この時期って結構苦手です
「さむっ!」
朝目が覚めると、あまりの寒さに布団に潜り込んでしまうことってありませんか?
外の気温と布団の中の丁度良く夜の間中自分の体温でぬくぬくとしたこの空間、まどろみ続けたい朝においては下手な麻薬よりも依存してしまうと思うんです。いえ、キメたことなんてありませんよ?
「ううぅ、一気に寒くなってきたなぁ」
さすがに一日中ベッドの中にいたいものですが、一応私も生きるためにはこの時期限定の貴重な薬草などを採取しに行かなくてはならないんです。だから、やっぱ出たくないなぁ。
『ほら、どうしたんだい。この寒さなら、確か水晶薔薇が採れただろう? アレは高く売れるって君も言ってたじゃないか』
「そりゃそうなんですけどね。寒いの苦手なんですよ」
『君、魔法使いだろう……?』
「ハッ!」
そういえばそうでした。
『今気づいたかのような顔をしないでよ……。まぁ、君の場合は魔法使いというよりは、魔法(ぶつり)使いだしね』
「うーん、一応試してみましょう。えーと、≪温寒統一≫!」
あ、一応説明しますと魔法使いというのはいろいろありまして、一人一人が己だけの魔法を持ってるんです。
ずいぶん前に行われたお祭りで疑似魔物を作り出した魔法使いさんがいますが、その人はその人の魔法を持っているんです。
で、なにをどうすることで魔法使いとなるのか。端的に言いましては、虚構を現実にすることが出来る者を魔法使いだと私は定義しています。
例えば、先ほど例に挙げた方は恐らく、創造系の魔法使いなのでしょう。疑似であろうとも生命を生み出すというのは魔法なのです。
そして私の使用している魔法は、言霊。簡単に言ってしまうと、暗示です。
効果は極小範囲で、私の周囲数メートルぐらい。その範囲内であれば火の玉だろうと生み出せるんですが、その範囲から出れば消えます。でももし、その火が別の何かを燃やした場合、範囲から出ても副次的に生まれた火は消えません。そんな仕組みです。わかりにくいですね。
で、先ほど私が行ったのは、私の周囲温度を私の感覚で統一したということ。
「床冷たい……」
ですのでまぁ、対象は気温なんで物体の温度は変わらないんです。
「うぅ~、暖炉暖炉……木材はまだあったかなー。うん、これならしばらく保ちそう。≪火よ≫≪燃やせ≫」
手から生み出した火で木材を引火させ、完全に燃焼し始めたのを見届けた後は朝食づくりと行きましょう。この時期は保冷庫いらずなので氷の出費が安いですし、もちろん食材なんかもある程度は保存が利くのでこの時期だけの利点と言えば利点ですね。
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「どうもお久しぶりです」
『またお主か、魔女』
「いやーだってこの時期って水晶薔薇が採れるじゃないですか。あとはまぁ、契約に従ってということで」
『ふん、あの契約は半ば無理やりであろうが』
「といっても、そうじゃなかったら問題起こしまくってこの辺一帯ダメにしちゃうからじゃないですかー」
『まぁ、わたしも子供たちを殺されるのはいやであるしな。たまたまここに水晶薔薇が発生したのが運悪く、それを発見したのがお主のような魔女だったのが運良くできていたのであろうな。なれば、早々に用事を済ませるといい』
「はい、そうさせてもらいます」
現在私はいつもの森よりは少し北の奥まで来ております。
実はここに水晶薔薇が毎回この時期なると発生するので、採りに来ています。
で、先ほど私が誰と話していたのか疑問に思うかもしれませんが、まぁこの森の主さんです。
そうですね、姿形で判断するならえーっと、アルウラネ?でしたっけ。まぁ上半身が女性で下半身が植物|(薔薇)なんですよ。
ここのにある水晶薔薇を発見したのは全くの偶然なんですけど、その時にここの主さんと揉め事起こしましてね、いやそれがなんのそので、やっぱ神格化した魔物さんは強いんで、お互い痛み分けということにしたんですよね。それで、私は水晶薔薇にだけ目的があるって伝えたら、あの方はここら一帯を不用意に無作為に荒らさないというのを契約として、和平が結ばれました。
なので、私はその契約にのっとり毎時期ここにやってきては彼女と話し、それで水晶薔薇を一輪採れたら帰るということです。ちなみに、先ほどの契約には軽くこのあたりの自治的なものも含まれておりまして、森の領域から侵入してきた魔物を退けるか狩るかというのも私の役目だったりします。まぁ大体は彼女が全部やってるんですけどね。
「あー、ありましたありました。とりあえず、≪対象保護≫。で、あとはこの容器に入れて、おしまい」
無事水晶薔薇の群生している場所に辿り着き、一輪摘むと持ってきた保管器に入れてしまいます。
この薔薇はとても繊細でして、摘むときに少し力を間違えると粉々になってしまうんです。で、なぜだかわからないんですが摘まれなかった水晶薔薇たちは時期を過ぎると跡形もなく消えるそうです。でも、摘まれた水晶薔薇は衝撃を加えたりして壊さない限りは、輝き続けるんです。
まさしく、自然界の工芸品ですね。
『そうであった、魔女よ』
「はいはいなんでしょう?」
『先日このあたりにオークの集団が入ってきての。何か問題を起こされる前に、対処してきてもらえぬか?』
「いいですけど、一応案内してもらえますか?」
『うむ。我が子を一人つけよう。案内してもらえ』
彼女も、私がこの時期に来るとわかっていたから、恐らく放置してたんでしょうね。利害の一致なので、私も不平不満はありませんが。
そうこう言っている間に、案内役の子が現れました。
この子は彼女から派生して生まれたんですが、まだ若いようで意思伝達能力が備わってないようですね。それでも前を進んで行って、時折後ろを確認するのは優しさからでしょうか。
「ここ? あぁ、確かにこの穴倉は住みよいと思いますよ。あ、貴女はここで待ってもらえますか? すぐに終わらせるので、その証人と報告役として。はい、そんなに時間は掛かりません」
さて、ちゃっちゃと終わらせますか。
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『ご苦労であった』
「いえ、それじゃあ今日はこの辺で」
『次は来なくてよいぞ』
「それじゃあ次のこの時期まで。さようなら」
『さっさと帰るがよい』
ちなみに、水晶薔薇は市場価格で五万で売れました。(私の一週の稼ぎは五千です)
ちょっと説明とかいろいろ明かされましたね。






