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この箱庭よりも大切な人に  作者: 蒼山
第一部 第十三章
31/138

リチェルカーレ ~只今逃走中~ Ⅰ

※ここからは、移転元の挿絵が比較的マトモな物もあるため

 たまに使い回して貼り付ける予定です。

 隅っこにタイムスタンプが付いている挿絵は全て使い回しになります。

 (4コマの場合は、縦長ではなく正方形の形状の物が使い回しです)

 一年以上前の古い絵ですが、ご了承くださいませ。


挿絵(By みてみん)

 数人の兵士達がクリス達の居る室内に、ぞろぞろと入ってくる。

 やや軽装ではあるがそれぞれきちんと鎧や兜を見に着けて戦闘準備は万端な彼ら。

 その後に、一人の女がピリッとした雰囲気とそれに見合う毅然とした態度で部屋に立ち入った。


 女は腰より少し上くらいの長さの茶髪で、後ろ髪はそのまま下ろしているが、両サイドの髪は後頭部で括って垂らしている。

 いわゆるハーフポニーテールで、その両サイドには黒い名残羽。

 綺麗な白いレースのリボンで髪を飾り、着ている鎧は胸当てと左側の肩当てだけ。

 そこからベルトで繋がれているなめした革の簡易な防具が膝丈スカートの上で頼りなくも彼女を守っていた。

 お嬢様がショートドレスの上に鎧を可愛く着こなしたらこんな感じになるであろう。

 しかし、


「ッブチ殺すぞこの糞王子が!!」


 彼女は両腕を胸の前で組みながら、その清楚な見た目を一瞬で壊す暴言を吐いた。

 元々はきっと高く可愛らしい声を最大限に低く轟かせてドスをきかせており、それがまた上手く出来ていて物凄く怖い。

 口を塞がれたままエリオットをちらりと見ると、その表情はとにかく恐れ戦いている。


「小隊長、我々の目的は王子を連れ戻すだけか……とっ!?」


 彼女に異論を唱えた兵士の一人が、思いっきり腹を殴られた。

 最後まで言わせて貰えずに殴られた。


「え~、糞王子様、大人しく来て頂けないと手が滑ってこのレイピアで心臓を刺してしまうかも知れませ~ん。ご同行お願い出来ますか~?」


 腰に装着されていた小剣をすらりと抜いて、琥珀の瞳が鋭くエリオットを睨む。

 口元は笑っているが声色はドスをきかせたまま、その綺麗な顔からは想像もつかない迫力でクリス達を脅してきた。


「……クリス、今すぐ変化しろ」


 ぼそりとそう言って、クリスの口から手を離すエリオット。

 その要求はつまり、


「私、寝巻きのままなんですけど……」


 とはいえ状況が状況なので、仕方なく変化を始める。

 黒い角や尻尾がメキメキと伸び生えてくる光景と室内に巻き起こる風圧に、兵士達が一歩後じさって様子を伺っていた。

 一人、それに怯むこと無く立つのは小隊長と呼ばれた鳥人の女だけ。


「大人しくしていれば糞王子に人質にされていた子供、で済んだものを……」

「ニール!!」


 無意識に出たクリスの呼び声に反応して、壁に立てかけられていた槍がふわりと浮き上がり、主の手元へ飛んで来る。

 クリスは自身が出す風圧で飛びそうになるほど捲れている寝巻きを気にすること無く、槍を構えてその切っ先を小隊長へと向けた。

 それを見て小隊長の鳥人が、短く舌打ちをしつつ言う。


「楯突くなら、王子を連れ去る悪魔として指名手配になるがいいのか?」

「どうぞお好きなように」


 ベッドの上のローブを手に取ると、即座にエリオットを抱きかかえて背後へ飛ぶ。

 その先は、窓。


「追えッ!!」


 女の手が指示し、兵士達を窓際へ向かわせるが、一歩遅い。

 クリス達は彼らの手の届かない位置まで飛んでいる。

 窓の外は、店の立ち並ぶ人通りの多い道。

 クリスとエリオットが作る影に気付いた下の人々が、空を飛ぶクリス達を見上げてざわついた。


「どこに行きましょう?」


 追えない位置まで飛んだことに安心したクリスが、肩に担いでいるエリオットに尋ねる。

 そこへ飛んできた怒声。


「逃がすか!!」


 窓際であたふたしている兵士を踏み台にして、鳥人の女性が大ジャンプしてくる。

 人間に進化した鳥人は、もう鳥のように飛ぶ翼は無いが、その身軽さだけは侮れないことをクリスはすっかり忘れていた。

 

