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この箱庭よりも大切な人に  作者: 蒼山
第三部 第五章
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虹の橋 ~夢の終わり~ Ⅱ

 勿論クリスがこの男に返事などするわけが無い。

 少女が黙って聞いていると、その首に押し付けられていたナイフが少し浮き、また押し付けられてはするりと滑る。

 どうやら首に小さな切り傷をつけて遊んでいるらしく、その趣味の悪さにクリスは吐き気しか出てこなかった。


「貴方を連れて私が去れば、二人とも解放してしまうのが目に見えています。彼は内心あのルドラの青年に話しかけられてホッとしていると思いますよ」


 それを聞いたクリスに一体どのような返事を求めているのか。

 流石に怪訝な目で彼を見上げたクリス。

 ようやく得られた反応に、セオリーはその赤い瞳を細める。


「貴方はフィクサーよりも素質がある」


 ルフィーナよりもずっと低いのにどこか似ているハスキーな声が、クリスのすぐ傍で響いた。

 何の、だなんてクリスは聞いてやらない。

 本当は聞きたいけれど、また嬉しい顔をされたら堪ったものではないからだ。

 しかしそこで、つぷ、とナイフの横刃ではなく先端をほんの少しだけ彼女の首に刺し、反応しろと無言で要求するセオリー。


「痛いし、痒いです」

「おや、失礼。顔色を変えないので痛みを感じていないとばかり」


 クリスが仕方なく反応してやると、やはりこの男は喜んでいるようだった。


「……ちっ」


 イライラして自然と出てしまった舌打ちに、クリスは自分で驚く。

 傍目に見ても分かるくらい、クリスの表情は悪いものになっており、舌打ちを聞いたセオリーはそれまでもが楽しいのか、にやりと笑っては問いかけた。


「私が嫌いですか?」


 問いかけられるだけで、クリスは喉の下のあたりが詰まるような感覚に襲われる。

 荒野を吹き抜ける夜風が首の血を表面だけ乾かさせ、嫌な気分を増長させていた。

 一呼吸おいてから、自身を落ち着かせるように答える。


「当たり前です」

「奇遇ですね、私も貴方が嫌いです」


 何て滑稽で当たり前の会話をさせられているのだろう。

 ナイフを突きつけられていなければすぐにでも殴りかかりたいくらいにクリスの気分は淀んでいた。

 そのように彼女を散々不快にさせながら、唇を薄く開けてセオリーは言う。


「以前からずっと、貴方の偽善面が気に入りませんでした。正しいことを押し通し、押し付ける。実に浅い」

「だから何なんです」

「何でも綺麗事だけでは収まらないのですよ」


 そんなことクリスだって知っている。

 でもクリスは、だからといってそれらを諦めてしまえるほど達観などできないのだ。


「……そうかも知れませんね」


 言いたいことはあるが、セオリーとそんな問答をするつもりの無いクリスは取り敢えず肯定しておく。

 すると、話はよく分からない流れに飛んだ。


「フィクサーはそれを分かっていますし、自分の為に他人を踏みにじることを否定したりはしない。ですがやはり必要に駆られないと非情になりきれないのです。あの通り、ね」


 そう言って、フォウと喋って完全に攻撃の手を緩めている仲間を睨み付けるセオリー。

 その赤く細い瞳は、何と例えようもない様々な感情が入り交じったものだった。

 会話からは友達のような印象を受ける二人だが、セオリーの視線は友達や仲間を見るそれとは少し違う。

 エリオットの首を斬りつけた時に言っていたように、フィクサーの目的が達成出来なくとも構わない、など何処か歪んでいる関係なのはクリスにも分かるが、だとしたら何故セオリーはこの場でこうしているのか。

