始 末
立ち入る人間などいるのだろうか。そんな気にさせるほど鬱蒼とした森の中。
昼は日光が僅かに差す程度、夜になると月明かりが届かないため24時間を通して暗い森の中心に、目を凝らさなければ他の木々と見間違えそうになるほどの外観を持つ小屋が1軒、建っている。
その小屋には少女が1人、住んでいる。
彼女は今、ちょうど食事中のようだ。
ガラスのコップにブルーハワイのような青い液体を入れ、喉を鳴らして飲む少女。彼女は日本人形をそのまま人間大にしたような外見をしている。しかし彼女は、日本人形などではなく、また人間ですらない。
彼女が飲むその液体は、智樹の夢を酒に溶かしたもの。夢によって色が変わるのだ。彼女は人の夢を吸って生きている。
鬼であり、夢を食うその様から、彼女は自らを『夜行芭玖螺』と名付けた。
夜行は百鬼夜行から取り、芭玖螺は、夢を食べる生き物とされるバクに当て字をしてつけた名。
彼女は眠りにつく人間の頭をなでることで夢に干渉し、同時に吸い取る。それゆえ、目が覚めた時には夢のことなどはほとんど覚えていない。そう、彼のように。
「ふう」
飲み終えると、席を立って外に出る芭玖螺。
「うぐぐぐぐぐ……」
うめき声をあげ、左腕に力を込める。
すると智樹の夢の中でそうであったように、彼女の左腕が鬼のそれに変わった。
「はあ……まだ足りないか」
そうつぶやくと彼女は腕をもとに戻し、小屋ごと自らの姿を森の中から消したのだった。