「わあああっ!?」


 彼女はクリスの腰に飛びついて、しっかり掴んだまま離れない。

 と言うか、飛んでいる最中にしがみ付く人数が増えたら、流石のクリスも重量オーバー。

 クリスの肩の上でエリオットが絶叫。


「しっ、死ぬううううううう!!」


 二人分の重さプラス飛びつかれてバランスを崩したクリスは、うまく飛べずに真っ逆さまに落ちていった。


「くううぅっ……ッ」


 地上に着く寸でのところで、うまく羽ばたいて落下の衝撃を和らげる。

 ドスン、と軽く尻餅をつくだけで済んだが、周囲は人だかり。

 肩にはエリオット、腰には鳥人の女性。

 四方八方塞がっている。

 すると小隊長の女性が即座にクリスから飛び退いて、小剣を向けて啖呵を切った。


「王子を離せ、人攫いの悪魔めが!!」


 構図的に、もはや言い訳のしようが無い。

 その瞬間、クリスは周囲が完全に認めるお尋ね者にされてしまったのだ。

 ヤケクソでクリスも彼女の演技に乗る。


「ハハハハー、言われて離す馬鹿がおるかー」

「く、クリス!?」


 肩の上でエリオットが驚いた声を出しているが、別に考えなくこんなことをしているわけではない。

 彼女の演技に乗らずに二人でそれを否定すれば、エリオットは公衆の面前で『家出をしている事実』を晒すハメになってしまう。

 それは、レイアを筆頭に、エリオットを大切に思ってくれている臣下の皆さんに対して申し訳無さ過ぎる。

 だったら攫われた方がまだマシというもの。

 どちらにしても失態には違いないが、王子に抜け出された間抜けな警備、よりはいいとクリスは思う。

 クリスの演技に一瞬彼女が驚いて隙を見せたので、そこを突いて再度高く飛んだ。

 今度は着いてこられないくらい高く。


「甘いぞー、私を捕まえたければ今度は飛行竜でも持ってくるんだなー、ハーハハハー」

「おのれ……っ!!」


 鳥人の小隊長は憎憎しげに宙を見上げる。

 それを尻目にクリスはとにかく距離を伸ばそうと、方角も分からないままひたすら飛んだ。


挿絵(By みてみん)





 リャーマの街が見えなくなるくらい先に飛んでから、クリス達は何も無い平原の木陰で休むことにする。

 変化を解き、翼のせいで破けた寝巻きをエリオットにうまく縛って着せ直して貰って、その上からレクチェの買ってくれたフードを被る。

 エリオットは元々普段着を着たままだったので、その上から同じようにフードを被った。

 彼が貴重品を持ったままだったのは不幸中の幸いだったと言っていいだろう。


「見つかるの、早かったですね……」


 リャーマに着いたのはつい昨晩の話である。


「いつから尋ね人にされてたのか分からないしな、リャーマに着くまでの間に情報提供されてて、その情報からリャーマに行くだろうと予測されてたのかも知れん」

「なるほど……」


 クリスはエリオットと違い、宿に荷物をほぼ置きっぱなしにして来てしまったが、兵に取り上げられていなければきっとルフィーナ達が回収しておいてくれるだろう、とそこは僅かな希望に賭ける。