 その意図を判断出来る情報は、何一つ無い。


「ですが……貴方はなれますよ、きっと」


 先程以上に理解に苦しむ言葉が、クリスの耳の奥にぬるりと入り込んできた。

 またその舐めるような視線を向けられて、心底気持ち悪いと少女は思う。

 だが、いやらしいにはいやらしいのだがエリオットが女性を見る時のようなものとは全く違う、何か別のものがそこにあるのだ。

 だからこそ、尚更不快にさせられる。

 気持ちが顔に出てしまっているクリスに掛けられるもう一言。


「あんな目で私を斬り刻めるのなら、ね」

「そ、それは……」


 そこでクリスは大きく心を揺さぶられた。

 確かにこの男に対してなら自分はどんな酷いことでも出来てしまうだろう。

 少女の暗い心を、変化させた当人が嬉しそうに指摘する。

 それをセオリーは素質と呼び、まるで褒めているよう。

 何が言いたい。

 何がしたい。

 この男が理解出来なくて気持ち悪い。

 クリスは、先程から何度も首をなぞっているナイフの痛みが分からなくなるくらい頭がくらくらしてきていた。

 皆の声が遠くなってくる。

 そこで、ずっと聞き流していたフィクサーとフォウの会話のトーンが変わり、辛うじてクリスの意識が元に戻された。


「こんな時だってのによく喋る口だな。時間稼ぎでもし……」


 呆れながら言いかけたところでフィクサーが青褪める。

 瞬時に彼はセオリーに振り向いた。


「おい! 何遊んでるんだよ!! 早くその娘を連れて戻れ!! 俺は、」


 だが、全てを言い切る前に事態は動く。


「いい加減にしろっての!!」


 何かに焦るフィクサーの叫びを遮った、更に大きな声。

 誰が誰に言ったのか一瞬わからなくなるくらい突拍子も無く耳に届いた罵声は、フォウの隣から聞こえていた。

 この時間に起きるはずの無いその人物が……上半身を起こしている。


「エリオットさん……?」


 いつも何をどうしても起きない彼は、多分寝言と思われる叫び声と共に目覚めたのだ。

 その直後、クリスの体に衝撃が加わり、


「くはっ」


 彼女は思わず呻いてしまう。

 セオリーがクリスの体を押し倒し、地べたに顔をつけさせ、馬乗りになった。

 突きつけたナイフはそのままに、彼は先程よりも本気度の増した体勢でクリスを押さえ込んでいる。


「遊んでいる場合でもなければ、躊躇っている場合でも無かったということですね」


 薄い白緑の髪がクリスの上で風に吹き上げられ、彼の眼鏡の下の赤い瞳は少女を真っ直ぐ見下ろしていた。

 急に起きたエリオットよりも、クリスのほうがセオリーにとっては興味があるように見えるその目。

 フィクサーは一旦レイアやフォウを置いてエリオットに自身の血を用いて攻撃を仕掛けたが、飛んだ血はエリオットの手から溢れた光によって杭ではなく透明な水滴へと変化させられ、苦い顔をする。


