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この箱庭よりも大切な人に  作者: 蒼山
第三部 第十四章
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黄昏 ~この世を治める者の運命~ Ⅱ

   ◇◇◇   ◇◇◇


『すまなかったご主人』


 再度地下に向かって走るクリスの頭に、ニールが直接語りかける。

 ニールが謝っているのはルフィーナのことだろう。

 ひょい、と一つの瓦礫を越えたところでクリスはそれに答えた。

 

「いえ、甘いやり方では彼女を止められなかったかも知れませんし、生きてはいたんですからルフィーナさんなら大丈夫でしょう」


 しかしそう言ったクリスの表情は明るいものでは無い。

 彼女を敵だと判断しなくてはいけない状況。

 判断した自分。

 そして、判断したことによって起きた結果。

 どれをとっても明るくなどなれはしなかった。

 でも、エリオットを救う、という目標に関しては一歩進んだのは事実。


「何にしても後はあの黒い奴だけで終わりですね」


 血の魔術、だったか。

 少し面倒臭い相手だとは思うけれど封印とかややこしい物はもう無いのだから、とにかくやってることを止めてぶっ飛ばしてやればいい。

 何と分かりやすい、と少女は心から思う。

 クリスはセオリー戦で散々悩まされてきたせいか、やや頭が疲れてきているようである。


『だが、ビフレストも居るのでは無いか? あの女はご主人の敵味方問わず護ろうとするのでは』


 クリスの楽観的な思考に対して一石投じるのはニール。

 ようやく地下へ続くはずの部屋に着いて、階段を下りようとしたクリスの足が、僅かにその発言に反応するようにぶれるがそれも一瞬だけ。


「レクチェさんは……エリオットさんだって護ろうとするはずです」


 ルフィーナと違う点はそこ。

 多少の食い違いは起こるかも知れないが、彼女と刃を交える状況になる可能性は低い。

 せいぜい仲裁に入ってくる程度では、とクリスは考える。

 けれど、状況がずっと進んでいることをこの時のクリスは知らなかった。

 そしてそれは……クリスとセオリーを必死に止めようとしていたルフィーナの想定していたものとまさに合致していたのだった。


 地下に続く階段の半ばまで下りたところで突然地響きのように大きな物音が鳴り、それは地下から聞こえてくる。

 階段の天井が劈く音を立て、亀裂が入り、尋常ではないことが起こっていると思わされるそんな異常事態。


「間一髪、間に合わなかったんでしょうか……」


 凍りついた思考はすぐに溶けて動き出し、じゃあどうしようこれからどうしよう、とクリスの中で同じ疑問だけがぐるぐる巡っていた。

 でもきっとまだ何か方法があるに違いない。

 それにこの音は実は、封印が解けたことでレクチェがその魔術を中断させた音かも知れない。

