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この箱庭よりも大切な人に  作者: 蒼山
第一部 第九章
21/138

見えたもの ~それは近い未来に~ Ⅰ

挿絵(By みてみん)

「エリオットさんっ! 朝ですよーっ」


 レクチェが寝ぼすけ男を揺すり起こしている光景を垣間見ながら、クリスはベッドを椅子がわりにして砥草で歯を磨いていた。

 ぐらんぐらんと揺すられながらもエリオットは一向に起きようとせず、出会った頃のデジャヴのような光景にげんなりして肩を落としてしまう。

 それでも見るものも無いのでその様子を視界に入れていると、王子は薄らと緑瞳を開いて、傍らに居る女性の存在に気がついたようだった。


「うぅ……」

「あっ、起きました?」


 それまでの困り顔をパァッと明るい笑顔に変えて、レクチェは寝ぼすけに語りかける。


「おー……おはよー」


 そして上半身だけむくりと起こしたエリオットは、自分を起こしてくれていた彼女の左頬に軽くキス。

 瞬間、総毛立ったレクチェを見るまでもなく、クリスはベッドから立ち上がり、左足でエリオットのわき腹に回し蹴りを放った。

 ドゥフ! とモロに腹に入り込む一撃に、悲鳴すらも詰まらせて彼は悶絶する。

 とりあえず歯を磨いていては会話も出来ないので、クリスは無言でその場を後にし、キッチンで口を漱いでから戻ってきた。

 そこにはまだわき腹を抱えてのた打ち回っている変態が一匹と、その変態を上からバシンバシンと叩く被害者。

 呆れ顔でクリスは言い放った。


「起き抜けにあんなものを見せないでください」

「けっ、蹴らなくても……しかも本気で……」


 涙目でのそりと再度体を起こすと、エリオットは何やら文句を言う。

 口よりも先に手が出る子供は、半眼で冷めた視線を彼に投げながら言ってやった。


「姉さんを助けたら、次の標的は貴方ですよ」

「ちょっと挨拶しただけなのに……」

「ちょ、ちょっとってこと無いです! 私本当にビックリしたんですからっ!!」


 顔を真っ赤にして慌てていたレクチェは、少し落ち着いたところで今度は彼の救いようの無い言葉に叱咤する。

 彼女を気に掛けているルフィーナが今のシーンを見たならもっと怒っていただろうか。

 だがルフィーナは今、用事があると言って朝早くに隣の家に出かけたままだ。

 今度はさっきよりも少し弱めにぽかぽかと叩かれているエリオットも、ルフィーナがいないことに気がついたようだ。

 レクチェに叩かれながら、クリスに問いかける。


「ルフィーナは?」

「エリオットさんが間抜け面で寝ている間に出かけました」

「そうか」


 彼は叩き続けるレクチェの手首を掴んで止めると、布団から出てベッドを降りた。

 掴んでいた手を離してから、そのまま背伸びをして大あくび。


「悶々としてなかなか寝付けなかったんだよ。正直もっと寝ていたい」

「……昨日言っていた、寝込みを襲うか襲わないか悩んで、ですか?」

「襲うわけじゃない! ちょっと一緒に寝るだけだ!!」


 クリスはもう答えるのも苛立たしいので返事代わりにもう一発、今度はその無防備な尻に蹴りを入れた。

 すると今度は声を出すだけの余裕はあったようで、「いだいっ!」と犬のように甲高い悲鳴を上げてエリオットは飛び跳ねる。

 そんな、気の緩みきった朝。




 凍った針葉樹が幅を狭めるその雪道で、四人は二頭の馬を使ってツィバルドの方角へ南下していた。

 他の女性をエリオットと一緒の馬に乗せるのは憚られるので、手綱を持った彼の腕の中にクリスがすっぽり納まりながら槍を手に一緒に乗っているという……クリスとしては大変遺憾な状況になっている。

