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この箱庭よりも大切な人に  作者: 蒼山
第一部 第九章
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見えたもの ~それは近い未来に~ Ⅱ

 どこからどう見ても三つしか目が見当たらない少年は、自分を四つ目だと言い張っている。

 どうしようもなくもどかしい気持ちをとりあえず口元だけで笑みを作ることで誤魔化し、そして首を傾げるクリス達。

 エリオットは少し間を置いてから再度聞いた。


「で、何だって?」

「四つ目だって言ってるでしょ! 無かったことにしないでよー!!」


 両手をぎゅっと握って、ワァワァと少年が叫ぶ。


「いやだってどこにもう一つの目があるんだ?」


 もっともなエリオットの問いに、勢いよく為される返答。


「背中!!」


 クリス達はお互い顔を見合わせてから、再度少年を見て、そして二人仲良く首を傾げた。

 背中に目があっても、服を着ていたら見えないのではないか?

 その疑問に答えるように少年は続ける。


「目って言っても要するに天然の魔術紋様なんだ。俺は背中の目で、本来の目だけでは見えないものが色々見えるんだよ」


 だからセオリーの弱点……多分人形を操る為の核となっている位置が分かった、ということか。

 そこで、


「何か便利そうだな」


 エリオットの目が細められ、その奥が光る。


「見たくないものも見えるけど便利だよ」


 褒められてちょっと嬉しかったのか、得意げになる少年。

 エリオットは座っている少年の目線まで腰を屈めて問いかける。


「じゃあ俺が何考えてるとかは分かるのか?」

「……具体的には分からないけど、い、嫌な感じがするってのは分かる」

「そんな力があったら、いい様に使われてきた人生だったんだろうなぁ?」


 にやにやとイヤらしい笑みを浮かべて少年の肩をぽんぽんと叩くと、その肩を急にガシッと掴み、大の大人である彼はこう言った。


「ちょっと来いよ」


 もう片方の手で親指だけ立てて、街の中をクイクイ、と指差す。




「どうせだしもうここで一泊するぞ」


 そう言ってエリオットは宿の一室を借りた。

 ここは二人部屋なので、後でルフィーナとレクチェも別に部屋を取ることになるだろう。

 部屋の椅子に少年を座らせて、エリオットはまるで取調べのように少年の周囲をゆっくり回って眺める。


「何をする気なんですか?」


 おそるおそる尋ねるクリスに、彼はにやりとこう答えた。


「ローズの居場所だとかそういうの聞いたら便利じゃね?」


 確かに、答えてくれるなら便利なこと間違い無しだ。

 けれど少年は静かに首を振る。


「俺が分かるのは今目の前にいるその人のことだけ。だから人探ししろって言われても分からない」


 それを聞いてがっかりと項垂れるエリオット。

 何と浮き沈みの激しい人間なのか。

 クリスはそこまで期待をしていなかったので、特に何とも思わなかった。


「でも」


 と、そこへ少年が続けた。


「二人が今探しているものは当分見つからない、そして二人の今の願いも叶わない」


 随分と抽象的な予言のようなもの、けれども後ろ半分はきっとローズのことを言っている。

 救いたいという願いが叶わないのだと、そう言われてるような気がして。

 クリスもエリオットも黙ってしまう。


「黙んないでよ、俺の見えているものはいつだって『今』なんだ。今の流れのままでいったらダメだけど、流れを変えられれば大丈夫」

「流れを、変える?」


 クリスは縋るような気持ちで、問いかけた。


「今見つからないって言われた時、じゃあどうしよう、って考えるでしょ? それはもう流れを変える事の出来るものの一部。俺の言葉で意識を変えた二人がうまく解決出来る何かを導き出せれば、変わる。俺が見える程度の未来なんて、そんな不確定なものなんだ」