「いつまでも起こそうとしないから起こせない理由があると思ってたんだが……違ったのか」


 フィクサーの低く、くぐもった呟きに、フォウがにこやかに返答した。


「いや、俺もよく知らないし、単にそのうち起きるほうに賭けてただけさ。おはよう、王子様」


 起きたエリオットはというとまだ事態が飲み込めていないらしく、声をかけられたにも関わらず動こうとしなかった。


「王子様、これ夢じゃないからね」

「マジか」


 心中を察して付け加えたフォウに返事をしたエリオットはすぐに立ち上がり、フィクサーとレイアに向き直って、詰め寄る。


「これはどういうことだ」

「申し訳御座いません、王子……」


 傷だらけで、手足に杭を打ち込まれているのに第一声は詫びの言葉。

 そんなレイアをちらりと見てから、エリオットの形相は更に険しいものとなっていた。

 エリオットの怒りを買いたくないフィクサーは、吐き捨てるように言い訳をする。


「先に言っておくがこちらは仕掛けるつもりは無かった。喧嘩を売ってきたのはそっちの小娘からだ」

「……クリスから?」


 寝起きで若干ぼやっとしている翡翠の瞳がクリスに向けられた。

 「本当にそんなことをしたのか」とでも言いたげに驚いているよう。

 理由を問われているような気がしたクリスは、素直に行動理由を伝える。


「やられる前にやっただけですよ」


 するとエリオットは更に目を丸くして、その後すぐにその瞳は悲しげに細められた。


「……クリス?」

「?」


 何故問いかけるように名前を呼ばれたのか分からず、エリオットに疑問の表情を向けるクリス。

 そこにこそ、クリスの変化が如実に表れていたのだ。

 彼女に「やられる前にやること」を諭されたことのあるエリオットは驚きを隠せない。

 そして、その時同席していたセオリーもエリオット同様に気付いて、


「やはり、フィクサーよりも貴方のほうが早そうですね」


 クリスにだけ聞こえるくらいの小さな声で喋った。


「何が……」


 意味不明なことばかり言われていていい加減にして欲しくなったクリスは堪えかねて突っかかろうとした。

 だが、次にセオリーはクリスではなくエリオットに向けて大きめの声で言う。


「以前貴方の首を切った時同様に、私は躊躇いませんよ」


 その台詞に、強張るエリオット。

 セオリーの脅しが効いていると判断したフィクサーは、二人の会話に気を払いつつも、少しずつ地面に血で陣を描き始めた。

 その魔術紋様の意味を知っている王子は、それを止めようとはしない。

 それよりもクリスに刃を向けているセオリーのほうが現時点では危険だ。


「……俺がそっちに戻ればいいのか?」


 要求されるであろうことを先に述べるエリオットに、セオリーがフィクサーを見る。

 あちらに聞け、ということなのだろう。

 それに促されてサングラスを外したエリオットが、夜に馴染んで分かりにくい黒ずくめの男を、問うように見つめた。


「まぁ待て」


 そう呟いて陣を描き終えたフィクサーがその中心に立つと、円形の魔術紋様が暗闇の中で薄らと光を放ち彼の傷を癒していく。

 陣は一人分には少し大きく、範囲に入っていたレイアをも包み込んでいた。

 その治療魔術は完璧なもの。

 同じ陣を他人に使わせてもこうはいかないだろう。

 どこまでの理解をすればここまでの完成度になるのか、とセオリーに乗られたままクリスはぼんやりと考えていた。

 治療を終えて、刻まれたスーツ以外は元に戻るフィクサー。

 レイアの傷も最低限の拘束部分以外、治されている。


「……状況は変わっている。お前が素直にこちらと再度手を組む気があるのなら、俺が呼ぶまでは城に残ったままで居てくれるほうが都合がいい」


 傷は治ったものの血塗れなことには変わらないフィクサーが、回復した腕の血をレイアでは無い側に振るって落としながら言った。

 フィクサーのとった行動に、エリオットの棘は少し落ちているようで、


「あの子供のビフレストか」


 言葉自体はいつも通りでもトーンが先程よりも柔らかい。


「半分正解ってところだな。ビフレストが二人とも城についているから探って欲しい」

「な……どういうことだよそれ」


 二人。

 クリスもエリオットと同じようにフィクサーの言ったことが一瞬よく分からなかったが、すぐに把握出来て心がざわついた。