 それはエリオットも同じようで、始めは何やらぶつぶつ言っていたが、今はもうそれすらも無い。


 ルフィーナの推測としては、ローズが王都より南で何か動きを見せた様子が無いので、まだ北方にいるのではないか、という。

 無論その裏づけとなるのは、ここにまだレクチェがいるという事実。

 この世界の破壊を求めるあの大剣の精霊の狙いは、その破壊を阻害するであろうレクチェを仕留めること。

 そして、こちらを探すつもりならばツィバルド辺りに潜伏している可能性も高い。

 あれだけ大きな街だと今まで滅ぼした村などと違ってそう簡単には手を出せないから、あえて潜み伺っている可能性も考えられるのだ。

 背もたれに預ける体重を少し増やし、クリスはしばらく馬に揺られながら凛と張り詰めた午前の空気を肺に入れて意識を確かなものとした。


「くっつきすぎだっつーの、重いぞ」

「背もたれは黙ってください」

「誰が背もたれだ!?」




 ツィバルドに着いてまず借りていた馬を返し、次に情報収集をすることになった。

 ローズの顔は指名手配されているため、それなりに目立つ。

 多分顔は隠して行動しているだろうから尋ねる時に使う特徴はあの大きな剣になる。

 流石に街中で戦闘にはならないだろう、と二手に分かれて行動となった。

 勿論、クリスはエリオットとセットにさせられる。

 が……


「俺一人でいいし、お前も一人でいいだろ」


 と、エリオットは勝手に一人で歩いて行ってしまった。

 とはいえクリスも一人で問題無いので、特に気にせず人ごみに溶け込む。

 しばらく情報収集をおいてぼーっと街の見物に耽っていると、ふと通り過ぎる人並みの中に目立つ人物が居て、思わず目で姿を追ってしまった。


 その人物は、三つ目を有していたのだ。

 少し首元で刈り上げられている青褐の髪の前髪は、中央分けで大きく額を出している。

 そしてその額には、大きな第三の目。

 世間に知られていないわけではないが、比較的見かけるのは珍しい劣勢種族だ。

 その理由は他の血に負けてしまう為、異種族間で子を成すとその特徴である第三の目は受け継がれないからである。


「!」


 そんな彼と、ふと目が合う。

 クリスと同じくらい、いや少し上か。

 まだ幼さが抜けきっていないその顔は、額の目による違和感を除けばよく整っていた。

 白い立て襟のシャツにベビーブルーのリボンが締められ、最後に小気味良く銀のピンで留められている。

 肩から腰くらいまでの長さのコバルトのマントジャケットはシンプルな七分袖で、前はボタンで留められるようになっているが一番上のボタンだけしか留めていないので歩くとひらりとマントが揺れた。


