第4話︰ノアルの秘策
~迷宮街フュージア・街中~
「で、あんなこと言ってたけど、何か作戦でもあるのかい?」
シズクの借りてる宿から帰る道中、同行していたアレスに聞かれる。
「あるぜ。とっておきのが、な。実際に見た方が早いぜ。そうだな、まずはアイクの奴だな。アレスはどこかで隠れて見ててくれ。」
「隠れてないとダメなのか?」
「あぁ、ダメだ。この作戦の場に、アレス・ゼプテンバルは居てはならないのだよ。」
~迷宮街フュージア・裏路地~
「どうしたんだマスター、こんな所に呼び出して。」
「アイク、お前にだけは伝えておこうと思ってな。誰にも言うなよ。」
「お、おう。」
アイザック・ディセンバー。クランいちのお調子者の魔法剣士。最近はシズクにご執心である。この前なんて「シズクちゃんがさ、俺のことスッゲェ頼りにしてくれてさ!この前も一緒に迷宮に潜ったときもさ……………って事があって、多分、もしかするとだけど、シズクちゃんはオレの事が、す、好きなんじゃないかな!」とか俺に言ってきた。
「実は、シズクの事なんだけど、」
シズクの本性をバラしてやってもあまり意味は無いだろう。「シズクちゃんはそんな子じゃない!」とか言ってくるのが目に見えている。だから、
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「そ、そうか。そうだよな、シズクちゃんが俺なんかを相手にする訳ないよな、グスッ。」
「まぁ、ドンマイ。」
アイザックの肩をポンっと叩いて、その場を去る。やはり、効果は覿面のようだ。
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「な、上手くいっただろ?」
「そ、そうだな。」
陰から見ていたアレスと合流する。とっても微妙そうな顔のアレスが待っていた。
「よし、この調子で皆の目を醒ましてやろう!」
「あれを、全員に言うのか?」
「ったりめーだろ!」
アレスの顔がさらに引き攣った気がした。
~冒険者クラン「バベルブリゲード」仮拠点~
「あんたたち、いったい何をしたの?」
アレスと2人でギルドに提出する書類を整理しているとき、シズクが険しい顔で問いかけてきた。他のメンバーはこの場に居ない、タイミングを図っていたのだろう。怒り、戸惑い、驚愕、その辺りの感情が入り交じったその表情は、今まで見せてきた余裕のある笑みとは似ても似つかない。
「どうした?ある日を境に男たちが言うことを聞いてくれなくなった、か?」
「そうよ!あなたたちが何かしたんでしょ!」
「言ったろ、目を醒まさせるってな。それを実行しただけさ。」
「無理よ!例えウチの正体をバラしたところで、彼らは信じないはずよ!」
まぁ、そうだろうな。
「何かを言えば、仲間はどんな事でも信じられる、そういうマスターもいるわ。でも、あなたからはそういったカリスマは感じられない、そういう人がマスターのクランはウチは狙わないもの。」
それも、そうだな。俺には、“あの男”と違って、そんなカリスマは無い。
「なのに、いったいどうやったの!」
「なぁ、シズク。俺は一言も言ってないぜ。『お前の正体をバラしてやる』なんてな。」
「えっ」
シズクの困惑の表情がさらに深くなる。
「お前のやり口はこうだろ、男たちにあたかも好意を持ってるような接し方をして、勘違いした男たちを感情で従わせる。誰もが、自分だけ特別に扱われているような錯覚をさせて、な。」
「……そうよ。」
「でも、お前は誰に対しても、『好き』だなんて、口にはしていない。どうしてだ?」
「そ、それはっ、」
「あぁ、答えなくてもいいぞ。分かりきってるからな。『プライド』だよ。お前はあくまで、あいつらが勘違いして、勝手に君に協力している、という建前がなければ行動できない。」
「なっ!」
「何故分かるかって?俺も、同じだからだよ。しょうもないプライドが邪魔して、一番効率的な手段が取れない。どこか、やり方に美学を求めてしまう。お前と俺は、よく似ている。」
そして、やり方に拘れば、必ず穴は生まれる。
「勝手に勘違いしているだけなら、その勘違いをとけばいい。もっと言えば、別の勘違いをさせればいい。」
「別の、勘違い?」