 もしエリオットに神が降りていても、その時はまた何かの方法で彼を元に戻せばいいだけなのだ。

 神を降ろす方法がどういうものなのか想像もつかないが、レクチェに降りていた時期もあったのなら決してそれ自体が絶望的なものではない、とクリスは思う。

 地下の天井が崩れ落ちてくるかも知れない心配など頭の隅に追いやってクリスは先へ進んだ。

 だが地下通路へ下り立ったところで、もう一度大きく鳴り響く轟音と共に、牢の辺りから大きな金色の光の柱が立つ。


「っ!!」


 レクチェのものだろうか、その光の柱は触れた部分の建物を崩し、しかしその破片は普通に落ちるのではなく粉末状にまで崩されて宙に舞っていた。

 一粒一粒が光を反射し、きらきらとまるで金粉に見える。

 光の柱は建物の天井に空が覗くほどまで貫通しており、この場所は地下だというのに青空と日の光が差し込んできた。


『ご主人、あの力はレクチェと呼んでいたビフレストのものでは無いぞ』

「え」

『大きさがまるで違う』


 じゃあ……エリオットか。

 空間の封印が解けたなら、自力で抜け出すくらい、彼なら出来そうだ。

 でも先程からこんな風に良いほう良いほうへと考えようとしているのに、心の一番奥にある不安を全く打ち消すことが出来ていない。

 無理やりなクリスのポジティヴ思考は、所詮上辺だけ。

 そう思わないと足が動かなくなりそうだから、本能的にその一番の不安を考えないようにしているのだ。

 そこへ、ぽっかり穴が開いたような地下牢の床から出てくる影。

 最初に出てきたのはレクチェで、ふわりと着地してからクリスと目を合わせる。


「れ、レクチェさん、これどうしたんです?」

「ごめんねクリス、もう少し……待って」


 何故謝って、何故待てと。

 全く状況が掴めない、待てと言うだけの彼女の言葉にクリスは困った。

 彼女はクリスにそれだけ言うと、先程這い出てきた穴の下を見下ろして、次に出てきた二人に視線を向けている。


「どこに保管してあるんだい?」

「急かすなよ」


 レクチェ同様に光に包まれながら飛んできたのはフィクサーと、長い金髪の男だった。

 レクチェの隣に降り立って話をしているが、クリスには何のことかよく分からない。

 仏頂面で隣の男と会話しているフィクサーはやがて少し離れた位置に居るクリスに気付き、その黒い瞳を大きく丸く見開く。


「な、」


 フィクサーの反応に対し、隣の男もつられるようにクリスの顔を見た。

 そして、


「わざわざこの体を迎えに来た、というところかな」


 クリスにとって聞き覚えのある声で、そして何のことか分からない台詞を発する。

 というか……誰だこの金髪男は。

 ここで登場した新顔に、首を傾げる少女。

 眠いのかやる気が無いだけなのか、瞼をしっかり開こうとせずに視界が狭そうなことになっている金の瞳に、縛りもせずに腰まである長い金髪を鬱陶しく垂らしている男は、白いシャツに同じく白いスカーフを巻いて、上等そうなダブレットを着ていた。