 少年はその黒い半ズボンから綺麗な太腿をこの冷たい空気に晒け出して、人ごみの中、目が合ったクリスにゆっくりと近づいてくる。

 視線を合わせ過ぎたか、とクリスはふぃっと顔を彼から逸らして去ろうとする、が、視線を外した瞬間に腰のポーチを奪われてしまった。


「なっ!?」


 そして少年は人ごみにまた潜り込み、クリスは一瞬にして対象を見失う。

 まさかこんな堂々としたスリがあるだなんて思いもせず、一瞬呆然としてしまったがすぐに気を取り直して追いかけた。

 方向だけが頼りだ。


「もーっ!!」


 こうして、追いかけっこが始まる。




「はぁっ……」


 現在街外れにいるクリスはすっかり熱くなった体を上下に揺らしながら息を吐いた。

 街中を探したのだがちっとも見つからない、影一つ追えやしない。

 まさかもう街の外へ出てしまったのだろうか? とも考えたが、外へ出られるほどの荷は持っていなかったように思う。

 取り返すのはもう絶望的か、と肩を落としてまた街の中に戻ろうとする。

 そこへエリオットが同じく息を切らしてやってきた。


「おま、何で走り回ってるんだよ、何かあったのか……っ」


 どうやら走っていたクリスを見かけ、勘違いして追ってきたらしい。


「いえ、実は……」


 そして説明する。


「三つ目の子供か、それ見たな」

「どどどど、どこでですか!?」

「酒場」




 エリオットに案内され酒場へ行くと、酒場には似つかわしくない先程の少年が昼間っから酒を飲んでいた。

 少年はクリス達に気がつくと一瞬顔色を変えたが、すぐにふてぶてしい態度で椅子に座り直す。


「私の持ち物を返してください」


 ダンッ! とクリスがテーブルを叩いて言うと、まだそこまで多くはない周囲の客が三人に視線を投げかけた。


「さっき俺のこと見てたよね? 見世物になってやったんだから貰う物貰っただけだってば」

「ぐっ……」


 見世物、と彼は言う。

 確かに先にじっと見てしまったのはクリスの方だ。

 彼のような珍しい種族からすればよくあることであり、そしてとても不快で失礼なことなのだろう。

 実際お金を取られても文句は言えない。


「けっ、けど! ちょっとそれは高すぎませんか!?」


 流石のクリスもそこは食い下がる。

 ポーチの中にどれだけの大金が入っていると思っているのか。

 全部取られるわけにはいかない。

 少年はポーチを手に、クリスとエリオットを交互に見ながら呟いた。


「確かに高かったかも」


 そしてポーチを投げ返す。


「何だよクリス、お前が悪かったんじゃないか」

「……確かに一理あります、減った分については咎められる立場では無いでしょう……」


 そう言ってクリスは返して貰ったポーチを腰に着ける、があまりの軽さにびっくりしてしまった。

 まさかと思ってポーチを開けるとそこにはライトから貰ったネックレスが無い。

 慌てて三つ目の少年を見ると、涼しい顔。

 キッと睨みつけると肩をすくめてジョッキを飲み干す。

 この若さで既にいい飲みっぷりなのが腹立たしい。


「お金よりネックレスのほうが大事だった?」


 ネックレスの価値がどれほどの物か分からないが、盗品かも知れない。

 故にクリスとしては、簡単に人に渡すわけにはいかなかった。


「……大事です、返してください」

「盗品なのに?」

「!?」


 物を見てもいないエリオットが二人のやり取りに若干ついていけないようで、不思議そうにクリスを見ている。

 少年はそのネックレスが盗品である、と確かに言い、思わずクリスはそれが事実だと言わんばかりの表情をしてしまう。

 少年がそれを見てくすりと笑った。

 その三つの瞳で心の中まで覗き込むようにじっと見つめてくる。


「二人の探し物は、見つからないよ」


 そして急に、何の根拠があるのかも分からない言葉を鋭く言い放つ。


「何だぁ?」


 ますます分からなくなったエリオットはいい加減に飽きてきたのか、ガシッと少年の頭を押さえ込んで顔を近づけ脅し始めた。


「ぐだぐだ言ってねぇで出すもん出せや、こっちが下手に出てるからって調子ん乗ってんじゃねーぞコラ」


 もはや王子の威厳ゼロ、タチの悪いチンピラのように少年に喰ってかかる。

 けれど少年は怯える様子も無く、わざとらしく両手の平を上に上げて茶化した。


「おー怖い、王子様がそんなんでいいの?」