 と言うか、ここからどう彼女達と合流すればいいのかも分からないし、もしかしたら彼女達が捕まっている可能性も有り得なくは無い。

 部屋を別々に取っていたのが唯一の救いであり、それで何とか誤魔化せていたらいいのだが……

 クリスの浮かない表情に、エリオットがポンと肩を叩いて慰める。


「ルフィーナ達なら何とかやれるさ。年の功ってか、肩書きだけならアクアよりは上だしな」

「アクア?」

「あー……さっきの怖いお嬢ちゃん」


 思い出すだけで身震いしてしまう二人。

 可憐な外見なのに、中身はヤクザみたいな女性だった。

 間違いなく城に従事する人間なのだろうに、エリオットをあわよくば殺してしまえみたいなノリ。


「あの女性に、何かしたんですか?」


 怨恨の線を疑うクリス。


「直接何かしてるワケじゃないんだけどな……昔から目の敵にされてる」


 最近ではなく、昔から、と。

 昔は良い王子様だったはずなのに目の敵にされるだなんて、クリスには理由が思いつかない。

 首を傾げる子供の鼻先に、青年はずいっと指をさす。


「お前と同じだよ、シスコンなんだあの子」

「わっ、私はシスターコンプレックスではありませんよ!?」

「そうかぁ? 姉さんにつく虫は退治しないとって思ってんだろ?」


 からかうように笑いながら言う。

 それは間違い無いけれど、そのゴミ虫をこうやって助けたのは他でも無い自分だと言うのに酷い言い草だ、とクリスは不貞腐れた。


「もう……ってことは、レイアさんの妹さんですか?」

「そそ。似てなくは無いだろ」


 琥珀の髪や目の色、そして鳥人、シスコン。

 これだけの情報が並べばクリスにだって分かる。

 しかしいくらなんでも一国の王子相手に、国軍の人間があんな暴言吐いてしまえるのだから凄い。

 周囲に聞かれていたら大事だとは思うが、彼女もそれを分かっているのだろう。

 部下の前では気にしていなかったようだが、民衆の前で全くそんな暴言を吐いていなかったのだから、なかなか腹黒い。

 見た目は似ていても、誠実なレイアとは全く違う。


「大方今回はレイアを困らせてる俺にブチ切れてきたんだろうよ。いやー、女って怖いねー!」


 べちんべちんとクリスの背中を叩いて大笑い。

 そのおかげでクリスは完全にお尋ね者だということを忘れているのか。

 そもそも、女でなくとも城内の人間ならば多少なり怒る状況だとクリスは思う。

 が、言わないでおく。


「笑ってる場合じゃありませんよ、これからどうするんですか?」

「そうだなぁ……」


 少しの間、空を見上げて考えるエリオット。


「都会に行くと見つかるかも知れないから田舎へ逃げよう、って常套手段はまずいから結局都会に行こう、と考えると思わせておいて裏かいて田舎に行こう」

「裏の裏、ですか」


 それは表って言うと思います。

 エリオットがしゃがんで、地面に指で簡単な地図を書く。

 まず方位を書いた後、リャーマと書かれた円から東に三角をちょこん、と。


「今俺達がいるのが大体この辺だとして」


 そしてそこから南に真っ直ぐのポイントに、中を塗りつぶした円を書く。


「ここにハダド。この村は農作が盛んだけれど軍の駐在も何も無い、リャーマよりずっと田舎だ」

「ハダド! 聞き覚えがあります!」

「砂漠を越えて作物を売ったりしているだろうからな、南方では馴染みのある名前かも知れん」


 彼はそう言って立ち上がると、フードローブの裾についた砂を払って南の方角を見た。

 太陽の位置は既に南を過ぎて傾いている。


「どうせ急いでも着くのは夜になるしゆっくり行きたいところだけどよ、追っ手が本当に飛行竜で来たらヤバイから急ぐぞ」


 そしてエリオットは両手を広げて俺の胸に飛び込んで来いのポーズ。

 この場合、飛び込んで来いではなくて『さぁ早く俺を掴んで飛べ』ということだろう。

 だが……


「その持ち方、落としそうで凄く苦手なんですよね……さっきみたいに肩に担いだほうが私としては楽なんですけど」

「担がれると腹が圧迫されて気持ち悪いんだよ」

「じゃあ肩車にしましょうか」

「マジで言ってんの!?」