 そこへ、首にずっと当てられていたナイフがぺたぺたと軽く張り付くように叩きつけられる。

 クリスの予想を言葉で改めて示すべく、セオリーの唇が軽やかに動いた。


「残念でしたねぇ、折角ルフィーナ嬢の願いを受けてそっとしておいたものを……」

「セオリーの言う通り、お前達には俺達以上に残念な話だろうな。ビフレストどもが城の人間を使って何かをしている。お前……仮にも王子なら何とかしろよ」


 悪態を吐くフィクサーに、エリオットの表情がムッとしながらも少しだけ緩んでいる。

 何となく、このままではまた彼はあちら側に染まってしまう……そんな予感がしてクリスは不安を覚える。

 どうしたらいいのか、どうすればいいのか。

 自分に力があれば、仲間になるだなんて選択をさせずに済んだのか。

 彼の代わりに仕返しをしてやれるのか。


「私が……」


 気付けばクリスは首に当てられていたナイフを素手で掴んでおり、切れた指から流れた赤い血でその首を更に染める。

 この時セオリーがナイフを引くだけで少女の指は取れていただろう。

 だが彼はそうしようとはせず、かといってクリスの指をナイフから外させようともしなかった。

 好きなようにさせて、溢れる血をただ上から眺める紅い瞳。


「もっと強くなることですね」


 クリスの考えをどこまで読んでいたのか、また小さな声で告げるセオリー。


「言われなくとも……っ」


 クリスにはそれが何の感情なのか分からない。

 腹の底で渦巻くそれは頭の奥を痺れさせ、息をするのも忘れてしまうくらい強いものだった。

 元々灯っていた火が炎となって埋め尽くしていくその感覚に身を任せようとしていたその時、


「そのあたりは後でやってくれないかな」


 フォウが今度はレイアに寄り添った状態で言い放った。


「またか、ルドラのガキ……」


 会話をぶった斬られたフィクサーがいい加減にうんざりした目で彼を見やる。

 突き刺さる視線の中、それでもフォウはその視線に負けじと言葉を紡いだ。


「手の平や足先以外の部分を治してくれたのはいいけど、これ以上放っておいたら痕に残っちゃうよ」


 レイアを見ながら彼女を労るように杭で刺されたままの部分の血を拭って、


「それと、レイアさんだけじゃなくてクリスもさっきから傷を増やされてるからね」


 クリスの状況も把握していた彼は、それをエリオット達にさらりと告げる。

 勿論エリオットは驚いてクリスを見た。


「バラさないで頂けますか、ルドラの青年」

「バラすバラさないじゃなくてだな、人質に勝手に手ぇ出してるんじゃないッッ」


 悪びれることの無いセオリーに、フィクサーが勢いよく突っ込んだ。


「大体何なんだ、さっさと連れて行けって言ってたのにいつまでもここに残って……やってることはタチの悪い悪戯か?」


 クリスに近寄ろうとしたエリオットを遮って、それよりも前に進み出てきた彼は、自分の仲間に対してこんこんと責め立てていく。

 だがエリオットに背中を向け、クリスのほうに向けている表情は、セオリーを責めているというよりも……


「話はまとめておくから、一旦戻っていろ」

「……分かりました」


 気遣うものなのだ。

 彼の背後に見えるエリオットは鋭い視線をセオリーに浴びせていて、多分フィクサーが割って入らなければ揉めていただろう。

 それを危惧してか、余計な争いを避けるように促してフィクサーはセオリーからクリスを受け取ると、エリオットに向き直りわざわざ悪そうな顔を作って笑った。


「さて、話を戻そうか?」

「フォウも言ってたがこっちは急ぎたいんだ、さっさと要点だけ言えよ」


 クリスの首に手を掛けながら紡がれた言葉に、口早に答えるエリオット。


「……じゃあ待ってやるからその家来をさっさと治してやれ。お前ならその杭も壊せるだろう」


 話を急かされるくらいなら、と先にレイアの解放を勧めたフィクサーとクリスの後ろで溜め息が吐かれた。

 その直後にセオリーの気配が消え、彼がようやくこの場を後にしたのをクリスは肌で感じる。

 脅されているような状況は変わらないが、体の奥底で疼くようだった気持ちが軽くなって自然と出た安堵の表情。

 エリオットがレイアの元で治療の続きをしている間、クリスは捕まったままで待っている状態なのだが、そこでフィクサーがクリスに顔を近づけて耳打ちした。


「セオリーに何を言われていたんだ?」

