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険しきを冒す者たち  作者: 村松 柊榎
第一章:紅の終止符
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第5話︰罠

 ~冒険者クラン・「バベルブリゲード」仮拠点~



「って事があってな。それ以降、シズクはここに顔を出さなくなったんだ。他のメンバーとも会ってないらしい。」


あれから数日が経った。シズクのやつはどうしているだろうか?俺はミラに今回の顛末を語りながら考える。


「そっか……えと、大丈夫?」

「そうだよな、心配だよな。シズクのやつ、あんな形でクランから出て行っちまって。方解石の迷宮は自分の強さに合った階層を選べば魔物はそこまで危険じゃ無いけど、知ってないと命に関わるような罠が生成されることがある。単独で潜って、アイツがまだ知らない罠に掛かりでもしたら……」

「うんう、そうじゃなくて。ノアルさん、大丈夫?」


え、俺?


「とても酷い顔してる。あの子を引き留められなかったこと、気にしてるんだよね。」

「そ、それは……あぁ。俺なら、アイツの気持ちを分かってやれたはずなんだ。それに、ダルトの奴なら、きっと俺よりも上手くやれた。なのに……」

「ノアルさんっ!」


ミラが、少し大きな声で、俺の名前を呼び、言葉を制止する。彼女は、とても心配そうな顔をしていた。そんなに、俺は落ち込んで見えたのだろうか。


「ノアルさんは、すごく頑張ってくれてる。あの人みたいには出来なくても、私たちの事をいつも考えてくれて。ずっと、このクランを、私たちの居場所を守ってきてくれた。」

「でも……」

「それにっ!私を救ってくれたのは、ノアルさんだよ。あの人じゃない。」

「ミラ……」


ミラが、泣きそうな顔で俺を見てくる。あぁ、仲間にこんな顔をさせるようじゃ、やっぱり俺はマスターとして落第点だな。でも、


「ありがとうな、ミラ。」


こうやって、俺を認めてくれる人が居るんだから。こんなところでウジウジし続けてる訳にはいかないな。


「シズクを探しに行ってくる。」



 ~冒険者ギルド・フュージア支部~



冒険者ギルド。依頼の仲介、冒険者の功績やランクの管理、各地の迷宮の調査などを行う、どこの国家にも所属しない機関。主要な都市や迷宮街の殆どに支部が存在し、冒険者は各支部にて依頼の受注、報告などを行っている。


「なぁ、シズクを見なかったか?桃髪でやけに面のいい女剣士なんだ。」


冒険者が来そうな場所は、だいたいこのギルド支部の付近に集中している。武器屋、防具屋、ポーションやスクロールなどが売られている魔道具店、冒険者同士の会合でよく使われる酒場、低級冒険者向けの安宿、と冒険者に必要な店がギルドの近辺に多く作られるからだ。この傾向は迷宮街だと特に顕著に出る。つまり、冒険者を探すならこの辺りで聞き込みをするのに限るという訳だ。

彼女が宿に戻るのを待ってもいいのだが、何故か、今彼女を探さないと、何かが手遅れになる、そんな気がした。


「あぁ、その人ならちょっと前、迷宮に向かう道ですれ違ったよ。」


何人かに話を聞き、有力な情報を得られずにいて、そろそろ場所を移そうかというところで、迷宮帰りの冒険者からシズクのことを見たと聞く。


「そうか、助かった。」


懐から銀貨を1枚取り出し、情報提供者に指で弾いて渡す。

背を向けて歩き出しながら後ろに向かって硬貨を飛ばす、格好付ける為に練習した動作は完璧に決まり、銀貨は地面に落ちたりせず彼にキャッチされたのだろう。振り向いて確認したりはしていないがタイルに硬貨が落ちたような音はしなかったから大丈夫だろう。


きいいいいい


冒険者ギルド支部の木の扉が開く。颯爽と立ち去ろうとしていた俺が向かっていた、出入口の扉だ。


「お、ノアルじゃないか。君も依頼探しかい?」


入ってきたのは、無駄にイケメンな剣士だった。


「いや、人探しだよ、アレス。」


~~~~~~~~~~


「って事で、俺は今から迷宮を見に行くつもりだ。ちょうどいい、アレスも来てくれるか?」

「それはいいけど、あの子を探してどうするんだい?」

「もう一度だけ、話がしたい。それでダメだったら、まぁ、諦めるよ。」

「分かったよ。僕も、彼女のことは少し気がかりだったんだ。」



 ~方解石の迷宮・第3層~



「シズクさん、なかなか強いねぇ、驚いたよ。」


ウチを勧誘してきた魔法使いの男、マイル・フェアレードというらしい。彼とパーティを組み、迷宮へとやってきた。ほかにもう1人、黒いフードを被った剣士の男を加えた3人パーティだ。


「おっと、この辺は罠が多い。俺たちはよく探索しているエリアだから詳しいけど、気をつけてね。」


魔法使いの男マイルは、得意げにこの辺りの罠について解説しながら迷宮を進んでいく。ほとんどが、ウチも知っている内容だ。


「詳しいんですねマイルさん、とっても頼りになります!」


関心した風を装い彼を持ち上げておく。


「マイル、この辺だ。」

「おっと、そうだったね。」


今まで、あまり喋らなかった剣士の男がマイルに何かを伝えると、マイルは足を止めた。


「シズクさん、あそこの空間を見てごらん。」


マイルが指を刺した先、迷宮の通路の横穴の先、少し広い空間。何も無いように見えて、地面にうっすらと円形の文様が描かれている。


「なんですか、これ?」


珍しいものを見たような感じで、近づいて観察してみせる。まぁ、知っているが。


「これも罠だよ。転移の罠、この部屋に入ると罠が起動して、別の空間に飛ばされてしまうんだ。この罠の先は、強大な魔物がいる部屋で、そいつを倒さないと脱出出来なくなっているんだよ。」


方解石の迷宮の浅層で最も注意しなければならない罠だ。知ってさえいればまず引っかからないが、知らずにこの部屋に入ってしまえば致命的である。


「なるほど、恐ろしいですね。気をつけないとです……?!」


振り向こうとした瞬間、背中を強く押され、罠の空間へと足を踏み入れる。

足元の文様が光と魔力を放ち、どこかへと飛ばされる寸前、振り向く。


「地獄に堕ちろ、【傾国姫(スカーレットピリオド)】。」


冷たい声を飛ばしてきたのはマイル、いや。思い出した。彼は、そうだ。かつて、ウチが壊したクランのマスターだった。


直後、視界が一瞬にして切り替わった。

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