 クリスは変化してうまく翼をローブから出した後、中腰になってエリオットが肩に乗るのをちょいちょいと手招きして促す。

 彼は困った顔をしながら、恐る恐る少女の首を跨いで肩に座った。


「……コレは子供じゃない、女でもない、そう、飛行竜だ。竜と思え、俺……」

「何ぶつぶつ言ってるんです? 飛びますよー」


 エリオットがしっかり乗ったことを確認してから、すっくと立って翼をはためかせる。

 しかし、エリオットの身長が身長なだけに、立つと凄く不安定な感覚がしてきて、


「エリオットさん、なるべく、頭下げて」

「お、おう」


 彼の体は前に折られて、クリスの頭にしっかり付く形となる。

 肩で担いだほうがスピードは出せるけれど、仕方ない。

 この体勢で出来る限りの速さでクリスは飛び立った。




 途中、休みながらもハダドにどうにか辿り着いたクリス達は、宿すら無いこの村でどうしたものかと考え込んでいる真っ最中。

 フードだけ外してお互いの顔を見合わせている。

 多分食物は自給自足出来るからだろう。

 他に必要な物があれば外から調達でもしているのか、商店も一切無い。


「まさかここまで田舎だったとは……」


 村はずれで畑の野菜を目の前にしながらエリオットが呟く。


「来たことは無かったんですね」

「流石にな」


 追っ手は来ないかも知れないが、これではクリス達も生活出来ない。

 野宿とほぼ変わらないこの状況に二人で深く溜め息を吐いた。

 大した荷物も無いのにこれは辛い。

 一先ず変化を解いてぼやくクリス。


「ルフィーナさん達との合流もどうやってしたらいいのか……」

「ん、する必要あるのか? あっちはもう目的果たしてるようなもんだから、話を聞けた今は無理して俺達に着いてこさせる必要も無いだろ」

「ええっ!?」


 彼のその言葉にクリスは驚く。

 が、すぐに気付いて彼の考えを訂正させようとする。

 そういえば彼は知らないのだ。


「姉さんの持つ剣は、レクチェさんを狙ってくる可能性が高いんですよ」


 ……しばし無言。

 目を丸くしたまま固まったエリオットは、その後黙って頭を抱えたかと思えば腕を組んで悩む素振りを見せ、自らを落ち着かせるように大きく深呼吸。

 そしてやっと喋った。


「何でそれを早く言わない!?」


「ご、ごめんなさい……もう何を伝えたのか伝えてないのか分かってないんです……」

「そうか、その槍もそんな感じだったよなレクチェに対して! うっわぁ、もうどうすりゃいいのかサッパリ分からん!!」


 緑の髪を掻き毟って喚き散らす彼。

 情報交換が全くもって出来ていないことに申し訳なさしか出てこないクリスは、ただ縮こまる。

 ルフィーナ達と連絡をどう取るか考えていたところへ、そこまで夜更けでもないのに既に静まり返っているこの村はずれで、クリス達以外の声が響いた。


「こっち! 確かにこっちに何か大きなものが飛んで降りてきてたんだから!」

「怖いよやめようよお姉ちゃん~」


 どうやらこの村の住人のようだ。

 獣人らしき女の子の影が見えたので、即座にクリス達は黙ってフードを被り直す。

 流石にまだ指名手配は届いていないと思うが、あまり騒がれては困る。

 どうしようかとクリスが悩み始めたところで、エリオットが先に動いた。

 のんきにこちらへ近づいてくるその子に、先手必勝と言わんばかりに駆け寄って、その首を片腕でいきなり絞めると低く静かな声色で脅す。


「……悲鳴を上げたら殺す」


 賊が板についている王子だなんて、この男以外に誰がいるだろうか。


「……ッ!!」


 白くふわふわした兎耳を二本生やした女の子が、口をぱくぱくさせて、でも声を出したら殺される、と喉から洩れそうな悲鳴を必死に堪える。

 後からついてきた男の子も同じような感じの反応だ。


「よし、そっちのガキ。お前らの家族構成を教えろ」

「!? おっ、お父さんと……っお母さんと、ぼ、僕達だけですっ」


 ぼろぼろと涙を流しながらも必死にエリオットの問いに答えようとする、幼い兎耳の少年。


「両方家に居るのか?」

「お母さんだけ、居ます……」

