炎の剣 ~害為す魔の枝~ Ⅰ
リャーマでの滞在はエリオットの言った通り短かった。
そこまで大きくない街の割には遺物が結構残っていたらしく、彼は嬉しそうな顔でそれらを見ながら帰路に着く。
また、先日の夜に宣言していた通り、エリオットはリズにあれ以上何もせずにいた。
けれど、クリスの心には疑問が残ったまま。
彼女の記憶が必要無い、と言うことはあの別のビフレストが多分エリオットの、リズへの用を済ませたのだとクリスは察したが、凄く知りたいそこの内容をだんまりキメ込まれていてはかなりもどかしいのである。
そして、王都へ戻って再度確認したところ、フォウはやはりあれ以来姿を見せていないようで、ここでクリスは彼の件をエリオットに話すことにする。
自室で報告書類をまとめているエリオットのところへ行き、思いっきり職務の邪魔だとは思いつつも切り出した。
「フォウさんが忽然と姿を消しちゃったんです」
「……ほー、いつからだ?」
話半分な感じではあるが、一応会話をするエリオット。
ただしその視線の先は机の上の文字だらけの書類。
「私が声が出なくなった日の、次の日の朝にはもう居ませんでした」
「……リャーマ行きが決まった日の次の日……二週間前の土曜か」
「そうですね、月曜に出発しましたから多分」
もう二週間も彼の姿が見えない。
そう考えるとやはり何かがあったのでは、とクリスは怖くなってくる。
「土曜……」
書類に目を向けたまま、顎に手をあてて何かを思い出そうと細まる翡翠の瞳。
「何か報告があった気がするな」
「え!?」
「誰かが俺の名前を使って城に用を足しに来ていた気がする。適当に判押しちまったから覚えてねーけど……後で調べておいてやるよ」
些細ではあるがフォウの手がかりが見つかったので、少しほっとする。
これ以上は彼の職務の邪魔をしてはいけない、とクリスは軽く挨拶だけして城を後にした。
その後、ライトの家に戻っていつも通りゲームに負け、明日の洗濯物も自分かと落ち込んでいるクリスのところに、もはや院内を自由に動き回っている白いねずみのニールが寄ってきて人型に変化をする。
「その剣は?」
リャーマ行きの際にクリスの手に戻ってきた赤い剣。
元武器の精霊である彼にとってはやはり気になるのだろう。
クリスは腰に携えていたその剣を、仮の鞘から抜いて彼に見せてやる。
「この剣が突然現れて、竜を倒してくれたんですよ」
「これに私達精霊が宿る為の紋様は無いが、よく似た形状の武器を私は知っている」
捻れたグリップが特徴的な、赤い両刃の長剣。
「ってことは、精霊武器に似ているってことですか?」
「そうだ……突然、と言うがどうやって現れたのだろうか?」
「今まで使っていた剣が竜の口の中で折れたんですよ。その時にパーッと光って、その剣の代わりにこれが現れましたね」
「……竜の血肉とその場にあった剣で擬似的に己の体を創り出した、か?」
難しそうな顔をして、小難しいことを言うニール。
だがその容姿は可愛いねずみの獣人の少年なので、そんな顔をしていてもやはり可愛い。
「よくやるものだ……」
そう言って彼は感嘆の溜め息を吐く。
つまりこの剣は精霊武器に似せて創られた物なのだろうか。
誰がどうやってあの場で、と考えてクリスはハッとし、自分の体を見下ろした。
「まさか、私の中にいると言う精霊の仕業です、か?」
その予想に、ニールが頷く。
「ダインとは違う意味で特別な精霊武器だ。あいつがもしダインのような性格ならば、きっと私達は勝利している」
何に勝利しているんだろう、とよく理解出来ず首を傾げるクリス。
しかしそこでその話は終わってしまう。
精霊は宿っていないが精霊武器に近い剣。
これならばセオリーに対抗出来るだろうか。
クリスは赤い剣を窓の外から差し込む光にかざしてその刃を見つめた。