 どこかで見たな、と記憶を辿るがクリスはよく思い出せない。

 知らない人に用事は無いので、無視をすることに決めた。


「フィクサー! エリオットさんを返してください!!」


 黒い男に人差し指を突きつけて叫んだが、クリスのその言葉は完全に横に置かれ、フィクサーは自分の言いたいことを言い始める。


「セオリーは、どうした」


 以前にも一度見たことがあった。

 基本的に緩い感じのするこの男の、有無を言わせないような圧力を感じさせる表情。

 クリスの額に汗が噴き、言葉を出せずに息を飲む。

 分かりやすいくらい激怒している目の前の敵に事実を告げるのを躊躇っていると、


「アイツが解除したんじゃ無かったのか……」


 言われずとも察したのか、微かに震える呟きの後に、その漆黒の瞳がクリスを射抜くように鋭く向けられた。

 封印解除をセオリーがしたと思っていたのなら、セオリーが死ぬ直前に何かしらの封印解除の合図をフィクサーは送っていたのだろうか。

 そしてそれはつまり、その時点でフィクサーの目的は完了していたことになる。

 ではエリオットはもう神を降ろされてしまっている? とクリスの脳内で比較的スムーズに事実が確認されていた。


『間違いないと思う』


 脳内へきっぱりと放たれたニールの返事に、クリスはフィクサーの視線など気にもならなくなった。

 みるみるうちに顔の血の気が引いてゆき、なのにそれと同時に槍の柄を握る手だけは熱くなっていて。

 自分の変化に戸惑いつつも、その一瞬で冷えた頭は逆に落ち着いて考えを巡らせる。

 こうなってくると単純に助けるというよりは、助けた上で彼の体を元に戻すことになるのだ……クリスの苦手な流れ。

 レクチェもそれを分かった上で先程「待って」と告げたのだろう。

 フィクサーはそんなクリスに今にも牙を剥いて向かってきそうな気迫を見せていたが、それを止めるのは隣の男。

 何の言葉を発するわけでもなくフィクサーの肩に手を置いて視線だけで会話する二人は、何となくクリスには仲間のように見えていた。


「無視しないで頂けますか」


 相手にして貰えないとエリオットの居場所も現在の状況もサッパリなクリスが再度強めに声をかけると、かわりに動いたのは彼らではなく……


「ごめんねっ」

「わ!?」


 クリスを包む金色の光は、レクチェのもの。

 攻撃的ではなく拘束に近い形でクリスの手足を縛る彼女の動きを見て、無関心そうな表情だった金髪男の顔が少しだけ満足げに緩む。

 そして、


「来い」


 クリスが止められているうちに、フィクサーが仲間を連れ去った。

 いつものクリスならここでレクチェも敵かと判断しそうだが、彼女の本心をエルヴァンで確認した今なら、そうでは無い何かの意図があるだろうと思えていた。

 だからその意図を確認しようと、連中が離れたところでクリスは慌てつつも聞く。


「れ、レクチェさん! 逃げちゃいますけど、エリオットさんの居場所知ってたりするんです!?」


 レクチェはというとその大きな金の瞳をぱっちり開いて、


「え、えっ?」


 挙動不審になり始めた。


「いやだって、アイツらエリオットさんを連れていなかったでしょう! だから連中に手を出すよりも別の場所の彼を救ったほうが早いみたいな意味で私を止めたのだと……」

「ええええ!?」


 そこでクリスの拘束が解け、急に解放されたことでべたんと床に落とされる少女の体。

 ちなみにレクチェは、揺蕩う布を自分でぎゅっと掴んでぷるぷるしている。

 その心情を思えば、仕方の無いことだ。


「ち、違うんです? じゃあ何で連中を追うのを止めたんですか?」

「いや、その、あのねクリス。エリオットさん……居たよね?」

「嘘! 私あの二人に気をとられて見逃してました!」

「えっと、だから……あの金髪だった人がエリオットさんだよ?」


 驚くクリスに、彼女はそっとその事実を告げた。

 だが、この少女にはそれだけでは通じないらしい。


「レクチェさん、エリオットさんのこと忘れちゃったんですか!? 彼はあんな熟してないレモンみたいな頭じゃありませんよ!?」


 今のエリオットは、ほぼ金髪だけれどちょこっと毛先だけほんのり黄緑が残っていたりする。

 確かにレモン。


「わぁぁ……」


 笑っているような泣いているような不思議な顔をしてレクチェが力無い声を洩らす。

 かと思えばうんうんと悩み始め、少し間を置いてから彼女は何かひらめいた様子でポン、と自分の手を叩いて言った。


「降りた神様が緑はイヤだからって金髪に染め変えちゃったの!」

「なるほど!!」


 ちょっと違うけどこのほうが納得するよね……などと横を向いてぶつぶつ呟くレクチェ。


「……あれ、ってことはさっきの金髪の人がエリオットさんなら、追わないと」

「追ってクリスはどうするの? どうやってエリオットさんを元に戻す?」

「う……」


 全く考えの無いクリスはそこで口篭もるしかなくなるが、レクチェはそこで光明を見せるように柔らかい笑みを零す。


「エリオットさんを元に戻してもいいってフィクサーさんは私に言ってくれたの」

「ほ、本当ですか!?」

「うんっ! ちょっと状況が変わっちゃって今すぐには出来ないから、一先ずセオリーさんに説明して……」

「え」


 一体どう状況が変わっているのか。

 彼女の口から出てきた状況を説明したい相手の名前は、もう居ない人物のものだった。

 あの男が居なければエリオットを元に戻せない?

