始 結ー①
目が覚めると、彼は自分の部屋にいた。
「あれ?」
家に帰った記憶などないのに、なぜか自分の部屋にいる。
体を起こし、考える。
「今日はふつうに出勤して、帰りにスーパー寄って買い物して……」
右手で頭を抱え、1つ1つ口に出し、記憶を整理していく。
「それで、帰ろうとしたら変な店があって、気になって入ったら日本人形みたいな女の子がいて、疲れを察したあの子が俺を寝かせて……」
名は確か、『やこうばくら』といったか。漢字までは出てこない。
そして、店の中であったその後の出来事を思い出すことはできなかった。寝かされたあとに一体何をされたのだろうか。痛みは感じられないので、残酷なことはされていないようだが。
それにしてもやはり、家に帰った記憶がない。
掛け布団をどかして床に立った途端、彼はかなり寝汗をかいていたことに気がついた。
「うわあ……」
まるでおもらしだ。ベッドを触るとじめっと湿っている。自分の汗とはいえ、不快感が現れた。
そういえば、何か不思議な夢を見ていた気がする。懐かしいような、でも怖ろしかったような、変な夢だ。そうはいっても詳細までは思い出すことができなかった。
「ん?」
握ったままの左手に違和感がある。
開いてみると、中にはメモ帳を切り取って4つに折りたたんだ紙が入っていた。
その紙には、
多趣味時代に買ったもので不要なものは、中古屋さんにでも売ってくださいね。どんな安い値段で 買い取られても、必ず売却してください。それがあなたの不幸を断ち切る方法です。
夜行芭玖螺
短いメッセージだった。そして、智樹にはなぜそうしなければならないのか、理由が分からなかった。 何を根拠にそんなことを書いたのかが分からない。しかし不思議なことに、そうしなければならないという使命感のようなものを彼は感じていた。
彼はさっそく、押入れやタンスの中などから、かつて趣味を見つけるために買い漁ったものを探し始めた。