 少年がそう言った瞬間、エリオットは彼の頭を掴んでゴンッとテーブルに叩きつける。

 エリオットの逆鱗に触れた少年の頭が鳴らした大きな鈍い音に、周囲は流石にざわめき始めた。


「俺は男にゃ容赦ねーんだよ、子供だからって手ぇ出さないと思ってたら大きな間違いだぞ」


 そしてそのまま掴んだ頭をぐりぐりと机に押し付ける。


「ちょっと、流石にその辺で……」


 クリスはきょろきょろと周囲の目を気にしながらエリオットを止めに入った。

 だがしかしその直後、少年が発した異質な空気にビクリと体を震わせてたじろいでしまう。

 エリオットも思わず掴んでいた手を離して一歩後ろに下がった。

 机に頭を突っ伏したままの少年の背から何か魔術的な威圧を感じ、クリスは背中の槍に手だけかけて警戒する。


「折角助言してあげようと思ったのにひっどいやり方だね、信じられない」


 少年は顔だけ上げて三つの目でエリオットを睨む。

 ただ睨まれているだけなのに、そうではない。

 もっと何か別のものを見られ、見透かされているかのような嫌な感覚がエリオットの肌を嘗めてくる。


「俺はこんな変なガキとばかり縁があるのか……」

「女難の相ならず子難の相、とでも言えばいいのかな。多分、そういう縁、あるよ。子供には気を付けなよ」


 そのぼやきにわざわざ少年が答えるが、その答えた内容についてはさっぱり理解し難い。

 少年は上着の中からごそごそと例のネックレスを取り出し、


「捕まえられたら返してあげる」


 見せびらかしながらサッと逃げていく。


「あっ、ちょっと!!」


 不意を突かれたクリスとエリオットはすぐに追いかける足が出ず、その場は逃げられてしまい、二人でまた慌てて追いかけることになった。

 今度は先程と違い辛うじて少年の姿が見える。

 とにかく見失わないように追うだけだ。

 しかし路地から路地へいくつも角を曲がっては、少年に翻弄され続ける。

 彼は背中に目でも付いているのか、振り返らずに走りながら、それでもクリス達の位置を把握しているように華麗に逃げていた。

 人ごみを掻き分け、やっと入ってくれた路地裏では、あと一歩のところで彼の背に手が届かない。

 軽やかに逃げ続ける少年に導かれるようにクリス達は街の南口へと着いた。

 ふと、少年が足を止める。

 それに釣られてクリス達も思わず追う足を止めてしまう。

 本来なら止めずに捕まえなければいけないのに、その足を止めた理由が「疲れ」ではないような気がして、だからといって他の理由も思いつかずに不信感を覚えたからだ。

 既に周囲に人は居らず、少年はクリス達に背を向けたまま右手にずっと持っていたネックレスを高く振りかざした。


「ゲームオーバー」


 少年は顔を上げ、持ったネックレスを下げていく。

 後姿からはよく見えないが、まるでネックレスを食べようとしているような構図だった。

 が、ネックレスが下がりきる前に突然それは現れた。

 素早く少年の手からネックレスを奪うのは……


「本当に、目を離すとすぐコレです」


 白緑の髪の、背が高い青年。


「ふぇっ!?」


 流石の少年も何が起きたか分からないようでクリス達のほうを振り向く。

 だが見るべき方向はそちらではない、少年の真横にいるセオリーだ。

 セオリーは以前と同じような藍色の軽鎧を身に纏って、何も無かった場所に突然現れて少年のネックレスを横取りしたのである。


「……!? あんた、生きてないな?」


 少年はやや怯えたようにセオリーから少しずつ距離を取っていく。


「何故貴方がコレを持っているのか教えて頂けますか?」


 その紅い目は少年を射るように見つめた。

 とても一般人が耐えられるものではない、氷のような視線に耐え切れず少年は喋りだす。


「そ、それはそこの連中が持ってたんだ……俺は美味しそうだったから取り込もうと思っただけで」


 少年の回答に、セオリーは呆れ顔で溜め息一つ。


「もし貴方がコレを取り込んだのなら、切り裂いて濾過させてでも取り戻すところでしたよ」

「っ!!」


 ビクッと震えて、少年はその言葉に完全に萎縮している。

 エリオット相手ですら表情を崩さなかった三つ目の少年は、セオリー相手には完全に恐れ慄いていた。

 目の前のものが本人ではなく人形とはいえ、やはりセオリーは何か得体の知れない存在なのだろう。