 何かそんな難しい下地の魔術を行うとでもいうのか、何にしてもあの男はもうこの世には居ない。

 他でも無いクリスが葬った相手。

 レクチェはクリスの態度がおかしくなっていることには気付いていないらしく、ぽっかり穴の開いた天井を見つめながら言う。


「でもあの人どこに居るんだろうね、私が最初に来た時にはここに居たんだけど……クリスは知ってる?」


 知っているも何も。


「もう、居ません……彼に何の用事があるんです?」

「……?」


 クリスの言葉をすぐには把握出来なかったようでまずは首を傾げ、きょとんとした顔で彼女は対面の少女を見た。

 そして表情から把握したのだろう、『居ない』の意味を。

 服のデザイン上、露出したクリスの肩をレクチェが掴む。

 クリスはただでさえレクチェの近くに居ることに抵抗があるというのに、触れられたお陰で嫌な感覚が増長してゆく。


「どうしてそんなことを……!」

「だって、ああしなくちゃ魔術を解除出来なかったんですよ!」

「自分の目的の為に他人を貶める、殺めるって、どういうことなのかクリスは分かってない!!」


 レクチェらしからぬ気迫だった。

 少なくともクリスは今まで見たことが無い。

 彼女の訴えはセオリーが居なくて困る、といった内容ではなく、クリスがそれをしたことに対して怒っているよう。


「互いに武器を持って立つ者なら当然じゃないですか? 別に無抵抗の相手に刃を向けているわけじゃないんですよ」

「そういうことじゃないの……」


 クリスの肩に手を置いたまま、震えるレクチェは泣くように項垂れる。

 けれどそれも短い間。


「彼の気が変わっていなければいいけれど」


 先程のレクチェの言葉の意味はクリスにはよく分からなかったが、今の言葉は理解出来る。

 本来元に戻してやる必要の無いものを多分……情けでやってもいいとフィクサーの考えが傾いていたところを、逆撫でしてしまうような行為をしてしまったのだ、と。

 二人まとめて見たのは以前の一度だけだったが、フィクサーはセオリーをかなり気に掛けていた。

 何となく、あの男を頼るのは無理そうだと少女は思う。

 つい数分前に向けられた憎しみ満ちた表情はそういうものだ。

 クリス自身、彼の立場なら間違いなく気が変わる。


「セオリーが居たとしたら、どうするつもりだったんですか?」

「今のあの御方は、エリオットさんの体にただ降りているわけじゃなくて、完全に繋がれているの。フィクサーさんの意図としては、逃がさない為、そして万が一の時はその体ごと消滅させられるように、だと思う」


