行き遅れとか言った人は表に出ましょうか?
「あか~り、つけましょ、うなななな~」
「ドカ……お花をあげましょ、ハゲのはな~」
「ご~にんばやしの、ふえちょんぱー」
「きょ~あにたのしい、ひな祭り~」
『……なにそのこれじゃない感ありまくりな歌詞は』
「え、いやー口ずさんでみたらなんか、出て来たんですよね。ただ子供の頃はほとんど正規の歌詞じゃなくてこう、ブラックな替え歌があったものでしたから、それと混ざっちゃうんですよね~」
「なにそれ子供怖い」
「あっはっは~、まぁ何も知らないからこそ生まれた歌みたいなもんですからねー、実際に私が『ふえ』っていたところは『くび』に置き換えられてましたからね。一応私の今のは結構緩くしたものですよ?」
『その『ごにんばやし』っていうのが何か知らないけど、後ろの歌詞を見る限りに首のある生物だし、確実にその光景は猟奇的だよね……』
「そうですねー、今だからこそわかるってもんですよ」
『それで、その歌をなんで歌ったんだい?』
「ま、例にもれず私の住んでいた場所の記念日みたいなものですよ。特に、女の子のためにある」
『おん、なの……子?』
「ん?」
『何でもないです』
まったく、ポメちゃんはいっつもそういう冗談を言うんですから。
ええ、まったく。まったく。私はまだまだ若いんですよ? ピチピチなんですよ? わかってます?
あまり口を滑らせるというのは良くないと思うんです。口は禍の元と昔の人はよく言ったものです。
『そ、それで、その日はどういうことをするんだい?』
「そうですねー、最近の家庭ですとまったく見かけなくなったんですが、『雛壇』という、階段上の壇を用意するんです。そこに、上から女性のお雛様、男性のお内裏様、その下に三人官女、楽器を持つ五人囃子、まぁ他にもいろいろとあるんですけど、実際のところよくわかってないんですよね、私」
『へぇー、オンナノコなのに?』
「なにか?」
『いえいえ』
「で、まぁそれを家に飾るわけなんですが、一つだけ絶対に注意しないといけないことがあるんですよ」
『なんだい?』
「ええ、雛壇は飾ったら、ひな祭りの当日までに仕舞わないといけないんですよ」
『それ、もししなかったら?』
「なんでも、女の子は嫁げなくなるそうです」
『だったらアヤメには関係ないね』
よし、この子朝日を拝まないと宣言したんだ。
ならば、徹底的にいたぶるしかないね。今日に限ってこうも人の癪に障る部分をつっついて来るとは、確実に舐めているよね。うん。
「ああそれと、ひな祭り特有の食べ物で、雛あられというのもあって、もち米や豆を炒ったものを砂糖で味付けして、桃の色や草の色にすることで生命を象徴しているみたいですね。他にも菱餅と言って、名前の通り菱型のおもちなんですよ。それで、赤、白、緑の三色三段構造になっていて、赤は厄払いなどの桃、白は清浄を表していて、緑は穢れを祓う萌える若草を表現しているようですね」
『ふーん、それにしてもアヤメは雛壇のこととかはわかってないのに、食べ物はよく知ってるね。なんだっけ、花より団子? 色気より食い気? そんな言葉があったような……』
「ポ、メ、ちゃ~ん?」
いま、お前は言ってはいけないことを言ってしまった。
そう、言ってはいけないことだ。
『な、なんだいアヤメ? そんな怖い笑顔をして』
「ポメちゃんは~、もうちょっと~、女心というものを~、考えましょうね~?」
『ま、待って! 待ってよ! 待ってください!』
「無理☆」
さぁ、処刑の時間だ。
祈りは済んだか、この駄スコット?
今宵はただでは済まさんぞ。
実のところ正規な歌詞は知りません。