血のように赤く鈍く、炎のように紅く輝く、太陽の光に照らされたその剣はただ静かにその存在を主張している。
「精霊、か……」
クリスが女神の末裔であるように、同じように女神に創られた……この世界の異質なるもの。
エリオットみたいにそんなもの信じない、と一言で片付けられたらどんなにクリスの気は休まることか。
しかしこの精霊達の存在がそれらを打ち消してくれなどしない。
考えるのをやめて、クリスは剣を鞘に収めた。
数日後、クリスの元に城から使者が来た。
エリオットに呼び出されたのだが、使者を使っての呼び出しなので、一応今の正装である黒い法衣を着て、剣を携え向かう。
通されたのはいつもの客間でもなければエリオットの部屋でも無い、クリスの知らない部屋。
入ると四人の魔法使いか魔術士のような者達と先日のレイアの部下の女性が立っており、そしてエリオットが部屋の隅の椅子に座ってふんぞり返っていた。
部屋の床には何やら大きな円形の陣が描かれていて、いくつもの変な塊が陣の各所に置かれている。
……まるで、何かの儀式をするみたいに。
「えー、お邪魔しました」
クリスは思わずUターンして、その部屋を出ようとした。
「どこへ行く!?」
エリオットがツッコミを入れて、入り口傍の術士が彼の代わりにクリスを引き止める。
「だって! めちゃくちゃ怖いんですものこの部屋! 何なんですかコレッ!!」
明かりは蝋燭使ってるし、部屋のカーテンは閉め切ってるし、薄暗いし、とにかく怪しい。
「混ぜたものを分ける、と言うのは容易なことでは無いのですよ」
そう言ったのはショートカットで黒髪の、先日クラッサと呼ばれていた女性。
あまり良い印象を抱いていない相手に対して、クリスは思わず彼女を睨んでしまうが、彼女はその視線を気にすることも無く続きを話す。
「王子の命令により、私達五人はこれから貴方に掛かっているチェンジリングを解く作業に入らせて頂きます」
「っ必要な物が揃ったんですか!?」
隅っこで傍観に徹していたエリオットに視線を送ると、彼が説明した。
「正確に言うと、既に揃っていた、だな。必要な物がどれなのか書かれている書物が手に入ったおかげで、ようやく実行に移せるんだ」
と、エリオットが何か古びた本を手に、じーっとページを見ている。
「と言っても実は一つ足りない物があるんだが、それは無くても大丈夫だってクラッサが言うんでな」
「ははぁ」
本当に大丈夫なのだろうか、と若干不安が残る流れではあるが、とにかく精霊をクリスの体から取り除く術を始めるらしい。
「えぇ、大丈夫ですとも……」
そう返事をしたのはクラッサ。
大丈夫、と言うその顔には何故か妖しい笑みが浮かんでいて、それが更にクリスの不安を掻き立てる。
少女はやはり怖くなって、ついついドアノブに手を掛けながら泣き言を零した。
「や、やめません?」
「やめてどうするんだよ! 既に力の制御も出来なくなってるくせに、これ以上変になってもいいのか!?」
「だ、だって足りない物があるんでしょう!? 何が足りないんですか!!」
クリスは自分の身のことなのだからそこは慎重に行きたいのだろう。
その叫びにエリオットがグッと文句を飲み込み、クラッサに問いかける。
「……えっと、何が足りないんだっけ?」
「ちょっと! エリオットさんは把握してないんですか!?」
「ブリーシンガの首飾りです。無くても大丈夫ですのでご安心ください」
首飾り。
クラッサの説明に、クリスはふっとあの品を思い出す。
そういえばローズが集めていたのはクリスのチェンジリングを解く為に必要なもので、ライトから渡された綺麗なネックレスはローズがどこからか盗んできた物で、それをクリスがルフィーナに渡して……
「あ……」