「そう、今のアイツらの中ではな、シズク・カンナヅキが愛している男は、こいつだよ。」
俺は、隣の男を指さし、言い放つ。
「バベルブリゲード随一の、最強のモテ男。【女泣かせ】アレス・ゼプテンバルだよ。」
少し、敵意が籠ってたかもしれない。
あははー、と苦笑いを浮かべる、無駄に面のいい男を横目に、俺は怒りの滲んだ声で説明する。
「見なよ、このアレスを。物語に登場する王子様のような金髪と碧い瞳、凛として、でも少し幼さとあどけなさを残した顔、これでいて騎士養成校に通ってた経験から女のエスコートがやけに上手かったりするこの男はなぁ、モテるんだよ!とてつもなくな!」
「だから何だって言うのよ?」
急にキレはじめた俺にシズクは困惑しているようだが、気にしない。この話をすると、どうしても嫉妬心を制御出来ないんだ。
「俺たちバベルブリゲードは、今までずっと見てきたんだよ。この男がモテるところをな!合同で大型依頼を受けたクランにいた女も、ギルドの受付嬢も、迷宮内で助けてあげた女冒険者も、みんなアレスが持っていくんだ!俺たちはなぁ、アレス・ゼプテンバルに勝てない事を、よく知っている!だから、お前がアレスに惚れたって聞けば、簡単に信じちまうんだよ!」
そして、自分に向けられていた笑顔は、優しさは、決して好意などではなかったと思い知る。シズク・カンナヅキが見せた夢は、希望は、アレス・ゼプテンバルという現実に、絶望に、あっという間に塗り替えられる。
「そんなの、ウチが否定すれば……」
「無駄だよ。今のお前が否定しても誰も信じない。人の心を誘導し利用してきたお前なら、分かるだろ。お前の負けだ、シズク・カンナヅキ。」
勝利宣言。シズクは、打開策でも考えてるのか、静かに険しい顔をしている。
「なぁシズク、教えてくれ。どうして、こんなやり方をするんだ?お前の実力なら冒険者としてやっていくのには困らないはずだ。どうしても成し遂げたい事がある、とかなら教えてくれ。普通に頼んでくれれば、俺だって協力する。だから……」
「嫌よ。」
即答だった。
「あなたなんかに、ううん、あなただけには、頼まない!ウチを助けてくれる人なんて、どこにでもいるのよ。そう、別にこのクランじゃなくてもいいのよ。」
そう言い、シズクは立ち去っていく。
「待て、シズクっ!」
「さようならノアルさん。ウチは、ウチのやり方で、目的を果たすわ。」
こうして、シズク・カンナヅキはバベルブリゲードを去っていった。
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「なんでだよ、なんで、俺を頼らないんだ。」
「ノアル、君が言ってただろ?シズクは自分と似てるって。プライドだよ。あの子は、正面から人を頼れないのさ。あの頃のノアルと同じだよ。」
「あぁ、確かにそうだったな。俺がここのマスターを継いですぐの頃は、自分の力だけでなんとかしなきゃって、躍起になってたぜ。」
「あとは、同族嫌悪だろうな。自分とそっくりで、自分を心から理解できるような奴にだけは、助けてもらいたくないんだろう。」
そうか。まぁ、分かっちまうよ。その気持ちも。
~迷宮街フュージア・街中~
「はぁ、まさかあんな方法で妨害されるとはね。」
シズク・カンナヅキは1人呟く。
「さて、次の寄生先を探さないと。」
シズクにとって、別に初めての失敗ではなかった。かつては大失敗して逃げるように遠くの街にひとりで旅をした事だってある。でも、
「はぁ。」
何故か、今回はいつもより気が重かった。
「お姉さんお姉さん、君冒険者だよね?ちょっといいかな?」
声を掛けられ、振り向く。冒険者らしき、魔法使いの男だ。
「そうよ。何か用かしら?」
「いやぁ、うちのクランで前衛できる冒険者を探してるんだ。君、剣持ってるし、どう?まずは試しに俺たちのパーティと迷宮に行ってみない?」
こういった勧誘はよくある。冒険者の、特に近接戦を主とする者の半数ほどはクランに所属していないフリーの冒険者だ。迷宮街の大通りなんかだと、勧誘で片っ端から声を掛けてる人も度々見かける。
「いいんですか!ぜひお願いします!」
とびきりの笑顔で申し出を受ける。声を掛けてきた男は、自分たちのクランを案内すると歩き出して、
その顔が、どこかで見覚えのあるような気がした。




