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この箱庭よりも大切な人に  作者: 蒼山
第三部 第三章
90/138

負の連鎖 ~打ち砕くもの~ Ⅲ

   ◇◇◇   ◇◇◇


 あれから二日後、エリオットは自分の使える金額を念の為チェックした後に使いの者をやってフォウを城へ正式に迎え入れた。

 わざわざ使いを出したのは、フォウを連れて来るくらいのことで抜け出して、レイアに怒られたくなかったからである。

 先日抜け出した際は、散々怒られたらしい。

 エリオットの部屋の近くの一室、今現在レイアが使っている部屋の隣室をフォウへ貸し出して住まわせることにし、とりあえず今は依頼の話をするべく青年を部屋に呼んでいた。


「ピックアップされてるこの人達を重点的に見ればいいんだね?」


 エリオットが渡した比較的動きやすいレザーアーマーを着ているフォウが持つ紙に書かれているのは、レイアの部下の一人でありクラッサとも面識があった大尉に、クラッサと同室で城に住み込んでいた給仕のメイド。

 そして王妃とその侍女に、一番目の王子とその従者。

 これらが、フィクサー側に情報を流している可能性のある人物と、ビフレストと繋がっていそうな人物だ。

 エリオットとフォウが紙を見ながら話しているところを、レイアは少し離れた位置で立って見ている。


「あぁ。お前一人で接触は難しいだろうから、お前も俺の護衛って名目にしてある。俺の傍に就きながら見て回ってくれればいい」

「分かったよ」


 ひとまず説明が終わったところで、レイアが何かを気にするようにそわそわと周囲を見渡してから言った。


「王子、そろそろお時間かと」

「あーはいはい」


 レイアが事を急かすので、事情を知らないフォウが不思議そうに首を捻って彼女を見る。


「これから何かがあるの?」

「リアファルが来るんだ」

「……えーと、婚約者さん?」

「そ」


 エリオットとしては凄く会いたくないが、来てしまっているからには会わないといけなかった。

 多分彼女も自分とは会いたくないだろう、とあの時のドン引きっぷりを思い出して苦笑する。

 エリオットの護衛ということで慣れない長剣を腰から提げているフォウは、椅子を立ったのはいいがその長剣の柄をテーブルにぶつけて四苦八苦しながらも喋った。


「っ、じゃあ、俺はあっちの部屋で待機でいいんだよね」


 去ろうとするフォウに、エリオットは問いかける。


「何だ、見ないのか?」

「えっ」

「状況が状況で、どの場に護衛を連れても文句言われないからな。だから別に居てもいいぞ」

「何かよく分からないけど、居て欲しいなら居て欲しいって言おうよ」


 立ったまま呆れ顔で見る四つ目の青年に、軽くイラッとして王子はそれを顔に出した。

 その能力を見込んで仕事を依頼したものの、感情が見える彼を身近に置くのはやはりストレスが溜まるもの。

 フォウが一箇所に住めない理由はそこにある。

 エリオットの反応に、フォウもとても不機嫌そうになって荒く椅子を引き、また腰掛ける。

 そこへ、


「王子は単にダーナの姫と二人きりになるのが嫌なだけなんです、気にしなくていいですよフォウさん」

「あー、やっぱりそうなの」

「お前達……」


 エリオットの考えていることをお見通しているレイアがフォウにさらりと説明し、納得がいったように頷く青年。

 レイアの格好は今日も赤い軽鎧。

 深緋のマントを靡かせて彼女はスタスタと部屋のドアへ歩いて行き、最後にくるりと体をエリオットのほうへ向き直して念押した。


「これから呼んで参りますので、ちゃんと待っていてくださいね」


 そして出て行く。

 彼女が出て行ったのを確認してからフォウは、


「椅子、空けといたほうがいいよね」


 と言って、結局椅子から立ち、エリオットの傍に待機した。


「ベッドで座っててもいいんだぞ?」

「いやいやお姫様来るのにそんな態度で迎えられないよね!?」


 鎧を着たところで筋肉が無いのがバレバレだったりするフォウは、しゃんと背筋を伸ばして待つ。

 エリオットはというと、欠伸をしつつだらだら。

 しばらく特に会話もせずに待っていると、ノックの後にドアが開き、レイアが促した腕とのその隙間からそっと入ってくる妖精のような少女。

 エリオットは特に出迎えるわけでもなくそのままの体制でリアファルを見ていたが、その横のレイアと目が合ったかと思うと彼女が鬼のように目尻をつり上がらせてくるので、慌てて起立した。

