第7話︰方解竜
~方解石の迷宮・???~
「グア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ」
大きく開けた空間に、竜の咆哮が響き渡る。人の背丈の数倍もの体躯を誇る白き竜が、その怒りに満ちた眼でウチを睨む。
咆哮に呼応するように、地面から6本の石柱が生え、ウチに向かって高速で伸びる。
刀に魔力を込めながら、竜に向かって駆け出す。
どこかの骨が折れているのか、1歩1歩のその度に身体に激痛が走る。無視する。
1本目の石柱が届く。
脚を止めずに、右に軽くステップし回避。
2本目、3本目の石柱が来る。
左へのステップで2本目を回避した後、極限まで姿勢を低くして駆ける。他よりも高い位置に伸びた3本目の石柱は当たらない。
残った3本の到達は既に遅く、その直線にしか伸びない石柱は、ウチがとっくに通り過ぎた場所へと向かう。
《月剣撃》を放った直後にウチが食らったあの石柱の攻撃は、地属性魔法『地槍』に近いものだろう。
あの時、咄嗟に身体の魔力強化を高めたおかげで、辛うじて戦闘に致命的な影響を与えるほどのダメージは受けなかった。
それでも、強化に使っていた魔力のほとんどを剥がされ、そのまま大きく飛ばされた身体は、この部屋の壁面に叩き付けられた。
次にあの技をくらえば、その時こそ一巻の終わりだろう。
6本の石柱を掻い潜り、白き竜に接近する。刀を構え、前に跳躍。爪での迎撃を身体を捻って躱し、竜の足首を《剣撃》で斬りつけながら股下を潜り抜ける。
浅い。竜は膝をつく様子もなく、そのまま竜の背面に出たウチに目掛けて巨大な尾を振り下ろす。真横に飛び、回避。
再び攻撃を入れようと竜の足元へ向けて駆ける。少しずつでも、足を斬りつけ続ければ、いずれはあの竜の動きを封じられるはずだ。
竜の足元に、魔力が集まっていく。
「っ!マズい!」
即座に全力で竜から距離を取る。
「グア゛ア゛ッ!」
短い咆哮とともに、竜の両足の周りから、無数の細い石柱が全方位に勢いよく突き出した。
間一髪、石柱の攻撃範囲から逃れられたが、あの攻撃があるとなると、足元にも迂闊に近付けない。空中では石柱の攻撃が避けられないから、大きく飛び上がっての攻撃も出来ない。一手ずつ、敗北、即ち死へと詰められていく感覚がする。
「いやだ。」
まだ勝ち筋はある。《月剣撃》の傷は胸に大きく残っている。あの技をもっと、致命的な部位に打ち込められれば。どうやって?
「いやだっ!」
胸を斬っても心臓部の核まで届かなかった。首や頭は、全力で飛べば届くが、地を離れれば攻撃を回避出来なくなる。次にあの竜の攻撃を受ければ、きっと……
「いやだっっ!まだ、こんなところで死にたくないっ!」
封じ込めたはずの恐怖が再び湧き上がってくる。
「うわあぁぁぁぁっ!」
恐怖をかき消すように叫びながら、刀に再び魔力を込める。一か八か、全力の踏み込みで最速の跳躍を行い、竜が攻撃を放つ前に一撃で首を断ち切る、これしかない。
覚悟は決まった。
駆ける。
駆ける。
駆ける。
魔力を限界まで刀に込めながら。
竜はこちらを睨み、腕を振り上げ、迎撃の構えを見せる。
その間合いへ入る、数歩前の辺りに、踏み込み位置を定め、歩数を数える。
残り2歩、
刀の魔力が最高潮に達し、深い青の輝きを放つ。
残り1歩、
踏み込む足へ魔力を流し瞬間的に強化する。
残り、0歩。
「っ!」
全力の踏み込みの瞬間、折れた骨に凄まじい痛みが走った。
ほんの少し、踏み込みが浅くなった。
ほんの、少しだった。
しかし、
宙へ飛び出した身体の速度はその分僅かに遅れ、空を切るはずだった腕の一撃は、ウチの下半身を捉えた。
腰から下を砕かれたまま、宙を舞い、落ちる。
竜が、こちらを見ている。
竜の足元に、魔力が集まる。
「い、いや……だ………」
白い石柱が、竜の足元から生えてくる。
石柱が、ウチに向かって加速しながら伸びる。
加速しながら、伸びる。
「っ!!!」
あぁ、死ぬんだ、ウチ。
「アレスっ、防げ!」
「《魔崩剣》っ!」
いつの間にか目の前にいた金髪の剣士が剣を振り下ろすと、ウチの命を奪うはずだった石柱は一瞬にして砕け散った。
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転移空間に入った先に、ボロボロのシズクと今にもトドメを刺そうとする白い竜がいた。あの白い竜、恐らく方解竜だ。胸に大きな傷が付けられている。シズクがやったのだろう。
アレスは方解竜の魔法を期待通り防いでくれた。護剣術の奥義の1つ、《魔崩剣》。魔法で形作られた現象を斬り裂き魔力へ還元する絶技だ。
「アレスはそのままシズクを護っててくれ。」
「任せな。」
さて、間一髪シズクは生きてたみたいだが、こいつを倒さないと俺たちは結局ここから出れないらしい。
槍を構える。
竜は、新たな敵たちに殺意をばら撒きながら、地へ魔力を流している。さっきの地属性魔法の準備だろう。
竜へ向かってゆっくりと歩き出す。
槍に魔力を込めたまま、クルクルと大きく振り回す。お前の敵はこっちだと、竜へ分かりやすく伝えるように。
「グア゛ア゛ア゛ァ」
挑発に応じるよう、竜は俺を睨みつけてきた。
竜の足元から6本の石柱が襲い来る。
呼吸を落ち着かせ、そっと唱える。
「『無彩世界』」
その瞬間、世界から色が消えた。