「え? ……理解出来ないことばかりだったので、答えられるほど覚えていません」

「十分も経ってないだろう、思い出せ」

「最初のほうに言われたのはもう思い出せませんが後半は、もっと強くなれとか、私のほうが早いとか言われました」

「……何が?」

「私が聞きたいです」


 締まりの無い緩い相槌を打つフィクサー。

 更に、現在クリスは首を掴まれている状態なのだが、その手の力はほとんど入ってないと言ってもいいくらい弱い。

 捕まえているとはいえ少しでも、と労わっているつもりなのか。

 彼は既に去った仲間のことを考えているらしく、漆黒の瞳は目の前の光景を映していなかった。

 そこでようやく治療が終わったらしく、レイアの体が上半身だけ起こされる。


「ありがとう、ございます……」


 そう言ったレイアの表情はとても悔しそうで。

 目の前に差し出されたエリオットの手に一瞬躊躇った彼女だったが、すぐにその手を取って立ち上がる。


「簡単に勝てる相手ならここまでゴタゴタしてないんだよ。気にすんな」

「王子、それはあまり……フォロー出来ていません」


 そんなやり取りをしている二人が視線を向けてきたことで、クリスとの会話は中断されて、フィクサーがエリオットに問いかけた。


「終わったか?」

「あぁ。えらく変な戦闘スタイルなんだなお前」


 返事をしないような流れの言葉では無かったが、フィクサーはそこで答えようとせずに口を噤む。

 それによって作り出された静寂。

 エリオットはフィクサーの反応に怪訝な顔をしたものの、すぐにまた元の表情に戻してその部分を掘り下げた。


「面白いけれどこれはどちらかといえばメインにするような魔術じゃないと思うんだが……」

「弱いものいじめをする気は無いから手を抜いてやっただけだ」


 話の途中で強く遮り、有無を言わさずエリオットの問いかけを止めるフィクサー。

 その言葉通りの意味では無い何かがあるのだろうが、先刻までのフォウとの会話のように喋る気は無いらしい。

 血がこびり付いて固まっている前髪をくしゃりと解すと、フィクサーは話を元に戻す。


「先ず、お前がここで得た情報を寄越せ」

「……大した情報は持って無いぞ? 通常の魔術紋様ではなく建物の形を使った魔術だ、というくらいしか分からなかった」

「何故この現状からそれが分かった?」

「フォウが……そこの三つ目の小僧が、魔術発動時の線をまだ見えているらしい」

「なるほど」


 こだわりがあるのか『三つじゃない……』とぼそぼそ呟いているフォウだったが、そこは空気を読む彼。

 無理に口を挟もうとはせずに横を向いた。

 その肩にはさり気なく白いねずみもおり、ちゃっかりダインは安全なところに退避していたようである。

 フィクサーはクリスの首に手は添えたままで言う。


「その情報さえ貰えれば次の対策を練ることが出来そうだ」

「何だと?」


 エリオットが「それだけでは足りない」と言っていた情報なのに、彼はそれで足りているらしい。

 勿論その理由を知りたいのだろう、エリオットは一歩足を踏み込み、態度と視線で問いかける。

 けれど、それにも答えようとはしないフィクサーは、


「急いで発動ポイントを予測しないといけなくなったから一旦この場は引いてやる。サービスだ、この子供も返してやるよ」


 ぽん、とクリスをエリオットの方へ押しやった。


「お前は後で何とでも出来るからな。とりあえずはビフレストどもの対処が先決だ」

「後で何とでも出来る、とは随分甘く見られたもんだな」


 クリスの肩を掴んだ状態でエリオットが乾いた声を放つ。


「そんなこと無いぞ。お前はお前で面倒だから……いや、まぁ甘く見ていると思って貰っていい」


 不敵に笑う、黒髪の男。

 だんだん街の明かりが小さくなってきて、今や彼を見るには目を凝らさなければいけないくらい、闇に融けるその姿。


「元々お前を狙ってここに来たわけじゃないんだ。起きたお前と喧嘩しても面倒なのさ」


 そう言ってフィクサーは一歩後ろに下がる。

 シャリ、と先日までは大きな建物が乗っていたはずのその土を鳴らし、彼の両腕が上げられ、


「じゃあな」


 くるりと腕を回したかと思うとその姿は青い光に包まれ、消えていった。

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