足りないのは、自分のせいではないか。
エリオットはそれを覚えていないようだ。
彼の記憶に残るほど、ネックレスを見せてもいないから当然なのだが。
気付かれる前にこれ以上突っ込むのはやめた方がいいかも知れない。
お前のせいだ、と怒鳴られそうだとクリスは判断した。
「す、すいません。無くても大丈夫なんですよね。分かりました……」
反論出来なくなったクリスは、肩を落としてこれから行うことを承諾した。
素直になったクリスに、エリオットは機嫌を直して手で彼らに指示をする。
その手の動きによる催促を受けて、陣の各所に五人が立った。
「では、クリス様はこの中央へ立って頂けますか」
乞われるまま、おそるおそると円陣の中央へ歩いていき、そこに立ち尽くす少女。
それを確認すると術士達は足元にあった何かよく分からない塊をそれぞれ拾って、小さな羊皮紙を見ながらぶつぶつ呟き始める。
これからどういう風に体から精霊が取り出されると言うのか。
痛くないのか、具合が悪くなったりしないのか。
不安に押し潰されそうな気持ちをクリスは必死に自分で宥める。
椅子に座ったまま何もしていないエリオットをクリスがちらりと見ると、彼も流石に真剣な表情でその光景を見ていて、二人の目と目が合う。
そして彼は声を出さずに口だけを動かしてクリスに何かを伝えようとした。
クリスは唇が読めないので彼の言いたいことはよく分からなかったが、安心させようとしているか励まそうとしているか、そのような雰囲気だけは伝わってくる。
しばらく術士が詠唱を続けていると、今度は彼らの手の中にある塊が、右回りに順々と音を立てて小さく破裂するように壊れていく。
しかし彼らは取り乱す様子も無く、手の中の物が壊れた者から順に詠唱を終えていた。
最後は、一人だけ羊皮紙を持たずに詠唱をしていたクラッサの手の中の塊が砕け、彼女の胸元が薄らと光る。
「従いなさい。そこはお前の居場所では無い」
クラッサの、何かに命令するような最後の言葉。
それを皆が耳にした瞬間だった。
「う、っく……」
クリスの胸が焼けるように熱くなる。
術の対象である少女は、息も出来ないほどの焼けるような感覚にもがき始めた。
「あああああああああ!!!!」
先日軽く受けた竜の火炎の息よりもずっと熱い感覚が、少女の内側で轟いてくる。
立っていることも堪らず、叫びながらクリスはその場にへたり込む。
周囲の者達がどよめくが、そちらに視線を移す余裕などクリスには無かった。
「ちょっ!?」
エリオットの焦るような声が響いた。
クリスの体は赤く輝いて、周囲の物を燃やし始めている。
陣の描いてあった床は焦げ、近くの蝋燭は溶け、クリスの着ていた法衣も灰と化していく。
「……なるほど」
その騒ぎの中で、クラッサの声だけが冷静に紡がれる。
何がなるほどなのか。
クリスはやがて、熱さで頭がぼぅっとしてきたところで体全体にぬるりとした違和感が起こるのを感じた。
それと同時に体の熱さがいきなり消える。
「はぁっ……」
もう熱くない。
やっと落ち着いて息が吸えるようになったクリスが顔を上げると、クリスとクラッサとの間にゆらゆらと人影が浮かんでいた。
腰まで届く真紅の長い髪を背に揺蕩わせ、黒い翼に二つの角、尻尾。
その姿はお伽話に出てくる悪魔そのもの。
あぁきっとこれが自分の中に居た精霊なのだ、と霞む意識の中でクリスは思う。
「……彼女は、私との約束を果たしてくれたのですね」
けれど精霊から発せられたのは、悪魔のようなその姿からは想像もつかない優しい女性のような声。
精霊はその後、クリスに振り返った。
真っ赤な髪に相反して、瞳は氷のような薄い青。
黒く短い、胸元と肩から腕にかけてだけ隠れるシャツと、腰からはスカートに近い黒い布で下半身を巻いている。
