巳さんとあたし
幼い頃、草むらで、へびいちごを摘んでいたら、すっごい綺麗な白蛇さんに遭遇して、手に持っていたへびいちごを、どうぞって差し出したんですよね。じっとこっちを見ていた小さくてまあるい両目が、きらりと光ったかと思うと、かぷっといちごを食べられたんです。そのまま、するすると、首まで登ってこられて、以来、ずっと巻き憑かれたままで生活しています。
「ぐぇっ。若干首が絞まってますよー。巻き付くなら、手か足でお願いしますー」
巳さんは、首周りがお気に入りのようで、すぐにぐるぐる巻きついてきます。ひんやりしているので、最初は巻きつかれるたびに、ひゃっ、と声をあげてました。まあ、もう慣れたんですけど、冬場はちょっと勘弁してほしいですね。あと、愛情表現なのかなんなのか、ぎゅって絞められる時があって、首でやられると、今みたいになります。苦しいです。
「毎年思うんですけど、巳さんは、冬眠しないんですかー?あと、なんであたしにしか見えないんですかー?」
腕に移動してきた巳さんは、赤い舌をちろちろ出してこっちを見つめてきます。冬眠する気配なんか皆無っぽいです。なんか、普通の蛇さんとは違うみたいで、不思議な感じなんですよね。他の人にはまったく見えてないみたいで、だからずっと巻きつかれてても大丈夫ってのもあるんですけど。夜も一緒に寝てますが、冬眠っていうのは見たことないんですよね。蛇として大丈夫なのかな、この子、って時々思います。
それにしても、今日は一段と寒いです。駅から出ると、ぼたん雪が降り出していて、マフラーの中に首をうずめると、またもや、巳さんが首まで登ってきて、マフラーに紛れ込んできました。雪なんて、めずらしいので、ぼんやり空を見上げながら歩きます。ほわほわと舞い降りてくる白に知らず頬が緩みました。
「ほら、雪ですよー。巳さんと一緒ですねー。綺麗な白っ」
マフラーの隙間から、首をにょろっと出している巳さんに話しかけると、きらっと瞳を光らせ、ちょんちょんと鼻のうえにキスをしてきます。なんだ、このかわいい生物は。何年一緒にいても、ちょっとした仕種がとってもかわいいんですよね。はあ、やっぱり、巳さんは、冬眠しなくていいと思います。うん。
あたしが、巳さんのかわいさに悶えながら、空を眺めていると、雪にしては、すっごい大きな白を見つけました。ていうか、あれは雪なのか?ふわふわっぽいけど、猫の耳見たいなのが生えてるような……。ふよふよ浮遊してる?もしかしたら、巳さんのような不思議生物なのかもしれない、と思って一歩踏み出すと、首がきゅっと締まりました。
「ぐっ。わ、わかりましたから、首緩めてくださいー。はいはい、早く帰りましょうねー」
力を抜いてくれた巳さんの頭をちょいちょいと撫でると、ちろっと舌を出して、頬を舐められました。危ない、危ない。巳さんの機嫌を損ねるところでした。なんていうか、巳さんってあたしの意識に敏感っていうか、過敏っていうか、とにかく嫉妬深いんですよね。一度へそを曲げると長いし、迅速に対応しないと、えらいことになります。巻きついてはくるんですけど、ずっと目を合わせないとかね。ツンなのかデレなのかわからないっていう。巻きつく尻尾はデレ、ふいっと顔を背ける頭はツンってとこですかね。
「綺麗でかわいいって反則ですよー。何してても綺麗でかわいいんですから、もー」
巳さんのあごの下をくすぐってやると、まあるい目を細めて、気持ち良さそうにしています。それにしてもさっきの浮遊物体がとっても気になります。もしかしたら巳さんの仲間なのかもしれないので、また今度、この辺を探索に来ようと思います。そういえば、あの物体の下に、女の子がいたような気がしますしね。あたしみたいに見える子だったら、友達になりたいです。よしっ。巳さんの機嫌とりつつだから難しいかもですが、ちょっとがんばってみましょうか。
とりあえず、今日は、帰って、巳さんと戯れようかと思います。外だとあんまり構ってあげられないですからね。ほら、あたしが、独り言の多い不審者だと思われちゃうじゃないですか。え?そんなの今さら?そうですか。まあ、でも外では思いっきり遊べないのは事実なので、このへんで失礼しますね。もし、またあたしを見かけたら、声かけてくださいね。
読んで頂きありがとうございます^^巳さんバージョン。作者の癒されたい願望がダダ漏れな話。かわいさを表現できてるか謎なので、そこは皆様の妄想力で補完して頂ければw