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険しきを冒す者たち  作者: 村松 柊榎
第一章:紅の終止符
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第7話︰方解竜

 ~方解石の迷宮・???~



「グア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ」


大きく開けた空間に、竜の咆哮が響き渡る。人の背丈の数倍もの体躯を誇る白き竜が、その怒りに満ちた眼でウチを睨む。


咆哮に呼応するように、地面から6本の石柱が生え、ウチに向かって高速で伸びる。


刀に魔力を込めながら、竜に向かって駆け出す。


どこかの骨が折れているのか、1歩1歩のその度に身体に激痛が走る。無視する。


1本目の石柱が届く。


脚を止めずに、右に軽くステップし回避。


2本目、3本目の石柱が来る。


左へのステップで2本目を回避した後、極限まで姿勢を低くして駆ける。他よりも高い位置に伸びた3本目の石柱は当たらない。


残った3本の到達は既に遅く、その直線にしか伸びない石柱は、ウチがとっくに通り過ぎた場所へと向かう。


月剣撃(クレセントスラッシュ)》を放った直後にウチが食らったあの石柱の攻撃は、地属性魔法『地槍(アースエッジ)』に近いものだろう。

あの時、咄嗟に身体の魔力強化を高めたおかげで、辛うじて戦闘に致命的な影響を与えるほどのダメージは受けなかった。

それでも、強化に使っていた魔力のほとんどを剥がされ、そのまま大きく飛ばされた身体は、この部屋の壁面に叩き付けられた。

次にあの技をくらえば、その時こそ一巻の終わりだろう。


6本の石柱を掻い潜り、白き竜に接近する。刀を構え、前に跳躍。爪での迎撃を身体を捻って躱し、竜の足首を《剣撃(スラッシュ)》で斬りつけながら股下を潜り抜ける。


浅い。竜は膝をつく様子もなく、そのまま竜の背面に出たウチに目掛けて巨大な尾を振り下ろす。真横に飛び、回避。


再び攻撃を入れようと竜の足元へ向けて駆ける。少しずつでも、足を斬りつけ続ければ、いずれはあの竜の動きを封じられるはずだ。


竜の足元に、魔力が集まっていく。


「っ!マズい!」


即座に全力で竜から距離を取る。


「グア゛ア゛ッ!」


短い咆哮とともに、竜の両足の周りから、無数の細い石柱が全方位に勢いよく突き出した。


間一髪、石柱の攻撃範囲から逃れられたが、あの攻撃があるとなると、足元にも迂闊に近付けない。空中では石柱の攻撃が避けられないから、大きく飛び上がっての攻撃も出来ない。一手ずつ、敗北、即ち死へと詰められていく感覚がする。


「いやだ。」


まだ勝ち筋はある。《月剣撃(クレセントスラッシュ)》の傷は胸に大きく残っている。あの技をもっと、致命的な部位に打ち込められれば。どうやって?


「いやだっ!」


胸を斬っても心臓部の核まで届かなかった。首や頭は、全力で飛べば届くが、地を離れれば攻撃を回避出来なくなる。次にあの竜の攻撃を受ければ、きっと……


「いやだっっ!まだ、こんなところで死にたくないっ!」


封じ込めたはずの恐怖が再び湧き上がってくる。


「うわあぁぁぁぁっ!」


恐怖をかき消すように叫びながら、刀に再び魔力を込める。一か八か、全力の踏み込みで最速の跳躍を行い、竜が攻撃を放つ前に一撃で首を断ち切る、これしかない。


覚悟は決まった。


駆ける。

駆ける。

駆ける。

魔力を限界まで刀に込めながら。


竜はこちらを睨み、腕を振り上げ、迎撃の構えを見せる。


その間合いへ入る、数歩前の辺りに、踏み込み位置を定め、歩数を数える。


残り2歩、

刀の魔力が最高潮に達し、深い青の輝きを放つ。


残り1歩、

踏み込む足へ魔力を流し瞬間的に強化する。


残り、0歩。


「っ!」


全力の踏み込みの瞬間、折れた骨に凄まじい痛みが走った。

ほんの少し、踏み込みが浅くなった。

ほんの、少しだった。

しかし、


宙へ飛び出した身体の速度はその分僅かに遅れ、空を切るはずだった腕の一撃は、ウチの下半身を捉えた。


腰から下を砕かれたまま、宙を舞い、落ちる。


竜が、こちらを見ている。


竜の足元に、魔力が集まる。


「い、いや……だ………」


白い石柱が、竜の足元から生えてくる。


石柱が、ウチに向かって加速しながら伸びる。

加速しながら、伸びる。


「っ!!!」


あぁ、死ぬんだ、ウチ。





「アレスっ、防げ!」

「《魔崩剣(ディスペラート)》っ!」


いつの間にか目の前にいた金髪の剣士が剣を振り下ろすと、ウチの命を奪うはずだった石柱は一瞬にして砕け散った。


~~~~~~~~~~


転移空間に入った先に、ボロボロのシズクと今にもトドメを刺そうとする白い竜がいた。あの白い竜、恐らく方解竜だ。胸に大きな傷が付けられている。シズクがやったのだろう。

アレスは方解竜の魔法を期待通り防いでくれた。護剣術の奥義の1つ、《魔崩剣(ディスペラート)》。魔法で形作られた現象を斬り裂き魔力へ還元する絶技だ。


「アレスはそのままシズクを護っててくれ。」

「任せな。」


さて、間一髪シズクは生きてたみたいだが、こいつを倒さないと俺たちは結局ここから出れないらしい。


槍を構える。


竜は、新たな敵たちに殺意をばら撒きながら、地へ魔力を流している。さっきの地属性魔法の準備だろう。


竜へ向かってゆっくりと歩き出す。


槍に魔力を込めたまま、クルクルと大きく振り回す。お前の敵はこっちだと、竜へ分かりやすく伝えるように。


「グア゛ア゛ア゛ァ」


挑発に応じるよう、竜は俺を睨みつけてきた。


竜の足元から6本の石柱が襲い来る。


呼吸を落ち着かせ、そっと唱える。


「『無彩世界(モノクロームワールド)』」


その瞬間、世界から色が消えた。

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