「で、貴方がたは何故コレを?」


 三つ目の少年への興味が無くなったのか、今度はクリス達に尋ねてくる。


「姉の持ち物です……本当の持ち主が分かったら返すつもりでした」

「では返してください」

「!?」


 ローズがセオリーから盗んだとは、クリスにはとてもそうは思えなかった。

 セオリーの言い方からすると随分重要な物に感じられるあれをこのまま奪われていいのだろうか。


「本当に、貴方の物なんですか?」

「少なくとも今コレの価値を知り、扱えるのは私達だけ、と言っておきましょう」


 その答えは……自分の物では無い、と暗に否定していた。

 だめだ、これは渡してはいけない、取り返さないといけない。

 クリスは背の槍に手をかけ、力を込める。

 そこへパァン! と、クリスの耳元で甲高い銃声が鳴り響く。

 そして二発、三発。

 それらはネックレスを持っていたセオリーの手と、彼の頭と心臓と、全てを綺麗に撃ち抜いていた。

 ダメージは相変わらず無いようだったが、持っていた手からネックレスが零れ落ちる。

 クリスはすぐに走ってネックレスに手を伸ばしながら飛び込んだ。


「よし……っ!」


 勢い余って転がりながらも、確かにネックレスをこの手に掴み取る。


「いつもいつもマナーの悪い人ですね……」


 やや怒っているようで、かすかに声が震えていた。

 その怒りの矛先はエリオット。


「戦いにマナーもクソもあるかよ! いつもいつも喋ってばかりの間抜けなお前と一緒にすんな!!」


 鉱山跡や雪原で合いまみえた際を思い出す限り、セオリーには不意打ち以外の通常攻撃は通用しない。

 エリオットは銃を仕舞うとその拳に薄らと光を纏った。

 クリスも取ったネックレスをすぐに服の中に仕舞い込んで、槍の布を剥ぎ取って応戦体勢に入る。

 気付けば随分距離が離れた場所にいる三つ目の少年が、大きな声で叫んだ。


「あ、頭や胸じゃない、左肩を狙って!!」


 それを聞いてピクリと、一瞬だがセオリーの顔が歪み、


「分が悪いようですので、引き上げましょう」


 彼がそのマントを翻した。


「逃がすか!!」

「逃がしません!!」


 ほぼ同時にクリスとエリオットが、セオリーの左肩めがけて飛び掛かる。

 だが二人の攻撃を受け切る前にセオリーの体は消えてしまい、クリスの槍がエリオットの腕の寸分近くのところの空を切った。


「うおおおぁぁ……」


 エリオットの間抜けな呻き声。


「危ない危ない」

「危ないなんてもんじゃねーだろコレ!」


 とりあえず突っ込むだけ突っ込んでから、エリオットは息を整える。

 クリスもふぅ、と落ち着けてから目をやる先は……三つ目の少年だった。

 少年は自身を纏う視線に気付くと、逃げることもせずに観念した様子でどかりと雪に座り込んだ。

 短パンで。


「あんなのに立ち向かう連中に、逆らうだけ無駄ってもんだよ……」

「往生際がいいじゃねーかクソガキ」


 エリオットが上機嫌で少年に近寄る。


「無事ネックレスは取り返したし放っておきましょうよ。元々こちらにも非はあったんです、追い詰めることも……」

「俺に非は無ぇよ?」


 ぐるりとクリスに顔を向けるエリオット。

 薄目で睨むその顔は、まだ責めが消化不良である、と告げていた。

 少年に向き直るとエリオットはパンパンと二回手を打つ。


「はい、まず自己紹介~」


 座っている少年を見下ろしながらの形で、完全に相手を舐めている口調で事を強要していた。

 少年はやや不貞腐れた感じで返答する。


「……フォウ・トリシューラ。ルドラの民です……」

「そーかいそーかい、で、何であのクソヤローの弱点が分かったんだ?」


 確かに彼の助言が無ければすぐにセオリーが撤退することは無かっただろう。


「俺は、大抵のものは見通せるから……」


 エリオットの問いに、フォウと名乗った少年はあまり言いたくないようで、小さくぼそぼそと答えた。


「三つ目であるルドラの民が占術に長けているのは知ってる。でも見通すって何だ? その額の目ですぐに何でも見えちゃうってか?」

「違う、俺は…………四つ目だよ」


 その瞬間、ただでさえ冷えている北方の空気が、彼らの周囲だけ完全に凍てついたような気がした。

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