 今更過ぎるがリアファルの方へ歩いて行き、彼女の手を取ってご挨拶。


「お久しぶりです。無意味過ぎる見舞いに来させて申し訳ない。この通りピンピンしてますよ」


 焦るがあまりに色々と言葉の選び方を間違えた彼に、更にレイアから鋭い視線が飛んでくる。

 しかしリアファルは言葉の内容よりも彼の容態を見てビックリしたらしい。


「……本当にお元気そうですね」


 ぽかんと口を開けてエリオットを見上げる彼女は、今日は以前よりも華やかな青藤色のドレスに白群のストールを肩に掛けていた。

 とにかくまずは彼女を椅子に座らせて、エリオットも向かいに座る。

 そこへ後から着いて来ていたメイドが茶と菓子をテーブルに置き、レイアと共に退散していった。

 多分レイアはドアの外で見張りをするのだろう。


 さて、相変わらずこの少女とエリオットの会話は弾まない。

 クリスのような例はさておいて、この王子は元々未熟な娘に興味も無ければ接する気も無かった為、扱いに慣れていないと思われる。

 紅茶に少し口をつけながら、でも放っておくとまた泣かれるのでは、と心配し始めたところで彼女の視線が自分の後ろにあることにエリオットは気がついた。

 振り返ってみると彼女の視線によって完全に固まっているフォウと、それにも関わらず見つめ続けるリアファル。

 助け舟を出すわけではないが話題になりそうだったので、エリオットはリアファルに声を掛けてみる。


「三つ目が気になるのか?」


 レイアが居ないこともあり、くだけた言葉遣いに切り替えた。

 リアファルはコクコクと頷いて、それでもやはりエリオットを見ずにフォウを見ている。


「初めて拝見しました……ルドラの民の方々とは昔は交流があったそうなのですが、私の頃にはもう無くなっておりましたので」

「姿形は違えど、特殊、と言う意味では近い種族だしな」

「はい……」


 そこで彼女は、一旦その話を置くように表情を真面目なものに変えて問う。


「エリオット様……こちらの方は信頼に置ける方でしょうか?」


 彼女の纏う空気が瞬時にピリッとして、エリオットはそれに驚きつつも黙って首を縦に振った。


「二日前のことですが……モルガナにあった竜を飼育しているはずの施設の一つが消滅しました」

「!!」


 エリオットとフォウはその言葉に息を飲む。


「現状から若干の焦げた後と一本の大きな亀裂だけは確認出来ましたが、普通に燃やしたりしたようには見えない有様でした。竜はおろか、本当に建物が存在していたかどうかも疑問を持つほど、何も無いのです」

「どういうことだ……」

「書類にまとめようかとも思いましたが、その必要も無いほど何も無かったので口頭で伝えさせて頂きました。まずエリオット様にお伝えした方が良いかと思い、この城内ではまだ他の誰にも伝えておりません」


