始 承ー②
そんな優等生が授業中にゲームをしているのは意外だった。高校時代、その生徒は1度も、誰にもバレずにゲームをしていたことになる。大したものだ。
やっていたゲームは当時流行っていたものだった。彼はそのゲームに興味はなかったので、目を離し、顔を上げ、再び教室を歩こうと思った。
その時、1つだけ奇妙な席が目に入った。。
椅子に生徒が座っている。生徒はカリカリと黒板をノートに写していた。後ろ姿ではあったが、その生徒がかつての自分であることが分かった。ここまではいい。
問題は机だ。黒板を書き写すノートの上に、制服を着た、腰まで届いているほどの長い黒髪をした女性が座ってる。彼が教室に入ったときにはそんな場所に女性などいなかった。
彼女もまた後ろ姿ではあったが、その頭には親指ほどの大きさの角が2本あった。
「なんであなたがいるんですか?」
その女性は先ほど智樹を寝付かせた女性、夜行芭玖螺であった。
先ほどは着物姿だったが、教室だからなのか、制服で、しかもわざわざこの高校の女子制服を着ていた。
彼女の外見が外見なだけに、制服を着ていてもなんら違和感がなかった。はじめからこの高校の生徒だったように。
呼ばれて振り返ると、彼女はニコリとほほ笑んだ。
「ごきげんよう」
「いや、そうじゃなくて……」
「あら?言いませんでしたっけ?夢で会いましょう、って」
彼女は表情を崩さない。
そう言われてみれば、そんな気がする。意識が途切れる瞬間の、最後に聞いた言葉がそんな感じだったと思う。
しかしまさか本当だったとは。
とはいえ、何が目的でここにいるんだろうか。
「夢、とはいっても、ここはあなただけの夢ではありませんがね」
「どういうことですか?」
「夢とは、記憶の脳内整理のことみたいなものだというお話って、ご存じですか?」
智樹はうなずいた。バラエティ番組などで何回か聞いたことがある。
しかしそれがなぜ彼女がここにいる理由になるのだろうか。
「ここはですね、あなたはもちろん、この学校に通っていた生徒や教師などの記憶から成り立った夢なんです。とはいっても、今起きている全ての出来事が同時刻の出来事、というわけではありませんが」
そう言って外を指さした。その方向には、女子高生数人がしゃべりながら帰路についているところであった。
なるほど、この学校で起きたことすべてを、時間に関係なく映像のようにして目の前に現れているということか。