一見すると女性に見えなくもないのだがよく見ると胸は一切膨らんでおらず、クリスと同じように中性的な少年に見える姿で背丈も同じくらいだった。
「剣を」
クリスを見ながら催促をする精霊。
その姿に気を奪われていたが我に返り、クリスはベルトや鞘が燃えたせいで床に落ちていた剣を取って精霊に向けた。
精霊が指でその剣の刃をなぞっていくと、そのなぞった部分に魔術紋様のようなものが溶けるように彫られていく。
全部彫り終えたのだろう、精霊が手を止めて今度はその刃にずぶずぶと体を沈ませていった。
精霊の姿が全て刃の中に収まり切った途端、そこからまた溢れ出るのは……炎。
「わっ!?」
思わずクリスが剣から手を離すとすぐに炎は消え、床には剣だけが残って終わった。
びくびくしながらも剣をつついてみるが、もう触れても炎は出てこない。
クリスはそっとその剣を再度持ち掴んだ。
これは、確かに精霊武器だった。
クリスの手に、剣が帯びている力の感覚が伝わってくる。
つまり、クリスの中からこの剣に精霊を移すのが成功した、と言うことになる。
「……終わった、っぽいですね」
へたり込んだまま、肩の力を抜いて呟く。
「みたい、だな……」
エリオットも呆然とした表情で、ぼそりとそれに返事をした。
クリスは彼に笑顔を向けて、
「ありがとうございます」
と改めて礼を言ったのだが、エリオットはじっとクリスを見るばかりでそこから何も喋ろうとしない。
その視線は、クリスの目を見ているようで見ていない。
どちらかと言えばクリスの体を上から下へ何度も行き来するような目の動き。
何だろう、と思ってクリスが自分の体を見ると、
「あ」
その体は、一糸纏わぬ全裸となっていた。
「キャーともギャーとも言わんお前が清々しいわ」
エリオットのマントを借りて一応すぐに裸体を隠したクリスは、今は服が用意されるのを先程の隣の部屋で待っているところである。
「隠すほどのものがありませんので」
あえて言うならば、無さ過ぎて少し恥ずかしいくらいだろう。
だが別にそれもそこまでこの少女は気にしていない。
不必要なものが無いだけなのだから気にしたら負けなのだ。
「そうだけど……下は無いからこそ隠すと思うんだが……」
ぶつぶつと小さく呟くエリオットをスルーして、クリスは手の中の剣を見る。
この剣が精霊武器なのならば、声を掛ければあの精霊は出て来るだろうか。
「出て来られますかー?」
声を掛けてみるが返事も無ければ姿も出てこない。
ニールのように剣越しに喋ることや出ることが出来ないのだろうか。
いや、単に出たくないから出て来ないだけなのかも知れない。
「出て来ないな」
「ですねぇ……」
クリスは何故精霊が自分の体の中に居たのか聞きたくて仕方ないと言うのに。
ローズが居ない今、この精霊しかそれを知っている者は居ない。
それに精霊が言っていたあの言葉。
「約束……」
「約束を果たしてくれたってのはきっとローズのことだろうな」
エリオットがクリスの意図することを先に言った。
「きっとローズは精霊と、チェンジリングを解除する約束をしたんだろう。となると、お前の中に入る前の精霊とローズは会話をしていたことになる。つまり……お前に掛かっていたチェンジリングはローズがやったか、少なくともローズの目の前で行われた可能性が高い」
何故そんなことを、と問いかける先であるはずの精霊は出て来ない。
ぶんぶん、と剣を振ってみるが反応無し。
エリオットもその様を見ていたが、諦めたように首を横に振ってクリスから視線を外した。
そこへ部屋にノックの音。
メイドが新しい黒の法衣と下着を持ってきたのでクリスは早速着替え始める。
衝立も一切無い部屋であるため、エリオットの目の前でだ。
それを呆れたような顔で見ているエリオット。