 レクチェが語った内容は、クリスが希望として捉えていた部分をあっさり打ち消すものだった。

 ただ降りているわけではない、とわざわざ言うのはきっと、過去にレクチェに降りていた状況とは違うのだろう。

 簡単に剥がせない、多分そういうことだ。

 更に後半の内容は、クリスの怒りを更に掻き立てるようなもの。

 やはり勝手過ぎる。

 自分の体ではないから、自分の大切な人の体ではないから、そんなことを実行出来たのではないか。

 そこまで考えて、ほんの少しだけレクチェが悲しむ理由が、クリスは分かった気がする。

 先程の言葉はやはり分からないままだけれど、少なくとも……彼らも自分も、何の変わりも無い。

 クリスは自分の大切な人ではないからセオリーを手にかけられたのだ。

 他の誰かの大切な人かも知れないのに。

 以前エリオットに同じようなことを感じた時があった。

 それが良くないと分かっていたにも関わらず、状況が変わった今、自分も同じようにそれが出来てしまえている。

 自分に都合の良い時だけその言い分を主張して、クリスは彼らを責め立てていた。

 皆、自分本位で、自分勝手だったのだ。

 レクチェは、なお続ける。


「でもそれこそが創造主であるあのお方の狙いで、今までのように私に不安定なまま降りるのではなくしっかり繋がれた器を手に入れて、安定させ、自由に動きたいんだと思う」

「だからエリオットさんの体をあんな便利なものにしていたんですね」


 フィクサー達がその技術に行き着き、エリオットの体が降ろすに相応しいものだと気付いたのはどこまでが偶然で、どこまでが仕組まれたものだったのか。

 全てを見ていないクリスには分からないが、今になってそれらが全て噛み合って、この状況を作り出している。


「そう……だね」


 暗い影を落とすように小さく小さく紡がれたレクチェの肯定の言葉は、クリスの心をも同じ色で染めていった。


「でね、あのお方がエリオットさんの体を使ってやろうとしていることは、決してそれ自体は悪いものでは無かったんだ」

「はぁ……」


 アレが何をやろうとしているとか、その辺りはクリスとしてはどうでもいいので、気の無い返事が口から洩れる。

 それくらい、クリスは他のことなど見えていなかった。

 だからこそこのような事態になっているのだが。

 とはいえ、聞かないと話が進まないのでそのまま黙って聞く。

 すると、


「でも、あのお方にそのまま実行されては別の問題が起きる……彼はそう考えているみたい」

「彼って」

「フィクサーさん」

「相談でもしたんですか? 信用出来るんです?」


 大体においてレクチェを捕まえたり、エリオットを騙していた連中の言葉を、何故こんな風に彼女はすんなりと信じてしまうのだろう。

 エリオットもそう、敵だと分かっていながら耳を傾けていてああなったのだから目もあてられない。

 そう訝しむクリスに彼女は言う。


「……きっと、辛いことがいっぱいあったんだね」

「え?」

「私は信じるよ。それに、彼はもう私に嘘を吐く必要なんて無いと思うから」


 にっこりと、クリスを安心させようとする笑顔。

 ひび割れた地下に差し込む陽光は、まるで彼女を照らす為に注がれているように暖かくその周辺を淡黄に染めていた。

 記憶をなくしていた頃と全く変わらない、皆に愛される為に生まれてきたような彼女は、きっと皆を愛しているから自然とそういうものになるのだ。

 今彼女がビフレストという存在だからそうなっているのではない。

 人が人に与える印象とは、決して姿形からだけではないのだろう。

 その中にあるものもこうやって滲み出る。

 その証拠に……昔とは違う白い翼を広げていても、クリスは昔と変わらない、むしろそれ以上に荒んだ雰囲気を醸し出していた。

 敵は敵とあっさり見做して切り離し、その裏に何があるのか知ろうともしなかったクリスには、絶対にこんな顔は出来ないから。


「信じるって、怖い時もあるね。クリスは別に間違ってないよ。でも……疑っていたら前に進めないこともある」


 クリスとは決して相容れることの無いその存在が、それでも相容れようとクリスの左手を取った。

 レクチェはクリスが自分に触れられると嫌な気分になることは知っている。

 それでも敢えて触れるのは、嫌がらせとかそういうものではなくて、表面上にあるその嫌悪の感情ではない、その奥にあるはずのもう一つの気持ちをクリスに受け止めさせたいのだ。

 そしてそれをクリスは、きちんと感じさせられていた。


「でも……もし裏切られたら、どうするんです?」


 あと一押しの気持ちが欲しくて後ろ向きなことを言うクリスに、レクチェはにこっと、


「それはそれっ」


 どこかで聞き覚えのある台詞を投げかける。

 どこで聞いたのかクリスは覚えていないけれど、随分と楽観的な言葉だと思う。

 このような状況でそんな台詞が言えてしまうレクチェに、クリスはある意味敬意を表したいほどだった。

 と同時に、膨れ上がってくる罪悪感。

 自分がどんなに、感情のまま何も考えずに行動していたのか、自覚して胸が詰まる。

 ルフィーナはきちんと道を照らしていたのに。


「ごめんなさい、私……取り返しのつかないことを」

「セオリーさんには私やクリスと一緒に、一段落したところであのお方の相手をして欲しかったんだけど……居ないとなると多分すごーく大変、かなぁ。フィクサーさんの心変わりもちょっと心配だし」

「一段落、ですか?」

「うん」


 不意を突くとか、隙を見計らって……というわけではなさそうだ。

 理由があっての順序だてのように聞こえたそれを詳しく聞こうとしたところで、後ろでコトン、と小さな瓦礫が転がったような音が聞こえてクリス達は振り返った。

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