「何だか簡単なようで難しいですね……」


 うーん、と腕組みをしてその場で考え込む。

 少なくとも今のままではダメなのだということは、普通にローズを探して止めたとしても、本当の意味で救うことは出来ないのだろう。

 それは、エリオットには話していないが、クリスは分かっていることでもあった。

 そこへエリオットが別の質問を投げかける。


「俺が王子だ、って言い当てたのは単純な知識か?」

「うん、一度見たものは忘れないから」

「じゃあネックレスもどこかで見て、盗まれたことを知っていたのか?」

「いや、あれはネックレスがそういうオーラを纏っていたんだ。不正な流れで物が渡っていると自然とそういう色になる」


 どんな色だろう、と一瞬疑問が浮かんだが、見えないもののことを聞いても仕方がないのでクリスはそこには触れないでおく。

 と、そうなるとこの背にある槍は彼にはどう見えているのだろうか。

 これもこの手に渡った経緯は複雑だ。

 こちらの疑問は聞いてみることにした。


「じゃあ、この槍はどう見えます?」


 何となく出ただけのクリスの問いかけに、少年は何故か勢いよく食いついた。


「そう! そいつね! 君のなんだよ!! そこまでハッキリとその人の物になっているのは珍しいから目を引いたんだよね!!」


 そして目をきらきらさせて話を続ける。


「物にはね、ちゃんと気持ちみたいなものがあるんだ! 君はその槍に認められてるんだよ。可愛いし、物に好かれるくらいだから、きっと性格もいいんだろうなぁって……」


 そこまで言ったところで彼はよく喋っていた口を急に止めて俯いてしまった。

 どうやら、クリスが少年をじっくり見ていたように、少年もクリスのことを結構よく見ていたらしい。

 とりあえず褒めて貰ったような気がするのでクリスはお礼だけは言っておくことにする。


「……ありがとうございます?」


 疑問形で、お礼。


「あ、いや……」


 俯いたまま口篭っている少年にどうしたものかとクリスが困っていると、エリオットが本日一番のにやにや顔で二人を見ていた。

 あまりに見ていて気分の悪いウザすぎる顔なので、クリスはやや険しい表情を作ってエリオットを窘める。


「何ですかその顔、周囲は見ていて良い気はしませんよ?」

「いやだって、おモテになってるようなので笑いが止まらなくてですね」


 そう何か変な敬語を使って言うと、くくく、と手で口元を押さえながら漏らすように笑うエリオット。

 何なんだ、とクリスがふと少年に視線を戻すと、そちらは耳まで真っ赤になっていた。

 ここまでくると流石のクリスもエリオットの言わんとしていることに気が付き、顔がみるみるうちに熱くなるのを自身でも分かるくらい感じてしまう。


「う……」

「ぶははははは!!」


 もはや王子は我慢もせずに、品の無い笑い声を部屋中に響かせる。

 しかしクリスも少年も、顔を赤らめて黙りこくることで精一杯。

 ツッコミ不在のこの部屋は、今エリオットの笑いたい放題な状態になっていた。

 ひぃひぃ、と腹を抱え笑うことにも疲れ始めたエリオットは、涙目になりながらようやく会話を再開させようとする。

 もとい、状況を面白おかしくさせようとする。


「い、いいんじゃねーの、仲良くやれよ……ぶはっ」

「もう! からかわないでくださいよ!」


 恥ずかしさも落ち着いてきたところで、クリスはエリオットに改めて怒った。

 半ズボンの少年も、顔を手でぱたぱたと仰ぎながらようやく顔を上げ、


「二人の名前……聞いてもいい?」


 ぼそり、と呟く。


「あっ、クリスです。名乗るのが遅くなって申し訳ありません」

「俺の名前は知ってんだろ? こいつの名前が聞きたいのならそう言えばいいじゃねーか」


 まだ茶化しているエリオットの鳩尾に、クリスはドスン、と重いパンチをお見舞いした。

 彼はゲホゲホと咳き込んで腹を押さえながら膝を突き、その様子を少年がややビックリしたような顔で呆け見ている。


「……しかし、お金を盗むまでは分かるのですが、どうしてあのネックレスをその、取り込もうと? しちゃったんですか?」