 仕事、というか自分の役職に関わる内容となると饒舌になるリアファル。

 恋愛や異性との接し方は習わずとも、こういったことに関しては小さい頃から叩き込まれているのかも知れない。

 彼女は少しだけ汗ばんだ額に手を当てて言葉を続けた。


「周囲の民から一瞬そのあたりの空が光った、という情報もありましたが、モルガナでも外れに位置する場所に建物があった為、直接的な目撃者は見つけられませんでした」

「光った……か」


 魔法か魔術か、でなければビフレストの力の光か。

 いや、焼き焦げた後があるというならばビフレストの力では無いだろうと、エリオットは推測する。


「おいフォウ、何かがあった現場で見えたりするものはあるのか?」

「無いことも無いよ。早めに見ないと薄れちゃうけど、魔術の痕跡だとか誰かの強い感情だとかはその場に残ったりすることもある」

「二日前、今から急いで行っても消滅から三日経った後になる。それだとどうだ?」

「濃いものならば三日くらい残ることもあるだろうね」

「分かった」


 聞きたい答えを聞けたエリオットはすぐに立ち、愛用の銃とホルダーを棚から取り出す。

 フォウは彼が何をやりたいのか分かったようで、何も言わずにその様子を見ていた。

 ただリアファルだけが突然動き出す王子に戸惑っている。


「え、エリオット様?」


 彼女の相手をせずに着々と荷を整えている王子の代わりにフォウが言った。


「多分今からその無くなった施設を見に行くんだと思うよ。俺が見ればお姫様達が得た情報以上のことが得られるかも知れないからね」

「い、今からですか!?」

「驚くだろうけど、そういう人なんだ」


 フォウは呆れ顔でそう締め括る。

 婚約相手そっちのけで気になることを優先する王子に、呆れない人間のほうが少数派だろう。


「フォウ、レイアに伝えてくれ。出かける手筈を整えろ、と」

「……いいけど、正面から出られるの? 一応大怪我してたんだし、王様に怒られたりしない?」

「勘違いするなよ、この国は決して味方じゃない。言うことなんていちいち聞いてられるか」


 エリオットがそこまで言ってから振り返るとフォウは丁度部屋を出るところで、心配そうに見つめるリアファルだけがそこに居た。


「国が味方では、無い……ですか?」


 事情を知らない彼女からしてみれば、嫁ぎ相手の王子が自分の国をそのように言うだなんて不安でしか無いのだろう。

 震える声で問いかけてくる妖精の君に、無理やり笑顔を繕ってエリオットは言う。


「俺個人の敵が多いだけだから気にしないでいい。一般人にとっては善でも悪でも無いさ」


 と、そこまで言ってエリオットは気付いた。

 夫になる男に敵が多いというのもどうなんだ、と。

 ぽりぽりと後ろ頭を掻いて視線を泳がせつつ、もう一つだけフォローがわりに付け加えておく。


「大丈夫、心配しなくとも君が俺と結婚する頃には多分全て終わってる」


 そう、結果がどちらに転んだとしても……

 自分で言っていて胸の奥が苦しくなってくるのが分かるエリオット。

 自分が負けたらそれはそれ、全てを勝ち取ったとしてもこの少女を人生の伴侶として迎えるのだ。

 泣きそうな顔をしてしまいそうなので、背の低いリアファルには見えないくらい上を向いてエリオットは誤魔化す。

 目を閉じて瞼の裏に映ったのは、もうローズではなくクリスだけだった。


 いつから自分は心変わりしていたのだろうか。

 これはもう、クリスにローズを重ねているのでは無い。

 クリスがいいのだ。

 見た目がどんなものでも、あの中身が好きなのだ。

 そして、婚約者を目の前にしてこんなことを考えるだなんて、自分は何て酷い男なのだろう、とも思っていた。


「はは……」


 またしても急に笑い出すエリオットに、以前同様リアファルが引いていたのは言うまでも無かった。


【第三部第三章 負の連鎖 ~打ち砕くもの~ 完】


章末 オマケ四コマ↓

挿絵(By みてみん)

上画像をクリックしてみてみんに移動し、

そちらでもう1度画像をクリックすると原寸まで見やすく拡大されます。


このページ普段より短いのでここぞと言わんばかりに四コマ転載。

挿絵(By みてみん)

これも上画像をクリックしてみてみんに移動し、

そちらでもう1度画像をクリックすると原寸まで見やすく拡大されます。

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