「よーし、じゃあ家へ案内し……」


 そこへクリスの拳骨がエリオットの頭にゴッ! と直撃した。

 彼が「何をする」などと聞く前に、先に口を開く。


「脅すんじゃなくて普通に頼みましょうね」


 にっこり笑顔で彼を抑止した。


「怖がらせて申し訳ありません、お金なら払いますのでこの村で一晩泊めてくれそうな家はあるでしょうか?」


 クリスは被っていたフードを捲くって顔を出す。

 変化していないクリスの普段の外見ならば、見せたほうが怖がられる要素は減るからだ。

 子供達は顔を見合わせて考え込む。


「泊まりたいだけなの……?」


 エリオットに首を捕まれたまま、女の子のほうが確かめた。

 よく見てみるとクリスより年上かも知れない。

 子供には違いないけれど露出度の高いその服から覗く胸はクリスよりずっと大きく、顔もどことなく大人びている。

 クリスはエリオットの腕から彼女を逃がしてあげて会話を続けた。


「えぇ、出来たら食事も頂けると助かります。旅の途中なのですが宿も食べ物も無くて困っていまして」


 女の子はクリスをじーっと見透かすように凝視する。


「お兄さんは悪い人じゃなさそうだからウチに泊まってもイイかも」

「おにぃ……」

「でもこっちの背の高い人は信用出来ない!」


 出会い頭に首を絞めて脅したりすれば、信用して貰えないのも当然だ。


「面倒くせえな、やっぱり脅して家に入った方が早いんじゃねえの」

「そういうやり方、今後一切やめてくださいね!!」


 キッパリと言ってやったところで再度子供達にお願いする。


「このおじさん、育ちが良すぎて常識が無いんですよ。こんなんだけど根はそこまで悪人じゃないんで泊めて貰えませんか?」


 うぅーん、と悩む子供達。

 これが大人だったら一度脅してしまったものをこのような流れには出来なかっただろう。

 来たのが子供で本当に良かったとクリスは思った。


「お母さんに聞いてみてからでもいーい?」

「勿論です、よろしくお願いします」


 フードの下で仏頂面を下げているエリオットを後ろに、クリスは兎の獣人二人の後を着いていく。

 村は畑があるおかげで随分家と家との間隔が随分広いが、彼女達の家は割とすぐ近くの家だった。

 他の家に比べると随分綺麗なほうで、田舎臭くは無い。

 クリーム色の外壁はこまめに手入れしているのだろう、くすみも少なかった。


「お母さーん! 泊まりたいって人が来たー!」


 勢いよく家の扉を開けて叫んで入っていく女の子と、びくびくしつつその後をついていく男の子。


「本当に泊めて貰えるのかよ、こんなんで……」


 エリオットが疑って掛かっている。


「私よくこんな感じで泊めて貰ったりしていましたよ」

「マジかよ信じらんねー」


 少し家の外で待っていると、きっとさっきの子供のお母さんなのだろう。

 同じように白くてふわふわの兎耳を頭の上からぴょんと伸ばしている、赤髪の女性が出てきた。

 思っていたよりも若くて美人で、エリオットが「おおっ」と驚いた反応を見せる。


「こちらのお二人なの?」

「うん、そーだよー。背の高い人はちょっと乱暴だけどー」


 女性の問いに、元気で無邪気な返答が家の中から返って来る。

 エリオットは顔を隠すために深く被っていたフードを捲くって、いつもよりキリッとした、言うなれば余所行きの表情でその女性に顔を向けて言った。


「一晩だけでいいのです、どうか泊めて頂けないでしょうか?」


 綺麗な女性と見た途端の現金すぎる彼の態度にクリスは呆れたが、ここでソレを行う分には状況としても助かるので敢えてツッコミはしないでおく。

 しかし、兎の獣人の婦人は、フードを外した彼の顔をまじまじと見て呟いた。


「お、王子様……?」


 都会の街中ですら気付かれなかったエリオットの顔を、こんなド田舎ご在宅の奥さんがすぐに気付くという緊急事態。

 二人は喋ることも動くことも出来ず、ただ石のように固まった。


挿絵(By みてみん)

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