 エリオットを憐れむような目で見つめていた少年に問いかけると、少年はハッと顔を上げて、椅子に座ったまま、横にある机に片肘をかけたゆったりとした姿勢で話し出した。


「俺はあのテの魔術道具を取り込むことで力を増幅させることが出来るんだ。これは、天然の魔術紋様を持ち合わせて生まれた奴なら大抵は出来るし、やってることだよ」


 少年がそこまで言うと、エリオットはそこへ割り込んでくる。


「ライトやレフトも、そうだな」

「! そうなんですか!」


 ライトはあのディビーナという力だろう。

 あの力の元となる魔術紋様が体のどこかに刻まれている、ということになる。

 しかしレフトも名前が挙がったということは、レフトも何か能力を持っているわけで、クリスはまだ見ていないけれど、もしかするとレフトも少しはディビーナを使えたりするのかも知れない。

 いや、彼女の場合はそんな能力関係無しにアクセサリでも魔術道具でも何でも食べてしまいそうだ。


「クリスと目が合って、何か面白いものばかり見えるしちょっと構おうとスったんだけどさ、あんな今までに見たことの無いような上物を見ちゃったら頂きたくなっちゃって……」


 そして少年は、申し訳無さそうにクリスを見上げ、照れ笑う。


「そういうことだったんですね」


 確かに自分の能力が上がるとなれば欲しくなる気持ちも分かる。


「このネックレスが魔術道具なら、一体どうやって使うんでしょうね……」


 服の中からごそりとそれを取り出す。

 クリスにはただの豪華な琥珀のネックレスにしか見えない。

 問いかけるようにちらりとフォウに視線を送るが、


「俺にはそれが随分特異なアイテムであることは分かるけれど、使い方まではちょっと見えないかな。俺が見えるのは抽象的な表現にしかならない、色だけだから」


 有用な情報は得られなかった。

 一つ引っかかるのが、クリスがこのネックレスを持つことになったのは王都からだということ。

 あれから随分日数が経っているのに何故今頃になってセオリーが出てきたのか。

 もしクリス達を見張っているのならば、あの時これがどこから流れてきた物なのか知っているはずだ。

 だが彼は知らなかった。

 クリスが今まで持っていたことは知らず、フォウに盗まれたことで初めて物を発見したような素振り。


「見張られているのは、いつ……?」


 思わず、口に出してしまう。

 フォウはクリスの独り言に怪訝な顔をしたが、エリオットは何のことなのか気付いたようだった。


「セオリーのことか?」

「えぇ、私このネックレスはライトさんから姉さんの物だと聞いて預かったんです。けれど今頃になってセオリーに見つかったようなので不思議だな、と……」


 一間置いて、その疑問に彼がいくつかその理由を挙げてみる。


「そうだな……家の中は見えない、でなきゃライトんところに居た頃はまだセオリーが回復してなくて見張れなかった、あと考えられるのは……」


 クリスとエリオットの目がしっかりと合った。

 彼のその瞳はやや細くなり眉間に皺が寄る。

 そのように一瞬真剣な眼差しになったかと思いきや、彼はふっと力を抜いて視線を外し、机に両手を突いて寄りかかり気味な体勢で呟いた。


「アイツがメインで見張っているのはお前では無い、かな」

「あ!」

「どれくらいの範囲を一度に見張れるのか知らんが、この間と大きく違うのは同行メンバーだからな」


 同行メンバー……ルフィーナとレクチェのことで、クリスは気付く。

 ローズに関する情報を仕入れるために手分けをしている最中だというのに、彼女達に情報収集をさせたまま、自分達はここでくつろいでいるという事実に。

 普通に考えたらかなり酷い。

 クリスは後ろめたさから急に落ち着かなくなり、とりあえずネックレスをバッグに仕舞って切り出した。


「え、エリオットさん、ルフィーナさん達を放置はまずいんじゃ……」


 その言葉を受けても、エリオットは微動だにしない。

 その額には、脂汗が滲み出ている。

 まずい、と答えずとも表情が心情を物語っている。

 その場にいたフォウ以外の二人は、そこから意識を取り戻し活動を再開するのに少々時間が掛かった。

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