「どうしました?」
「何でもねぇよ……」
クリスとしてはどうせ、「胸が無いな」などと馬鹿にされるかと思っていたが、特に喧嘩を売ってくるようなことも言われずその会話は一旦そこで終わる。
着替えを終えるとクリスは再度剣を手にして思ったことを言った。
「また、鞘が欲しいですね」
燃えてしまったので、さり気なくエリオットに催促する。
彼はどっと疲れたような表情をしていたが、それをいつものうざったるい顔に戻して口を開いた。
「分かった。前のでいいなら準備させておこう」
クリスが何となく両手で剣を持ち、試しにしっかりと振るっていると、今度はエリオットが別の話題で話しかけた。
「力の制御とか、そういうのはもう大丈夫か?」
「あー、そうですね」
クリスは試しに自分の服を掴んで、破けない程度で引っ張ってみる。
「大丈夫そうです」
「そりゃ良かった」
軽く言っている割には、本当に嬉しそうな顔をして言うエリオット。
その表情を見た途端に何故か顔が熱くなるのを感じたクリスは、何も言えずに彼を見たまま固まってしまう。
目の前の少女がそんな状態になっていることも気付かずに、エリオットは背伸びをしてまた嬉しそうに話し出した。
「あー! これでやることやり終えたなー!! やっと肩の荷が下りたぜ」
ローズの目的を果たした彼は、実に満足げな表情に顔を綻ばせる。
しかしクリスにはそこで、とある一つの疑問が浮かんできた。
「あ、あの……」
「どうした?」
「もう女神の遺産の収集は終わり、でしょうか?」
恐る恐る尋ねるクリスにエリオットは屈託の無い笑顔で言い放つ。
「当たり前だろ! お前の為でなけりゃ誰が好き好んであんな面倒なことするか!」
彼は自分の言っている言葉の意味に気付いていないようだった。
流石のクリスもここまで言われると恥ずかしくなって、更に顔が熱くなってくる。
だが、問題はそこでは無い。
「じゃあ私……これからどうすればいいんです?」
女神の遺産の収集が無くなるならば、軍人でも何でも無いクリスが彼の公務訪問先に着いていく意味も自動的に無くなる。
少女の問いに王子は、はたと動きが固まった。
「どうって……普通に生活すりゃ……」
困った顔をしながらそこまで言って、彼は首を横に振る。
「いや、一応俺の公務の護衛は続けて貰いたい。モルガナであんなことがあったばかりだしな」
「そうですか」
遺物収集が無くなっても、新たな問題が彼には浮上しているのだ。
クリスはモルガナで命を奪った男のことを思い出していた。
東の連中のやり方が良いとは思えないが、東の民に不満が出てしまう統治であるのは事実。
手元の精霊武器……赤い剣をじっと見て、深い溜め息を吐く。
こんな弱い意志で軍に入ることを視野に入れていた自分に、クリスは呆れてしまう。
あの時は襲われた側だったから考える間も無く躊躇わなかったが、国を護るという理由でその国の民である者達を殺せるだろうか。
「嫌か?」
クリスの溜め息の理由を勘違いしたのだろう。
エリオットが様子を伺いながら尋ねてくる。
「いいえ、喜んで」
エリオットを再度視界に入れたことでクリスの悩みは一気に吹っ飛んだ。
国でも城でも何でも無い、自分のために尽力してくれた人を護る為に動けばいいだけの話。
剣を振るう理由はすぐ目の前にあったのだ。
ふっと微笑んで彼の頼みを快諾する。
「ただ、東の民が反乱しないように……彼らの想いをきちんと汲んで統治しなくてはいけませんね」
「一応公務はそれが目的なんだけどなぁ。今更、と断られちゃ俺にもどうしようも無いぜ?」
「それでも、ですよ。とりあえず高飛車な態度で臨むのはやめてください」
「分かったよ、っと」
クリスの忠告に軽く投げやりな態度で答えたエリオットの目は、声色とは裏腹に鋭く細められていた。