episode1【マカロニアへようこそ。】
真実があれば、嘘があるように。
光があれば、闇があるように。
美味しいがあれば、不味いがあるように。
暑いがあれば、寒いがあるように。
この世の全てのものは、表裏一体に構成されている。
そしてその表裏一体のものは、存外近くに存在し合っているものだ。
それは、私たちが普段過ごしている"日常"も例外ではない。
真実があれば、嘘があるように。
光があれば、闇があるように。
美味しいがあれば、不味いがあるように。
暑いがあれば、寒いがあるように。
日常のすぐ傍には、"非日常"が存在しているものなのだ。
―――これは、そんな"非日常"に触れてしまった少女のお話。
冬。
室内ですらお構い無しに突き抜けてくる寒さから逃れるために、暖炉の前で温まる。
ロシアの最北端にあるこぢんまりとした街、のはずれにある少しだけ大きめの家。
そこが私、アレンダー・アルモードの家。ちなみに独り暮らしだ。
17歳、女。この国では珍しい黒色の長い髪。目は赤色。ちなみに目つきは悪い。
服は大体いつも黒のパーカーとホットパンツ。それと黒いマフラー。
寒いのか暑いのかはっきりしない服装だとよく言われる。一理ある。
まぁこっちの方が動きやすいし、運動すれば体は温まるものだ。運動すごい。
皆も寒かったらちょっと走ってみればいいと思う。暖かいから。
「……って、誰に向かって話してるんだか……」
ゆらゆらと揺れる椅子に座り、ホットコーヒーを一口飲む。
パチパチと火が爆ぜる音だけが聞こえる、静かな時間。
チラリと時計を見る。3/14 AM9:26。
そういえばまだ起きてから何も食べてなかったっけ。
買い置きしてたパンがあったかな……椅子から降りて台所の方へ歩く。
なんてことはない、いつもの日常。代わり映えしない毎日の1ページ。
こうやって私は今日も、なんの実りもなく命を縮めていくのだろう。
―――そう、思ってたのに。
「……ん?なんだこのアプリ。」
椅子に揺られながらパンをかじりつつスマホを弄ってると、"ソレ"に気付く。
【マカロニア王国物語】と書かれた、可愛らしいアイコンのアプリ。
こんなアプリとったっけ?記憶にないな……。
まぁとりあえず起動してみるか。どうせ暇だし。
そう結論付けて、アイコンをタップする。
その、瞬間。
「……っ!?なんだこれ……!?」
抗いようのない眠気。ブラックアウトしていく視界。
意識をまるごと狩られそうなその感覚が、急に襲い来る。
昨日寝不足だったか……?なんにせよ、寝るならちゃんとベッドで寝ないと……
そう思い椅子から降りようとするも、体に力が入らない。動かすことすらままならない。
「くそっ!なんなんだよ……!」
悪態をつくも、状況は変わらず。
そのまま私の意識は、闇に飲み込まれていった。
「……ん…ぅ……眩し……?」
瞼をくすぐる日差しに、目が覚める。
あれ……あぁそうか、私、あのアプリを起動したら、急に眠くなって…
近くでそよ風の吹く音と、それに揺られて木々がざわめく音が聞こえる。
…?窓開けっ放しだったっけ?いや、それにしては体が暖かい…
薄目を開けてごろんと横になる。下から聴こえてくるゴーという音と、鼻先をくすぐる何か。
……あぁ、鼻先をくすぐってるのは草か。じゃあこのゴーっていうのは、地面の音だな……
「…………地面ッ!?」
ばっと起き上がり周りを見る。確かに私の寝てたのは地面だった。
周りには木々、緑が生い茂っていて綺麗だ。日差しも暖かい。
……私の暮らしてた雪国と、正反対の景色。
「どっどっどこだここ!?」
いつの間にこんな場所へ?夢?そうか夢か!
傍らにあった大木に思いっきり頭突きをしてみる。
ゴンッ!
「…ぅ、ぅぉぉ……!ぅぉぉぉぉ……!!!」
とりあえず夢ではなさそうだ。めちゃくちゃ痛い。泣きそう。
頭を押さえながら、涙目でもう一度周りを見渡す。
どうやらここは森の入口のようだ。後ろには鬱蒼と茂った森が見える。
では前はと視線を向ければ、そこは健やかな草原になっている。
草原の中にあるあの高い塀は、もしかして街か?
あんなRPGみたいな街が存在するのだろうか。というかそもそもここはどこだ?
考えれば考えるほど疑問が浮かぶ。あと頭が疼く。痛い。
とりあえず誰か…誰かいないだろうか。通行人Aでもいい。せめてここの地名だけでも聞きたい。
そう思ってキョロキョロすると、森の中から蹄の音が聞こえてくる。
目を向ければ、如何にも行商人、といった風体の男が馬車に乗ってこちらに向かってくる所だった。
「あ、あの……!」
藁にもすがる思いでその男に駆け寄り声をかける。
「おやお嬢ちゃん、こんなとこを一人では危ないよ。」
「あ、あの、私ちょっと迷っちゃって、ここどこですか…?」
「ん?ここはマカロニア王国近辺の草原だが……。
そんなのあの王国の塀を見れば一目瞭然だろう?」
そう言って男は、先ほどの高い塀を指差す。
マカロニア?王国?なんだそれ…どこだ…?
「え、えっと……それって地球儀で言うとどこら辺にある国……?」
「おいおいお嬢ちゃん、新手のバグにでも蝕まれちまってんのか?
地球儀もなにも、ここはプレイヤー様方が住む地球なんて世界じゃないよ。
―――――ゲームの世界、マカロニアだ。」
………。
……は?ゲーム?なんだそれ、からかわれてる?
ますます混乱する頭、行商人もそんな私を怪訝な面持ちで見てくる。
―――その時。
『ゴブッゴブゥ!!』
「へっ何……うわ気持ち悪っ」
森の影から現れた、醜悪な人型の何か。
なにこれ、化物?モンスター?ハロウィン?
あ、そういえばハロウィンといえば、今年はカボチャちゃんと育つかな…
いよいよ持って私の頭は限界を迎え、そんな現実逃避思考をし始める。
すると、そんな私を見かねてか行商人が、
「くっはぐれゴブリンか。お嬢ちゃんちょっと下がってな!」
そう叫ぶと、私の前に立ち、手から炎を打ち出す。
手から……炎を……打ち出す……。
「ふぅ、一匹だけでよかったな。おいお嬢ちゃん大丈夫k…お嬢ちゃん?おーい?」
限界を超えオーバーフローした私の頭はついにすべての思考を停止し、
私はただ目の前で展開された超精巧3DRPGの戦闘を、虚ろな目で見てるしかなかった。
「う、嘘だ……嘘だよ……そう、壮大なエイプリルフール………」
「あー、ダメだなこりゃ。完全にショートしてやがる……
なんか深刻なバグも抱えてたみたいだし…"女王様"の下にでも連れて行きますかね。」
そう言って行商人は、私を馬車に乗せ、目的地を定める。
……こうして私の退屈で停滞しきった日常は終わりを迎え、
笑いあり、涙ありの冒険の日々が幕を開けたのであった……
つづく
まずは稚拙な文をここまで読み進めていただき、誠にありがとうございます。
何分小説を執筆するというものが初めての経験であるため、
お見苦しいところも多々あるかとは思いますが、これから色々勉強させていただき、
最終話まで無事書き上げて見せたいと思っておりますので、
何卒よろしくお願いいたします。