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夢喰いバクラ  作者: 勝田瑠衣
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始 序

 古くから日本に伝わる、異形の存在、鬼。

 鬼は源氏物語などの有名な書物に、怨霊を表現するものとして登場し、あるいは桃太郎などの子供が読むような絵本の中に、知恵を持つ凶悪な存在として現れ、そうかと思えばなまはげのように、文化として存在する鬼もいる。地獄絵図にあるような、残虐極まりない存在として描かれることもある。

 鬼とは、凶悪な存在であり、また、敬われる存在でもあった。神であり、悪魔でもあった。いずれにせよ、大抵の人間がどうこうできるような存在ではないほど、強大な存在であった。現代でも、怒った顔を「鬼のようだ」というように、昔から鬼は恐ろしいもの、という印象があった。

 しかし現代では、科学の進歩により、災害は鬼などが起こすものではなく、地球が起こすものだと知られている。台風による被害を鬼の仕業だとか、神がお怒りになっているからだ、などと言う人は、昔ほど多くはないだろう。

 では、鬼はいなくなってしまったのだろうか。もともと存在しなかったのだろうか。現代では鬼は想像上の生き物だとされている節があるが、それにしても、ではどうやって人々の頭の中に、昔から鬼の想像図、例えば2本の角、大きな牙、鋭い目、真っ赤な体に巨大な金棒を担いだ姿が浮かぶのだろうか。最初に鬼を想像した人がいたとして、どうしてそのような姿が浮かんだのだろうか。

 存在しないことを証明することは、存在することを証明するよりも難しいことであり、この問いに正解を与えられる存在は、きっと鬼しかいないだろう。


 「じゃあ、お答えしましょうか」

 ネットカフェの一席。鬼に関する記事を読んでいた少女がここまで読んで呟いた。

 電灯の光を反射して艶やかに光る黒い髪は前だけ綺麗に切り揃え、ピンクのスパンコールで英語が書かれた帽子をかぶり、サングラスをかけ、腹部にキラキラ輝く真っ赤なハートがでかでかと描かれた黒い半袖のへそ出しTシャツにデニムのショートパンツという、露出の多めな格好の少女が、誰に見せるわけでもなく、帽子を外した。

 「鬼は存在するわ。私が何よりの証拠」

 その少女の頭には、親指ほどの大きさの小さな角が2本、生えていた。

 彼女の名は夜行芭玖騾(やこうばくら)。鬼など妄想である、とされる現代を生きる、鬼である。この日彼女が鬼に関する記事を見ていた理由は、あるテレビ番組で『鬼の角!?異様に大きな動物の角』という特集をやっていたのを見て、この番組を見た人々の反応をネットで見るためだった。それが、掘り下げていったうちにいつのまにか鬼の存在の有無を語るページに至ったのであった。

 帽子を適当に置くと、彼女は再びパソコンの画面を眺めた。


 『今の時代、鬼なんて信じてるやつなんて幼稚園児くらいじゃねーの?www』

 『幼稚園児も信じてねーよwwwいとこのガキは少なくとも信じてねー』

 『牛のでかいやつの角を鬼のものだとか言ってただけでしょ?』

 『でも牛のやつよりも圧倒的に大きくなかったか?』

 『作ったんじゃね?』

 『番組の自作自演乙www』

 『テレビ局、視聴率稼ぐのに必死だなwww』


 「はあ……」

 芭玖騾は最初に見ていた、件のテレビの感想を述べるサイトに戻って、そこに書かれた下品な感想たちを頬杖をついて眺めた。書き込んだ人々を彼女は蔑み、呆れていた。

 「別にいいけれど……」

 そう呟いた次の瞬間に、彼女は画面から目を離して、立ち上がった。彼女の形の良い鼻が、ある匂いを捉えたのだった。

 部屋から出て、その匂いをたどると、カウンターに到着した。そこには、ちょうど今来店したところの、どう見てもやつれている、あるいは何か病気を持ったように見える男性がいた。

 しばらく芭玖騾が見ていると、その男性は体の向きを変えた。ちょうど芭玖騾と目が合う。

 「こんにちは」

 彼女は満面の笑顔で挨拶をした。男性は驚いたようで、目を大きく見開いたが、会釈して彼女の脇を通り、パソコンに向かっていった。

 その後ろ姿を見送ると、彼女は会計を済ませ、店から出た。

 「今回は彼にしようかしらね……」

 にやりと口角をつり上げたのだった。

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