形の二〇代後半の男…否、単に老け顔なだけで一八歳である。
彼の後ろには、ハルバードに始まりレイピアなど斬撃や刺突に特化した武器を持つ男性の部隊が構えている。
「そこ!姿勢がなってないぞ!貴様の背筋と腹筋はまったくもって機能していないのか?ふんっ、きちんとしろ。あぁ、禽から学ぶことは何も無い。こいつは、武力こそあれど、武人としては風上にも置けない輩だ。気を付けるように!おっと、言い忘れていたが中隊長杜梭夜だ。」
呼吸一つ乱さず力強く言い切る彼女は、目深に帽子を被りいかにもな軍人然としていて常に眉間に皺を寄せて、長い黒髪をたなびかせている。生徒たちの中から「御姉様…。」という声が聞こえる。
彼女の後ろには、無手に始まりフレイル、バックラーなど体術、打撃等に特化した女性の部隊が構えている。
「もりりん~、そんなに俺の事悪く言わないでよ。評判落ちちゃうでしょ?特に女の子からのネ。あんなことやこんなことした仲じゃん。」
銜正が軽くウィンクしながら、拳の中から親指を出すと杜は、耳まで顔を赤くする。
「も、もりりんなどと、変な呼び名をつ、つけるにゃ…な!それに悪いのはすべて貴様だ。女癖が特に酷い。貴様のムスコを握りつぶすぞ。」
「それマジ勘弁っす。」
生徒たちはにやにやと笑っている。
「わ、笑うなー!」
会場全体が明るい雰囲気になったところで、最後の一人はどんな人物かと、見た瞬間、空気が変わり静かになった。そして、生徒の一人が口に出した。
「れ、冷血の殺人機械だ…」
「・・・隠密機動部隊、並びに〈猟犬部隊〉隊長近榎彰。」
黒い布で目元以外を隠した状態であったが、辛うじて、青年とわかる。その眼の暗きは、新月の夜の如く、深く切ない。何よりその身からは、血と死の臭いが濃く漂っていた。
投稿はかなり気まぐれかもしれません。作者病気なので…あはは
次回投稿は、未定です。でも、応援があれば頑張ります!